異なる存在
と、そこでベルが「あっ」と声を出した。
「でもトレーナーになったら、今みたいに時間を共有なんて出来ないよね」
しゅん、と肩を落とすベル。偶に核心を突く発言をする彼女はそれを上手く言葉に変える器用さを持ち合わせていない。だからこそベルの言葉は心に響く。
―――僕ら三人の世界はカノコタウンに集約されている。
だけどいつかはトレーナーとして旅立つ日が訪れ、そうなったら“いつも通り”のやりとりも無くなるだろう。
しかしチェレンは違った。
「何を言ってるんだか」
「チェレン……」
「ベル、君は僕が『ブラック』に見える?」
「え?」
チェレンは不思議な質問をしてみせた。と、チェレンと視線が合う。
―――まだ黙って。
僕はチェレンから伝わった意図を瞬時に察し、ベルが理解するまで押し黙る選択をする。これはベルだけの力で進むべき道だ。手助けするのは彼女自身が手がかりの糸口を自分で掴めなければならない。
ベルは僕とチェレンを交互に見比べ、ふるふると首を横に振った。僕とチェレンは兄弟ですらないから似ても似つかないのは当然だ。
「だろうね」
「あたし、チェレンじゃないからよくわからないよ…」
本気で落ち込んだベルに、チェレンは預かった羽をぴしりと突きつけた。
「それだよ」
「?」
「君は僕じゃない。『自分』じゃないんだ。皆、違うんだよ」
そう。チェレンの示す意味はここにある。
僕はベルに歩み寄り、チェレンの編み出した会話の流れを汲んだ。
「僕らは違う存在だ。今はこうして一緒にいるけど、いつかは離れることもある。だけど、違うからこそ見える景色もあるだろ?」
ベルはこくりと頷く。
「同じ場所に集まる約束をした僕らは、それぞれ違う道を進んだ。だからベルは羽を見つけてここに来た。それはベルだけの世界だ」
僕が目配せをすると、チェレンはやれやれというように突きつけた綺麗な宝物の羽をベルの空いた片方の手に握らせた。
「ほら。君が見つけた羽だろ?」
「うん」
ベルはじっくりと艶やかな羽を眺め、僕らの言葉を吟味して解答を模索する。