永遠をキミに。


楽しい時間は、どうしてこんなにもあっという間に過ぎ去ってしまうのだろう。

「おら、着いたぞ」

太陽はまだ少しだけ高い位置にあって、近所の公園からは子供たちの元気な声が聞えてくるのに、わたしはコウちゃんとサヨナラしなきゃいけないなんて。

「なにむくれてんだ?物足りねぇのか?」
「そうじゃない…けど…」

リアシートから地面へと降り立ち、ヘルメットを手渡すときに触れたコウちゃんのぬくもりに、ますます名残惜しさが溢れてくる。---帰りたくない。できることならこのまま、明日がくるまで一緒にいたい。だって今日はわたしの18回目の誕生日。平日だったから特別なことはなにも期待していなかったけれど、わたしを喜ばせる方法をコウちゃんはちゃんと考えてくれていた。放課後のチャイムが鳴ったと同時にわたしの手を引いて教室を飛び出した彼。まずはゲームセンターに行って、前から欲しいとしつこく言ってはコウちゃんを困らせていた小鹿のぬいぐるみを、彼は(給料日前なのに)1000円もかけて吊り上げてくれた。それから、これまでずっと気分が悪くなるから行かないと敬遠し続けてきたアナスタシアで、わたしと同じイチゴのタルトを(ほとんど一口で無理やり)食べてくれた。そのあとは臨海公園の煉瓦道を手を繋いで歩いて…。これで物足りないなんて言ったらバチが当たってしまう。

「じゃあなんだ?言えよ」
「……」
「…ンで黙んだバカ。余計気になんだろーが」

腕の中にあるぬいぐるみをギュッと抱きしめ佇むわたしを前に、コウちゃんは痺れを切らして声を荒げるけれど、言いたいことなんてこれといってない。ただ、コウちゃんと離れたくないだけ。単なるわたしの独りよがりなワガママだ。門限通りに送り届けられた家の前で口にするセリフじゃない。

「ハァ。メンドクセーな、おい…」

そう言って大きな溜め息を吐くと、バイクに跨ったままでいるコウちゃんが制服のズボンのポケットから無造作に押し込まれていた小箱を取り出し、ぶっきらぼうに差し出した。

「……なに?」
「まぁ、その、なんだ。…受け取れ」
「わたしに…?」
「中身は保障できねぇからな。気に入らねぇなら捨てろ」

手のひらに納まるほどの大きさしかない箱の中身は、リボンを解かなくても察しがついてしまう。

「……ありがとう…」
「わかったらさっさと家ん中入れ。門限、過ぎちまうぞ」

わたしのためにコウちゃんが演出してくれたバースデーサプライズ。その締めくくりに贈られた思いがけないプレゼントに、驚きと感動ととにかく色々な感情が錯乱してしまい微動だにできないでいるわたしを、夕陽を背に微笑むコウちゃんの一言が覚醒させ、「じゃあよ。また明日な」そう言って彼は再びグリップを握りしめた。

「……コウちゃん」
「あ?」
「わたし…無人島に行きたい」

--そこは、二人の存在しかない夢の島。我ながら突拍子もないことを言ってみせたなって感心してしまう。コウちゃんもいい加減呆れてしまったのか眉間にシワを寄せてしまっている。でも、決して思いつきなんかで口にしたことじゃない。

「はぁ?つかそんな島どこにあんだよ」
「だってそこに行けば、門限も、人の目も気にせずコウちゃんとずっと一緒にいられるでしょう?」
「っ……ミナコ…」

本当は、申し訳なくてたまらない。わたしに信用がないせいで、コウちゃんとのことを両親に報告した日から唐突に定められた規則。きっとわたしの知らないところでコウちゃんには無理も、我慢も、たくさんさせてしまってるに決まってる。そんな鬱陶しいシガラミなんか全部切り捨ててしまえる場所で彼と暮らせたらどんなに幸せだろう。

「…チッ。なに泣いてんだバカ」
「ッ、だって…っ」

こんな場面、近所の人に見られでもしたらそれこそコウちゃんの印象が悪くなってしまうだけなのに、どうしても堪えきれなくて…。行き場のない涙と想いを抱え立ちすくむわたしの肩に容易く回された片方の腕。緩く抱き寄せられて、コウちゃんの匂いと鼓動をすぐ傍に感じる。

「…もうちっとだ」
「…えっ…?」
「もうちっとだけ辛抱しろ。そん時が来たら…、俺がこっから連れ出してやる」
「コウちゃ…」

耳慣れた重低音が、温かなぬくもりを伝い鼓膜を震わす。いつだったかコウちゃんはわたしに、俺でホントにいいのか?って言ったけれど。その言葉、今度はわたしからコウちゃんに投げかけたい。

「ホントにわたしで…いいの…?」
「…そんなわかりきったこと、いまさら聞いてんじゃねぇよ…」

肩越しに囁いた唇が、彼の胸に頬を寄せたわたしの額を掠める。コウちゃんの腕の中は、わたしにとって唯一無二のやすらげる場所。このひとがいれば、他になにもいらないって心から思える。

「おっ」
「…?」
「そういやまだ言ってなかったな」
「なにを?」
「……誕生日、おめでとう」

---あなたから貰ったこのリングを左手の薬指にはめて、その時を待ってる。







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テーマ「人外ファンタジー」
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