雪
こんなにも。
雪 雪が降る。
音も無くただ降り続けて、一面を真っ白に変えて。
白を見ると、思い出す。
「総司」
ただ、ひとりを。
雪が、降る。
暗く曇った空を見上げた。
雪が目元に落ちて、解ける。
それはそのまま凍えた頬を伝って。
まるで、涙のよう。
そう思って、最後に泣いたのはいつだと、自嘲気味に笑った。
白は、お前を思い出させる。
こんなにも降り積もる雪を、見たことなど無いだろう。
風に吹かれて、舞って、一瞬のうちに景色を変える。
総司。
蝦夷の雪は、さらさらなんだ。
お前にも、見せてやりたい。
隣に居たならば。
お前は、綺麗だと言って。
楽しそうに、はしゃいで。
きっと、いつものように微笑って見せただろう。
その微笑みすら、もう遠い。
最期の時を、思い出す。
なぁ総司。
お前は最期まで笑顔でいようと。
決して泣くまいと。
必死に。
見ていた俺が、泣きたくなるくらいに。
我慢して。
綺麗に微笑って見せた。
その瞳が涙に濡れる前の、あの色を。
俺は忘れないと、思った。
思わず抱き締めた身体は、もう信じられないくらいに細くて。
折れてしまいそうで。
消えて、しまいそうで。
その儚さに、俺は思いたくない恐怖を予感した。
願っていたのに。
最期だと、分かっていたから。
淡い希望と、深い絶望を抱いて最期の約束を。
叶うことは無いと、分かっていたけれど。
お前を置いて去る、自分への言い訳のように。
離れるなと言う言葉さえ。
自ら破り捨てて。
全て、分かっていたはずなのに。
俺は、卑怯だ。
なのにお前は笑って見せた。
お前の笑顔に、救われて。
許されるはずは無いのに、全てを許されたような思いが込み上げた。
「総司」
……果たしてお前は、幸せだったか。
雪が、降る。
足跡さえ、消して。
立ち尽くす。
土方さん
お前の声が。
この雪が、懐かしく思えるのは何故だ。
この白さか。
この、儚さか。
冷たい雪が、俺の目元で解けて。
流せなくなってしまった涙の代わりに頬を伝う。
お前以外。
思い出せるのは、あの笑顔。
あまりにも、鮮やか過ぎる。
手離してしまったのはこの俺。
もう、どこにも居ないのだと、虚無感だけが湧き上がる。
お前が居ない。
それはまるで、もう何もかも失ってしまったかのようで。
こんなにもお前だけを望んでいるのに。
お前だけしか望んでいなかったのに。
それ以外、何も
望みはしなかったのに。
「貴方は、死ぬために蝦夷(ここ)まで来たのですか」
馬鹿野郎。
嘲笑う。
…死ぬために…?
--------否 違う。
生きるために。
己らしく、在るために。
今は、お前すら失くして。
それでも、前に進むしかないと。
全てが消えるのは、きっともうすぐ。
--------いつか最期の時が来て 懐かしいものたちと
再び 逢う日のために--------
それまでは。
「このままじゃあ…終われねぇだろうが」
雪が、白く舞う。
思い出すのは、ただひとり。
なぁ。
「総司」
俺は。
この腕は、お前を守れたか。
ただ
それだけを。
終
土沖