F l o w e r R o a d 4


誠凛高校の門の前で立ち止まり、ポケットから一通のエアメールを取り出した。
アメリカにいた時、花帆から届いたものだ。
中には手紙と、一枚の写真。
すっかり様子を変えた大切なあの場所で、ピースサインをしている彼女が写っている。

キミとの再会まで、あとすこし・・・


*


事務室で校舎内に入る許可をもらうと、木吉は懐かしさを楽しみながら、のんびりと校舎裏へと向かう。
今の季節なら、きっと校舎裏には写真と同じ景色が待っているはず。
いい時季に帰って来れた、と角を曲がり、思わずそこで足を止めてしまった。

予想以上の光景が広がっていた。

秋の風に吹かれて、ピンク色のコスモスが咲き誇っている。
それは予想通り。
驚くべきはその背丈だった。
ゆうに2メートルはある。
つまり木吉の背丈をわずかに超えている。


『木吉くんは隠れるの無理かも。身長的にきびしそう』


数年前、花帆はそう言っていた。
もらった写真の中のコスモスは、彼女より少し高いくらい。
卒業後もまめに高校に来ては、ここの手入れをしていたらしい花帆。
オレのためにここまで育ててくれたって思うのは、うぬぼれだろうか。

「平野、いるかー・・・?」

風に吹かれたコスモスがざわざわと音を立て、木吉の声をさらっていく。
聞こえなかっただろうか。それとも。
木吉は息を吸いこんで、もう一度呼びかける。

「・・・花帆ー、いるんなら」

返事をしてくれ、と木吉が続ける前に、声がした。

「遅いよ、木吉くん。あやうく寝ちゃうところだったよ」

寝ぼけたような、まのびした声。この数年間、ずっと聞きたかった声。
コスモスをかき分けて、足元に注意しながら、声の主を探す。
しばらく進むと、人が一人か二人寝ころがれる小さな空間に出た。

なんとなく体が覚えていた。
はじめて一緒に空を見上げた、二人の特等席。
今はコスモスの壁に囲まれ、気持ちよさそうに寝ころがる彼女の隣に、木吉は腰を下ろす。

「・・・遅くなって、すまん」

そう言ったら、隣で花帆が吹き出した。

「開口一番、きっとそう言うんだろうなって思ってた」

全然気にしていないよって、花帆は木吉の脇腹をつつく。
それよりも他に大事なことあるでしょう、そう言われているようで、木吉は眉尻をへにゃっと下げて苦笑い。

そのとおりだった。
伝えたいことがたくさんある。
何から話そうか。
そうだ、まずはこの言葉から。

「ただいま」
「おかえりなさい」

花帆の返事に、この場所に帰ってこれたことを実感する。
鼻の奥がツンと痛くなって、コスモスのピンクと空の青がにじんで見える。
くしゃっと笑って、もう一つ。


「好きだよ、花帆」


ずっと心にひめていた、大好きの気持ちをキミに伝えた。




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