ライバル!×2
煙が立っていた。
見慣れた生活の基盤がぐしゃぐしゃになった、というのは最早結果論でしかない。ああ、思い出の木の実が足跡だらけの絨毯に転がっている―――という一端の嘆きは全くもって身体に反映できず、むしろ別の感心事にどこか遥かな領域で繰り広げられる景色のようであった。
原因は言わずもがな。
「すごーい! ポケモンって、こんなに小さいのにすごい!」
歓声を上げる幼なじみ―――ベルが、選んだポケモンを腕に抱えて高い高いの動作をする。
それを見かねた神経質な少年、もう一人の幼なじみであるチェレンが諫めようと口を挟んでは、意味を取り違えたベルの前向きポジティブシンキングな言動によって封殺され、お馴染みと形容すべき脱力感ある空気が訪れていた。
そう。
本当の意味で純粋に悪気がないだけに、嘆きや怒りといった気持ちは即座に呆れの色になってしまう。それが彼女の『持ち味』であり『天然の気質』だと理解するのに時間がかかって、無関心を貫こうとしていた時期が懐かしい。ベルの舞い上がりように目を白黒させているポケモンに少し同情したのは内緒だ。
しかし自分にとっての最大の問題はベルの起こした“結果”ではない。
「ミージュ!」
家族として認めた彼に、唯一のパートナーとして望んだ存在に……するっと何気なく滑り込んできた水ポケモンだった。
いきなりだった。
いや、心のどこかで油断していたのだろう。自分がいるからパートナーも自ずと決まっているのだ、と。
まさか出発の際に追加されるとは思いもよらず、ブラックの手によってミジュマルというイッシュ地方特有のパートナーが晴れて選ばれたことは衝撃であった。それどころかブラックの自室にてバトルが開催されて勝利を飾ったことも予想の範疇を大幅に越えている。
我知らず視線が一点に集中していたことを自覚する頃には、当の対象に気づかれてしまっていた。
「ミジュ?」
初バトルにして二連戦を勝ち抜いた瞳がようやく自分に向かう。無関心になりたい気持ちを貫いてしまいたいが、それ以上に無邪気な光が何ともしがたくて見つめあう形になった。
傍目には二つの意志が互いの瞳を介して衝突しているようで、しかしながら実際には微妙に異なる。
あちらは好奇心と友愛の意志、対してこちらは―――言うまでもない。
ぴょんと肩に乗り、定位置を陣取る。
「ピカ、どうした?」
「……ピ」
相変わらず言葉の少ないやりとり。
しかしブラックは自分の頭を優しく撫でる。自分でもひねくれていると思う微妙で機敏な感情の差異を如実に察してくれた彼なりの気遣いである。
―――どうしても譲れない戦いの幕が上がった、ような気がした。
……ねえねえ、もしかしてピカって……
……ライバル、だな。
生憎、長年の付き合いである幼なじみ二人には看破されていたのは後々の話。