tns | ナノ
面倒臭がりなくせに器用なこの男は、なんだかんだ言いつつも大抵のことを一人でこなしてしまう。いや、こなすことが出来るはずなのだけれど。
どうしてか今、私はこの男の髪の毛を乾かしている。肝心の彼は、暖房を効かせているとはいえこんなにクソ寒いのに上半身裸、下にスウェットを履いただけの状態で、真剣にテレビゲームをしている。ドライヤーの音で聞こえづらいだろうに。

色を抜いているせいか幾分痛んで軋む髪の毛。私の使う美容液を軽く毛先につければ完了だ。

「はい、終わったよ」

「ありがとさん。………お」

「ん?どうかした?」

乾かし終えた髪の毛を確認した仁王は、目を閉じて自分の髪の毛の香りを嗅ぐ。

「お前さんとおんなじ匂いじゃ」

「同じ美容液つけたからね」

「なんか、あれじゃな」

「ん?」

「変な気分になるぜよ」

かすかな笑いを含んだ、その冗談めかしたような台詞に、私もつられて笑う。そして貧相極まりない彼の背中をパチンと軽く叩いた。

「馬鹿言ってないでさっさと服着て。風邪引くよ」

そう言ってドライヤーを直すために立ち上がろうとするも、彼に後ろから抱きすくめられる。背中に感じる、薄い胸板の感触。肉が好きなくせに食が細い彼は、食生活も乱れている上に偏食家で、いつ見ても痩身だ。

ふと香る、私と同じ匂い。

「どうせ脱ぐことになるんじゃ。このままでええ」

そう言って甘えるように、首元に顔を埋められる。

乾かしたばかりの柔らかい髪の毛が、私の肌を掠める。擽ったくて身を捩ると、くつくつと喉を鳴らして笑う声。

「こら、離しなさい」

「んー?」

たしなめても私のお腹あたりに回された手が離れる気配はない。


溜め息を、一つ。


これは諦めの溜め息だ。

なんでも器用にこなしてしまうこの男は、甘えるのも抜群に上手い。
全く、羨ましい限りである。

今日も今日とて、この男の巧みな技に私は負けてしまったようだ。


背中に感じる温もりに体を委ねると、勝ち誇ったようにふっと笑う声が聞こえた気がしたけれど、聞こえなかったふりをした。


(気が付けば私の中にはあなたがいた。いつ私の中に入ってきたのだろう。わからない。どうやって?わからない。ただただどうしようもなく、あなたは甘かった)

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