CLAP THANKS

◇ある雨の日


ぱちゃぱちゃ。

淡いピンクのレインコートを羽織り、真新しい黄色の長靴を履いた彼女は上機嫌に水溜まりの中へ歩を進めた。軽快に跳ねる泥水を物ともせず、白地に水色の水玉模様の傘をくるくる回してスキップする。

梅雨入りの空、明るい雲の下にある小さな森。穏やかな土地の影響なのか、子どもに危険を及ぼすような野生のポケモンはこの周囲には生息していない。トレーナーの始まりの街と呼ばれるカノコタウンならではの平穏無事な日常だった。

彼女は霧雨の森をきょろきょろと見回す。一人で行動できるようになってからというもの、破竹の勢いであっちこっちを飛び回る彼女はある場所に通い続けていた。

「みーつけた!」

目的の何かを見つけた瞳が輝き、彼女はざくざくと落ち葉を踏みしめて一直線に向かう。木の根元。
そこに隠れるようにして、黄色の体毛がうずくまっていた。

「こんにちは、チュチュ」

彼女はかがみこんで声をかけた。
『彼』と決めた名前を呼んで早ふた月。最初は嫌がっていたこのポケモンもついに根負けしたのか、呼び名に対する抵抗は最近では殆ど皆無になりつつあった。

ぴくり、と小さな耳が跳ねた。


 雨の森で、
 期待していた音が来た




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