Give Me A Reason
何にも
縛られたくない って
叫びながら
絆 求めてる
Give Me A Reason 冬の、陽は短い。
期末試験前と言うことで部活も停止中の上、とっくに下校時間は過ぎているため、校内に残る生徒の数はまばらだ。
昼間の喧騒が、嘘に思えるほど静かな教室の中。
窓際の一番後ろの席に座って、几帳面、とよく言われる字で日誌を書き綴っていた手を止める。
日誌を置いた机のその前の席で椅子をこちらに向けて、うつらうつら、頭を小さく上下させる総司を見た。
色素の薄い髪の毛に、暮れかかる陽の光が当たってきらきらと輝いている。
触れれば、ふわりと柔らかいその髪に触れかけて、日誌の記入が途中なことに気付いてまたペンを走らせた。
いつもは部活中の生徒の声や笛の音などが聞こえてくる校内も、酷く静かで。
耳を澄ませば、静かな寝息が聞こえてきた。
記入欄を細かく埋め尽くした日誌の内容を確認し、ぱたんと閉じて。
まだ惰眠を貪る総司の肩をそっと揺らした。
「…総司」
声を掛けても、瞼はぴくりとも動かない。
はぁ、とひとつため息をつく。
そっと手を伸ばし、さっき触れようとした髪の毛に手を伸ばした。
くしゃり、掌に優しい感触を確かめるように髪の毛に指を絡め、それから指で梳く。
「…ん、」
何度かそれを繰り返すと、瞼が小さく震えた。
ゆっくり、瞳が開く。
「…終わった、の?」
「あぁ」
ふぁ、と大きな欠伸をしながら総司は両腕を空に伸ばした。
まだ眠たいのか、いつもより潤んだ翡翠色の瞳をごしごしと指先で擦って見せる。
子供のような仕草に、そっと笑った。
「待っていなくてもよかったんだが」
「ん、だって待ってなきゃ一くんと一緒に帰れないでしょ」
にこり。
瞳を線にして、総司が笑う。
「毎日、一緒に帰りたいんだ」
「そうか」
髪の毛に触れていた手を頬に滑らせると、機嫌の良い猫みたいに頬をすり寄せて来る。
好き、と。
言葉にせず仕草で表して来る。
可愛いと、思わないはずがない。
「総司」
「…ん?」
小首を傾げて見つめて来る頬を掌で包んだまま、笑みを結んだままの口唇を掠め取った。
触れるだけの、キス。
すぐに口唇を離すと、総司が吐息で笑った。
「風紀委員長のくせに、」
「…時間外だ」
茶化すように笑う口唇を塞いで、今度は深いキスを仕掛ける。
歯列を舌先で割って絡ませると、小さく肩が揺れた。
「…っん、」
鼻にかかった吐息が零れるのを聞きながら、角度を変えてもう一度。
キスを交わす。
離れると、はぁ、と濡れた吐息を零す。
「むっつりエロ委員長」
「…その呼び方はよせ」
ため息混じりに呟いて、席を立つ。
鞄を抱えて、まだ座ったままの総司を見下ろした。
「帰るぞ」
「うん」
うん、と言う癖に、少しも動く素振りを見せない総司にそっとため息を。
「…総司」
座ったままの総司に手を差し伸べて、翡翠色の瞳を見る。
差し出した手と、俺を交互に見て、総司は笑った。
「帰ろ」
握り返される手が、温かい。
「ね、一くん家行っていい?」
「勉強、するか?」
「うん」
「…古文も、やるか?」
「古文はしなくていいのっ」
「…古文もしろ」
「やーだっ」
廊下を歩きながら、いつものやり取り。
さすがに教室を出たら手を繋いだままではいられないけれど。
総司の手は、俺の制服の袖の裾を掴んだまま。
「…むっつりエロ委員長には、違うコト、教えてほしいなぁ」
色を含めた声で総司が笑う。
後ろ首を掴んでやろうと腕を上げると、それに気付いたように総司が小走りに駆けて少し前に行った。
「…ね?一くん」
小首を傾げて、また笑う。
教室と同じように、廊下の窓から差す陽の光を浴びて髪の毛がきらきらと光っている。
その様子が眩しくて、そっと瞳を細めた。
「…古文でわざと赤点を取らないと約束するか」
「どうかなー」
「…総司」
怒気を含めて言うと、わざとらしい悲鳴を上げて総司が逃げるような仕草で廊下を駆け出した。
「約束したら、…教えてくれる?色んなコト」
少し離れた場所で振り返って、総司が妖艶に笑って見せた。
「いい子で勉強出来たらな」
言えば、総司はまた翡翠色を細めて笑う。
向けられるその微笑を、愛しいと思ったのはいつからか。
その笑顔の理由を知りたいと言ったら、お前はどんな顔をする?
「一くん、大好き」
笑顔で告げられる言葉に縛られながら。
その、言葉の理由をいつも、求めて。
まだ俺は、想う言葉を告げられずに いる。
終
(それでも笑って傍に居てくれるきみに甘えてぼくは、)
斎沖 SSL
束縛されるのは
嫌いだけれど、
君の笑顔に縛られて、
振り回されるのは、
悪くない、って、
「すき」って
なかなか言えない
一くん萌え。