Please love me or hate me





アイシテル





ただ、その一言が言えなくて





Please love me
or
hate me






人を傷つけることが出来るのも、人を喜ばせることが出来るのも言葉なんだ。

思うような言葉が口に出来なくて、ただ人を傷つけることしか出来ないのなら、それなら俺は言葉など知らないでいたかった。


知っている言葉の全部に背を向けて、口を噤んでればよかった?

どうすればよかったんだ。

正しい答えはどこに在る?

正しい答えなどこの世に在る?

どうなんだ。

うざったいごたくを並べる前に何の反論も出来ないような答えをくれ。

答えを求めるだけなのか?

何の言葉を聞きたくて、何の言葉が欲しいと?

答えてと言うのなら、何故お前は俺に言葉を突き付けて来ない。



ひとつだけ言っておく。

俺は綺麗な人間じゃないんだ。

お前が思うような大層な人間じゃないんだ。

ちゃんと前を見ろ。

ちゃんと現実を見ろ。


夢を追うだけなら、もっと器用に生きられた?

時に現実は、瞳を閉じたくなるほどの悲しみに溢れてる。

時に現実は、瞳を逸らしたくなるほどの矛盾と憎しみに溢れてる。

嘲笑えばいい。

よく見ろ。



これが、『俺』なんだ。










* * * * * * * * * *





「…ッ」


部屋に舞う、その小さな濡れた吐息さえも取り零すのが惜しくて、口唇を押し付けた。

逃げる舌を、無理矢理に絡め取る。



誘ったのはきっとお前の方。

それに乗ったのは俺の方。

互いに、大切な一言は言わなかった。

その、溢れそうなほどの想いを唯一カタチに出来る言葉を飲み込んで。

身体を重ねた。





教えて欲しい。

お前はそんな瞳で俺を見て、何を想う?

お前はそんな指で俺に触れて、誰を想う?

聞かせて欲しい。

お前はそんな声で俺を呼んで、何を待つ?

言いたい想いはこんなにも溢れているのに。

何故、お前はそんなにも悲しそうに口唇を噛み締める。

言いたい想いはただひとつなのに。

何故、それさえ口に出来ない?









