tns | ナノ
「横になっていろ」
「せっかく手塚の家に来てるのに、寝たくない」
「辛いんだろう、無理をするな」

結局私は手塚の優しさに甘えて、清潔感の漂う手塚のベッドに寝転がる。全身を預け、ふわりと手塚の香りを感じた瞬間に、どんよりとしたお腹の痛みが引いていくような心地だった。

1日目、だった。
朝からお腹が重く、鈍痛に苦しんではいたけれど、せっかくの手塚との約束を断りたくなくて、予定通り彼の家に来た。
けれど彼は私を一目見て、その顔色だけで私の不調を察してしまったし、デリカシーなんて言葉とは無縁の彼なので、結局その理由を白状させられてしまったのは、つい先ほどである。

理由を話した時の、彼の気まずそうにさまよわせた視線を思い出しては、胸がほっこりとする。

「どうだ」
「寝転ぶと、ちょっとマシかな」
「それなら良かった」

ベッドの端に腰かけた彼。
そっと伸びてきた手は、躊躇いがちに私の背中から腰辺りに触れた。

「何もできなくて、すまない」

伏せられた瞳。揺れる睫毛、まぶたにうっすらと見える二重の線。腰辺りに触れる手は、気遣うように私をさする。

「ねえ、手塚。手塚も隣にきて」

僅かな沈黙の後、ああ、と短く相槌が聞こえて。隣に伝わる重み。
それだけじゃ、足りない。
私は、隣に横たわる彼に体を寄せ、その胸に頬を寄せる。背中に回される腕の感触と、全身で感じることのできるようになったあたたかさが、私の中にある鈍痛を吸収していくようだった。


ふ、と。
目の前にある彼の胸元を見れば、シャツの襟元から男の人にしては華奢な鎖骨が控えめに覗いている。
特に何を思うでもなく、なんとなくそこに指を滑らせる。

「どうかしたか」
「鎖骨って、なんでこんなに色っぽく見えるのかな」

手塚の場合、襟のある服を纏うことが多く、生真面目な彼の襟元から鎖骨が覗くことは滅多にない。けれど、こうしてくつろいだ時には時折見え隠れするそれが、たまらなく色っぽい。

何かにあてられてしまったかのように、私は自然とそこに唇を押し付けた。張り出た骨を唇で挟んでみれば、当然のように硬い。

「みょうじ、」
「ん?」
「なにを、している」
「鎖骨、食べたいなあって」

やんわりと歯を立てる。皮膚の滑らかさと、骨の硬さ。唇と歯に当たる感触の全てが私をなんとも言えない気分にさせる。
最後に、鎖骨の下あたりの皮膚を強めに吸って、薄っすらと痕を残した。きっと明日になれば消えてしまうくらい、仄かな痕を。それでも白い肌に浮かぶ淡い桃色の鬱血痕は、ひどく扇情的だった。

「手塚、」

今度は彼の眼鏡に手を伸ばし、両フレームを掴んでそっと引き抜く。直接見えるようになった彼の目元は、シャープな眼鏡がなくなってもなお冷たい雰囲気のままだ。
美しい。彼はどこまでも美しい。
それなのに本人にはその自覚がこれっぽっちもないものだから、タチが悪い。

「キス、したい」

強請るように見上げれば、ほんの少しだけ穏やかになる目元。限られた人間にしか見せないこの表情が、私が愛されている証。
冷たい手塚が好きだ。でも、冷たいだけじゃないから好きなの。

「ああ、俺もだ」

触れ合った唇は、じんわりとあたたかい。
遠ざかる熱に目を開けば、彼の視線とかち合った。すると後頭部にふわりと手が添えられ、ゆったりと引き寄せられる。

「もう少し、構わないか」
「手塚がおねだりなんて、珍しいね」

茶化すように言うと、不満げに眉間の皺が深くなる。

「誰のせいだと思っている」
「手塚がフェロモン垂れ流してるのが悪い」
「心外だ。そんなつもりは毛頭ない」
「無自覚だから余計悪いんで……んんっ」

遮るように、唇を塞がれる。真面目な手塚は、真面目だからこそたまに強引だ。きっとそれすらも無自覚なんだろうけれど。

「もう、黙っていろ」

低い声。
再び重ねられた唇の間からは、時折熱を孕んだ吐息が漏れる。どうやら今日は、手塚を少し煽り過ぎたようだ。
けれど、ちょっとくらい強引で、優しいだけじゃない方が良い。少し苦しいくらいが、心地いいのだ。

朦朧としていく。
ああそういえば今日はお腹が痛かったんだったなと、意識の片隅で思う。

そう思った時には、痛みはどこかに消えていた。




(その良薬は、いつだって限りなく甘い)



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生理って辛いですよね。
痛くて痛くて死にそうな時は、こうやってゲロ甘な妄想をして和らげます。
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