Hold me little tighter
お願い 、 その 腕 で、
Hold me
little tighter 『もう少しで帰る』
少し遅くなるから、先に帰ってろ、って言われて土方さんのアパートにひとりでやって来たのが2時間ほど前のこと。
帰って来たらお腹空かせてるよね、なんて思って帰る途中に買い物をして、綺麗な台所を借りて(当たり前、土方さんは自炊なんて滅多にしないから)ちょっとした夜ご飯を作って、ちょこんとソファに座りながらカフェオレを飲んでいた僕の携帯が震えたのはついさっき。
携帯の時計は、もう少しで20時30分になるところ。
やっと帰って来る、なんて思いながら立ち上がって、シーフードと野菜たっぷりのシチューに火をつける。
ことこと、鍋が鳴り出すのと同じくらいに、シチューのいい匂いが鼻を掠めた。
作ったのはシチューとサラダだけ、なんだけど。
土方さん、喜んでくれるかな、喜んでくれるといいな、なんてひとりで少し頬を緩めた。
最近近所に出来たと言うおいしいパン屋さんに行って、フランスパンと、それに相性が良いと謳っていたクリームチーズも買って来た。
パンでも切ろうかな、なんて包丁を出したところで玄関のチャイムが鳴る。
タイミング的に、土方さんなのは間違いない。
鍋の火を止めてからぱたぱたと玄関に向かって走って、念のためのぞき穴から姿を確認。
羽織ったコートの開いた襟元から、ネクタイを緩めた首元が見える。
鍵を持ってるくせにチャイムを鳴らす、なんて。
おかえり、ってお出迎えしてほしい、って言っているようなもので。
可愛いな土方さん、なんて思いながら、鍵を開けた。
「おかえりなさ、…っ」
おかえりなさい、って全部言う前に、いきなり腕が伸びて来て引き寄せられた。
カチャン、ドアが閉まるのが少し遠く聞こえる。
顔を寄せたコートからは、いつもの土方さんのにおい。
煙草と、ほんのり香る香水の混じった、僕の好きなにおいだった。
「土方さん…?」
何も言わないで抱き締めて来る土方さんの背中に手を回して、そっとそこに触れる。
「いいにおいがするな」
「…あ、シチュー作ったから、それの、」
「…いや、お前が」
「なっ、」
いきなり首元に顔を埋められて、べろりと舐め上げられた。
生温かい感覚に、つい肩を竦めた。
「何、いきなり盛ってるの?」
「あ?別に盛ってねぇよ」
そんなことを言いながらも、土方さんの手は僕の背中から腰に回って、つよく引き寄せられた。
「ね、早く中に…っ」
玄関だって、決して暖かいところじゃないんだから、そんな思いで口を開いたら、そこに土方さんの口唇が降って来た。
話してた途中だった開いた口の中に、土方さんの熱い舌が滑り込んで来てそのまま絡められる。
息が苦しくなるまで離されなくて、土方さんの背中に回した手に力を込めたら、角度を変えてもう一度。
「…っふ、ぁ…っ」
土方さんは、キスが巧い。
(一度言ったら、ガキとは場数が違う、って言われてイラッと来たからそれ以来言ってないけど、)
こうしてキスをされてるだけで、身体の芯が蕩けていくような感じ。
ふわふわ、身体に力が入らなくなる。
(…すっごい、気持ち、いい)
まともに立ってられなくてバランスを崩し掛けて、壁に背中を預けた。
ぎゅ、っと瞳を閉じて、土方さんの口唇と舌の熱に神経を集中させる。
やっと口唇が離れたかと思うと、今度は頬にキスをされた。
「…もう、ぐだぐだか?」
「っ誰のせいだと、」
「俺だな」
そう言って土方さんは喉の奥で低く笑うと、いきなり僕を抱き上げた。
「…っえ、」
いわゆるお姫様抱っこ状態で部屋の中へ。
決して僕は背も低くないし、がりがりに痩せてる訳でもないからそれなりに重いはずなのに、土方さんは平然と僕を抱いて歩いて行く。
どさ、っとソファに投げられるように置かれて、非難の声を上げようと顔を上げたらコートを脱いで薄く笑ってる土方さんが視界に入った。
緩めてたネクタイに指を差し込んで更に緩める姿は、いつ見ても大人の色気を感じてしまう。
ふとした時に感じる、土方さんの”大人”さ。
どれだけ僕が足掻いたって、僕はまだまだ大人にはなれなくて。
それがたまに、本当にたまに、寂しい、って。
思うことが、あるけれど。
「随分と、…大人しいな」
「え…?」
