晴れすぎた空 14





手に握らされた、下げ緒を見つめた。

紫苑は、ところどころが黒ずんでいた。

それが何を意味するのかは、誰に問わずとも分かっている。



「藤堂さん…っ」





嗚呼。



彼は、遠い遠い処へいってしまったのだ。





試衛館時代の頃、よく共に出かけた。

小さな悩みを、打ち明け合った。

何度も、何度も笑い合った。

下らない悪戯をしては、土方に見咎められて怒られた。

そしてまた笑い合った。



そうだ。

彼はいつも、朗らかに笑っていた。

声を上げていつも。

笑っていたのに。





戦慄くように震えるまま、総司は下げ緒を強く握り締めた。









「……すまない」





不意に耳に届いた声を見やる。

静かに、枕元に座していた斎藤が零した声。

低く、小さな声は、それだけで心を震わせるには十分だった。



「一さん…」



一瞬絡み合った視線はすぐに解かれ、斎藤が瞳を伏せる。

伏せられる前の黒檀の瞳は、その色よりも深い絶望に似た色を映していた。





「貴方のせいじゃない」



腕を差し伸ばし、静かに座したままの斎藤の身体を引き寄せた。

「…貴方のせいじゃないから」

自然、斎藤の額が総司の肩口に触れるようになる。



「お願いだから、責めないで」



膝の上できつく握り締められたままの斎藤の手に触れた。

耐えるように、小さく震える拳を包み込む。

それから腕を斎藤の背に回して、抱き寄せる。

必死に両腕を背中に伸ばして、きつく抱き締めた。





「一さんの、せいじゃない」



刹那、酷く強い力で、抱き返される。

「…っ」

背を掻き擁く斎藤の腕は、震えていた。

少し、回した腕から力を緩めると、それさえ赦さぬと言うように強い力で引き寄せられる。



「…見るな」



肩口にきつく押し付けられたままの斎藤の口唇から、唸るような声が漏れた。



「……頼む」



微かに震えた、熱い吐息と共に低く、斎藤の声が零れ落ちた。

視界が、歪む。

瞼の奥がじわりと熱くなって、込み上げて来るものを止められない。

斎藤の背を抱き締めながら天を仰ぎ、ひとつ瞬きすると頬に雫が流れ落ちた。

「…っ、一さん…」

それは止まることを知らず、幾筋も幾筋も白い頬を流れ落ちてゆく。

斎藤の首元に顔を寄せて、勝手に戦慄こうとする口唇を噛み締めた。

伏せられた、肩口が熱い。



本当は、心優しい男なのだ。

仲間を、友を想い、前線を駆けてゆく。

多くは語らずに、ただ。

掌に握った剣で、迷いのない静かな剣を振るう。

悲しいほどに不器用で、優しい男なのだ。

この、男は。



「一さん…っ」



悔いている。

憎み、憎み、呪っている。

己の所業を。

望まなかったとは言え、密命とは言え、友の死を招いた己を。

込み上げる絶望感の中で、憎悪しているに違いない。



「貴方の、せいじゃない…!」



叫ぶように、声を絞り出す。

その後は全て、慟哭の中に消えた。







------朗らかな笑い声が、
耳から離れないのに、

なのに、
きみは、もう、------


続く










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