tns | ナノ
※社会人設定
※セフレ(そういう描写はありませんが、苦手な方はご注意ください)
※not ハッピーエンド


私たちを繋ぐものは、愛ではないと。そんなことはわかっている。それでも、ネオンの光が瞬く街の中にあなたを見つければ、私の心は踊る。

「お待たせ」
「遅かったのう」
「オフィスの戸締り任されちゃって」
「お疲れさん」
「ありがとう」

そんな短い会話の後、行くか、と歩き始めるあなた。


私たちは、声を大にして説明できる関係ではない。

身体を重ねるだけの、関係。
この関係は合意のもとであり、お互い結婚はおろか彼氏や彼女もいない。だから、誰かに咎められることもなければ、誰かを裏切っているわけでもない。
ただ温もりを分け合い、寂しい夜を凌いでいる。


ホテルに入り、一連の行為が終わって一息ついた時だった。あなたの胸を枕にしてウトウトとしかけていた私に、あなたは告げる。


「そろそろ終わりにするかのう」


その言葉に、意識は現実へと引き戻される。けれど、驚きはさほどない。もう別れが近いことは、心のどこかでわかっていた。

「どうして?」
「なんとなく、じゃよ」
「そう」

あなたの変化にも、気付いていた。
会う回数は少しずつ減り、手を繋いで歩くこともなくなり、翌日に共に朝食を摂って別れることもなくなった。

あなたが変わり始めた時を、私は覚えている。


ーねえ、今度どこかに出かけない?ー


そう誘った時からだ。
その時は笑ってそうじゃな、と言ってくれたけれど、その時からあなたは私を遠ざけるようになった。


私は、朝日じゃなくて夕陽も一緒に見てみたかった。朝に待ち合わせをして、どこか遠くへ出かけて、夕陽が沈む頃に帰って、暗くなればさよならをする。

そんな、普通のデートがしたかった。

私はいつの間にか、あなたを好きになってしまっていたから。

不健康で、生命力も弱そうで、嘘つきで、甘ったれで、どうしようもない。けれど、甘えて擦り寄ってくる猫みたいなところが愛しくて。私に触れる手が、いつもいつも優しかったから。

身体を重ねるだけが味気なくて、温もりを分け合うだけじゃ足りなくて、愛されたいと思ってしまったの。
私のその気持ちは、あなたに伝わってしまったのだろう。

だからあなたは私を遠ざけた。
疎ましいからではなく、好きになってしまった私が、これ以上傷付かないように。
だからあなたは、この関係を終わらせようとしているんだね。

「わかった。じゃぁ最後に、もう一回だけ……だめ?」

そう言うと、あなたは困ったように笑う。それでもその瞳には優しい色が宿っていて、やっぱり私はあなたが好きだなあと思う。

「構わんぜよ、ほら…来んしゃい」


恋は難しいものだ。
どうしてだろう。
愛がなくたって、身体を重ねることはできる。お互いの温もりを求め合うことはできる。それなのに、そこに片方の愛が加わってしまえば、その関係はうまくいかなくなってしまう。

わからない。
もう、なにもわからなくなってしまった。麻痺した思考の中、普段は口にしないあなたの名前をひたすらに呼ぶ。
口にすれば愛しさがこみ上げるとわかっていたから、呼ばないようにしていたのに。

「雅は、る…、す、き…っ」

あなたの背中に爪を立てながら、もう呼べなくなってしまう名前を、伝えられなくなってしまう言葉を、呟く。
涙で滲む視界がもどかしくて、瞳を強く閉じる。溢れ出した涙が、目尻を伝い落ちていく。


「俺も…じゃよ」


まぶたを上げて、鮮明になった視界の中に、愛しい人の姿。
あなたも、今にも泣き出しそうな顔をしていた。

やっぱりあなたは嘘つきだなあと思いながら、私は最後のキスをせがんだのだった。



(人を騙すのが上手なあなたの最後の嘘は、何故か。優しい嘘だったのだと、わかってしまった)



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ゲームのカウントダウン企画の時のネタを、短編にしてみました。
基本ゲロ甘しか書かないのですが、たまにはこういうのも。仁王はヒモっぽいイメージがあるのでセフレとかいてもおかしくはないかなあと思います。寂しがりっぽいですし。けれどちゃんと優しい子。
でも身体から入った子は好きになれなくて、ただ笑顔が印象的な名前も知らない一度すれ違っただけの女の子とかを好きになってしまうみたいな印象です(具体的すぎ?)
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