ソファに半端に座った僕に跨るように、土方さんはゆっくりと身体に圧し掛かって来た。
「何を、考えてる?」
「…別に」
「そうか」
低く土方さんはそう言うと、僕の頬に手を伸ばして長い指先で何度か撫でると、掌で包み込む。
大きくて、あたたかい手。
その感触が心地良くて、知らず瞳を細めてしまう。
「総司、今日は何の日だっけ?」
「え、……バレンタインデー?」
「どういった、趣旨の日なんだ?」
意地悪く、土方さんが笑う。
でも。不意に、そんな土方さんが何だかとても可愛らしく、愛しく思えた。
軽く圧し掛かる土方さんの首元に腕を差し伸ばして、そっと抱き寄せた。
「…土方さん、好き」
僕の言葉に、土方さんは満足そうに瞳を細めて笑った。
「…いい子だ」
僕の頬に触れたその手の、親指の腹で頬を撫でて、また笑う。
ゆっくりと近付いて来る紫紺の瞳を見つめて、口唇が触れ合う直前に瞳を閉じた。
ちゅ、と一度口唇を軽く合わせられて、それから次第に深く。
蕩けるようなキスを、何度も、何度も交わす。
そのうち、土方さんの手が僕のシャツを制服のスラックスから引き出したかと思うと直に肌に触れた。
腰の辺りを指先で僅かに掠められて、身体が揺れる。
その手は、腰を、脇腹を這って、ベルトに辿り着いた。
カチャカチャと乾いた金属音がするのを、頭の何処か遠くで聞きながら、執拗に絡められる舌先に自分のそれを絡める。
ぴちゃ、なんてたまに鳴る濡れた音が酷く卑猥で、頬が上気するのが分かる。
口唇が離れて見つめ合うと、息が切れてるのは僕の方だけで、何だか僕だけ必死みたいで癪だった。
緩められたワイシャツの胸元を掴んで引き寄せて、キスを強請る。
土方さんは笑って僕の口の端にキスをして、首筋に顔を埋めた。
そのまま口唇が首筋を辿って、鎖骨の窪みを舌先で舐められたかと思うとそこにちり、と鋭い痛みが走った。
鎖骨の下にきつく口唇を寄せている土方さんを見て、あぁ、痕を付けられた、って気付く。
じわりと鬱血したそこが、熱を持つ。
キスマークは所有の証、なんて言うけれど。
明日そう言えば体育あるのに着替えにくいな、なんて思いながらも、僕の身体に痕を残す土方さんの口唇は、やっぱり愛しい。
「…ひじかた、さん」
呼ぶと、土方さんは小さく笑って今度は僕の胸にキスをした。
小さく尖ったそこを舌先でちろちろと舐めて、口唇を寄せて吸い上げられる。
「ぁ、…っ」
僕が、そこが弱いのを知ってるくせに。
意地悪く、舌で舐め付けて。
土方さんの手が、下着の上から、僕自身に触れた。
「…や…っ」
直接触れられるのとはまた違う感触に、肩が揺れる。
自分だけ昂らされるのは嫌だって思いと、それでももっと触って欲しいって思いが複雑に入り乱れた。
「…っせんせ、…」
不意に零れた声に、土方さんが薄く笑う。
「…こんな時ばかり、”先生”って言うのか?」
言いながらも、満更じゃない様子なのは気のせい?
「まぁ、そんなシチュエーションも悪くねぇか」
「…変態」
「そんなに酷くされてぇか」
頬を歪めるように土方さんが笑う。
とんでもなく整った顔がその笑い方をすると、酷く官能的なこと、このひとは、知ってるんだろうか。
「酷く、…してもいいよ」
ぞくり、身体が疼くまま言うと、土方さんはすぅ、と紫紺の瞳を細めた。
「…でも、」
切れ長の、綺麗な瞳が僕を熱く見つめて来る。
それだけで、僕の身体は熱を帯びるんだ。
「最後は、ちゃんと、ぎゅっと抱き締めて?」
「馬鹿、煽るな」
「煽ってる、って言ったら?」
一瞬の間を、置いて。
「…勿論、お望み通り乗ってやるよ」
熱くて低い声が、耳元に吹き込まれた。
「ねぇ、…ご飯は?」
「先に、お前だ」
戸惑うことなく返された声に、そっと笑う。
「…おいしく、食べてね?」
土方さんの身体を引き寄せて、触れ合わせるだけのキスを。
また、土方さんが喉の奥で笑った。
「安心しろ」
差し伸ばされた両腕が、きつく僕を抱く。
力強い腕に、そっと身を寄せた。
もっと欲しいと、強請るように抱き締め返した。
また、耳元に吹き込まれた言葉は、最高の甘い殺し文句。
「残さずちゃんと全部、食ってやるよ」
終
(ねぇ、もっと、もっと、もっと。)
土沖
きつく抱き締めて。
そして伝えて、
あいしてる って。
末っ子は、好きなものは
最初にいただくものなのです。
お題、お借りしました。
[ACHE]さま