トウメイネイロ
真夜中の星空。
紺碧に散らされた粒の一つ一つが微細に輝き、夜闇を照らす道標の役目を忠実に守っている。闇に紛れた鈍色の雲が所々に薄くかかるも、開けた夜空の一部となって広大な絵画を演出していた。
遠くには滑らかな曲線を描く山々が夜を区切り、木の葉の屋根の向こう側に悠々と自然を現している。仄かに浮かぶ月は柳眉の細い下弦の形。しん、としながらも小川のような草原の波の音が響く空間は、旅人の心を安寧の地へと誘っていた。
「…………」
小高い丘の上に根付いた木の下。シートを敷き、少年は長い月日を経た木にもたれ掛かるように座る。毛布に加えて立地も最適という完全野外対策の中に、ブラックはいた。
トレードマークの帽子を脱ぎ、片足を伸ばしてリラックスする姿は未だ残る旅の余韻に浸かり、安寧の闇に身を委ねることに待ったをかけている。ヒトの手が加えられていない自然の在り方が文明を離れた少年に別種の感慨を与えていた。
天の海。
言葉にならない程の銀河のうねりが空と地に降り注ぎ、いかにちっぽけな存在なのかを思い知る。
だから一人は寂しい。
誰であれ繋がりが欲しくなる。
「ピッカ!」
がさごそと頭上の木の中から一匹のポケモンが降りる。何枚かの葉が散る中、難なくブラックは優しく受け止めた。
「ピカ、もういいのか?」
「チャァ〜…」
胸にすっぽり収まったポケモンの名を呼ぶと、眠たげな仕草で肯定が示された。星空の煌めきに魅入られたピカチュウは本能の欲求にようやく負けたらしい。
腕の中の相棒が身を丸めた。かたかたと小さな体が微かに震えている。寒いのだろう。春とはいえ山の手前、それも夜である。いかに昼間が陽気な天気を誇ろうと、自然界の厳しさは生半可なものではない。一時文明生活を離れたブラックには、より顕著にひしひしと実感させられた。
毛布を手繰り寄せ、相棒のピカチュウを膝に乗せる。温もりに身を委ねる相棒に、ブラックは無口の奥でほっと胸を撫で下ろした。
ピカチュウは先刻のブラックと同じように天涯を見上げ、周囲の静かな音楽に耳を澄ませていた。
直に伝わる温もりは心地よい眠りの担い手となって意識に波紋を打つ。頃合いだ。ゆっくりとブラックの瞼が伏せられる。
「ピカ」
「?」
「……おやすみ」
共にいるということ、
その瞬間にある確かな温もり