「ぅ…っあ、あぁ…ッ」

縋る指先が肩に、背中に、爪を立てる。

まるで、卑怯な俺を責めるように。

断続的に揺れる腰が熱に溶ける。

もっと欲しいのだと、理性を乗り越えた欲望が奥を抉る。

跨らせた腰を掴んで、猛った熱を打ち付ける。

与えられる律動のまま上下に揺れる腰を抱き寄せて。

ひとつになる。

妙に泣きたくなるほど懐かしささえ覚えるのは、どうしてだろう。

「い、た…ッく、ァ…」

背中に爪を立てたまま、肩口に顔を埋めるようにしがみ付いてくる身体を抱き締める。

触れ合う胸が熱い。

感じる鼓動の音が煩い。

どんなに深く交わってもひとつにならない鼓動は、まるで俺たちを嘲り笑ってるみたいだ。

「痛い、って…ッぁ…っ」

「本当に痛いか?…痛いだけか?」

腰に回していた腕を尻に移動させて掴み、引き下ろす。

「ッア…あ、ァ…ッ」

しがみ付いていた身体が跳ねて、目の前で白い胸が反る。

膨らみのない胸元を舌で舐め上げて、小さな胸の突起を吸い上げた。

「…ふ…っあ…ぁ、っあぅ、」

「痛いとか言ってる割に、こっちは随分と元気だな?」

反るように勃ち上がって俺の腹に擦れる先端を撫で、掌で包み込む。

扱き上げる動作と一緒に、先端からトロリと先走りが流れた。

「う、るさ…っ」

無意識にか、逃げようと腰を浮かせるのを許さず抱き寄せる。

「ア、アッ…ん…ぁ」

「誘ったのはどっちだ?あんな目で俺を見て、」

耳の後ろを獣のようにベロリと舐めて耳朶を甘く噛むと、開いたままの薄い口唇から一層甘い吐息が漏れた。

「愛じゃないんだろう?ただ、たまった欲望を吐き出すためだけの行為なんだろう?」

言葉に、潤んだ瞳が引き歪む。

そして笑った。

「…っそ、う…だ…よッ…」

熱で潤んだ瞳が、笑って細められると目尻から一筋、涙が零れ落ちた。

辛そうに笑う頬を流れる涙を、口唇で掬いたかった。

苦しそうに笑う濡れた口唇に、キスをしたかった。

「俺ではない名前を、呼んだっていいんだぞ」

思考とは裏腹に、勝手に口が動く。

「っ何、バカな…ことっ」

「もしそんなことしたら、お前のことを犯したまま、お前の首を絞めるがな」

まるで自嘲のような笑みを浮かべる頬に、雫が流れ落ちていく。

その透明な一粒一粒に、俺たちが目を背ける感情が垣間見れないだろうかなんて思いながら、俺はそのひとつひとつに目を凝らした。

でも其処からは何も映し出せなくて、ただ胸が痛むだけだった。



「…総司」

首の後ろを引いて、間近で見つめ合う。

翡翠色の瞳が、また歪んだ。

「…呼ば、ないでッ…」

この行為に及ぶ前に。

ひとつの、約束に似た戒めを。

「名前、…呼ばないって、…っ…」

「もうタイムオーバーだ」

「っ訳、…解んな……ッあ、あぁっ」


約束をした。

互いに、名前は、呼ばないと。

愚かな話。

誰を抱いていて、誰に抱かれているのか、それに目を逸らすためだけに。



「…総司」

「呼ば、ないでよ…っ」

「言っただろう?…もう、タイムオーバーだ」

跨る身体を押し倒してシーツに沈ませ腰を掴み上げると、腰を何度も打ち付ける。

「お前を抱いてるのは俺、…俺に抱かれてるのはお前。…何度でも言おう」

激しすぎる前後運動に、ベッドの頭側に逃げていく身体を無理矢理に抱き合わせる。

「ぁあ…っ!…っあ…ぅ」

気違いのように猛る熱が奥を穿つ度に、甘く掠れた声が漏れる。

「…っ、総司…」

蠢く内壁がきつく絡まって来て、その心地よさに全部の思考が止まりそうだ。

勃ち上がって先走りを零す彼自身を握り締めて扱き上げながら、大きく開かせた脚の間の熟れた孔を犯す。

つま先まで一気に強張った身体を片手で抱き、真っ二つに裂くほどに突き上げたら彼の口から悲鳴が上がった。

だらんと身体が弛緩して、大きく仰け反った背がシーツに堕ちる。

絡み付く粘膜から自分のそれを引き抜いて、激しく上下する腹と胸に精液をぶちまけた。

ぼんやりとして焦点の合っていなさそうな瞳で彼は俺を見ると、自分の身体を抱き締めるように腕を回して小さく丸くなった。

ベッドの隙間に身を預けて、寝転がる。

横を向いた彼の背に、自分の背が触れる。

微かに触れ合う汗ばんだ背と背。

直に感じる肌は熱くて、そして小刻みに震えていて。

泣いているのかも知れないと思った。

瞳を閉じて耳を凝らしたけれど、嗚咽は聞こえてこなかった。

それに、少し安堵した。

それから、それに安堵する自分を軽蔑した。

震える背さえ抱き締めてやれないこの腕を呪った。

細く、長い吐息を吐く。

さっきまでの互いの獣のような荒々しい呼吸とか、交わった部分から漏れる耳を塞ぎたくなるような卑猥な濡れた音とかが嘘のように、部屋は静かだった。

口唇を噛み締めた。




言いたい言葉さえ言えないこの口唇は、一体何のために在る?

口を開けば、傷付ける言葉ばかりを吐き出して。

…あぁ。

何て馬鹿なんだ。




言いたい言葉は一つなのに。

どうして、言えない?


どうして、言わない?




そうして俺はまた、愛しいひとを傷付けて穢すんだ。

心臓を、抉り取るような痛みをもって。







「総司、…」




震える肩に手を伸ばす。

綺麗なラインの背中まであともう少し。

総司。

総司、総司、総司、総司。

好きだ。

いとしい、いとしい、あいしてる。









アイシテル




ただ、その言葉だけがなぜかこんなにも遠くて





「…総司」



声に、肩が揺れた。

向けられた背の先で、総司が何かを呟いた。

名前を、呼ばれた気がした。

そのあとの声は小さすぎて、耳には届かなかった。

ただ静かに、吐息混じりの声は心だけを震わせた。





「……」



意味をなさない謝罪の声は、音にならず空気に溶けた。




伸ばした手が空を切る。

指先を握り締める。

この手が触れ、握り締められるものはゆらゆら漂う空気だけ。

思って握る手に力を込めてもするり、逃げてゆく。

この手で掴めるものなんて、ほんとうは何もないのかも知れない。

手を伸ばせば、小さく震え続ける肩に触れられる。

重ね合っていた肌に触れられる。

あの、ぬくもりに。

けれど。



…ほんとうに、触れたいものは。欲しいものは。





虚しい、ぬくもりなどではないのに。



愛していると言えたなら、欲してやまないものは手に入るだろうか。

それとも、泡沫の夢のように消え失せてしまうだろうか。



愛されないのならば。

いっそ、憎まれたいと願う俺はこの世の中の何よりも汚く、歪んでいるのだろう。

分かっている。

分かっているけれど。



「…総司」



空を切り、そのまま握り締めた手で、肩に触れる。

そのまま抱き締めた。

腕の中で、総司の身体が揺れた。

また、総司が何かを呟いた。

その声はまた、届くことはなかった。

けれど。

抱き寄せた腕に重なった、総司の手。



そのあたたかさに、心が軋む。

あぁ。

何処から、歯車は狂ってしまったのだろうか。



「…俺を、憎め」



言葉に、答えはなかったけれど。

腕に触れた総司の指先が、強張るように一度震えて、そして俺の腕を強く握り締めた。

その強さは、あまりに強くて。

腕だけじゃなく、心までをも握り潰されるような、そんな感覚だった。



「憎むなんて、…出来るはずないじゃない」



なのに鼓膜を震わせた声は、弱々しく、そして柔らかい。

触れる熱と、届く声だけが、残酷なほどやさしくてあたたかかった。


















(すきだから、だいすきだから、…だから、)

-愛して、
そうじゃなきゃ憎んで-

斎沖



時には本当の愛さえも見失ってそれでも僕等は抱き合って

あぁ 何て
愚かな生き物なんだろう。





甘楽さんとの相互記念。

SSLで、お互いに好きなのに、なかなか想いを告げられなくてもどかしい二人、

って言うリクエストだったんですが…

もどかしいっていうかもどかしいっていうか、

…え?あれ?みたいな(汗)

お待たせしたのにこんな微妙な感じですみません。

甘楽さんに捧げます。








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