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オレンジ色の光が辺りを染め、刺すような風が吹いていた。

真田との、帰り道である。

立海の高等部にそのまま進学する生徒が大半を占めるうちでは、引退してからも部活に参加する者も多い。真田もその一人だったのだけれど、スパルタなうちのテニス部にしては珍しく今日は練習がお休みだった。

そんな訳で、本当に久しぶりに真田と下校を共にしていた。
元来口数が多くない真田と、それをよく知っている私だから、会話はそれほど多くない。最近読んだ本の話だとか、部員の方々のたるんどる話だとか。
ポツポツとそんな会話を交わしている。

「そういえば、もうすぐ卒業だね」
「気が早いな。まだ1月半ばだぞ」
「そんなの一瞬だよ」
「だが、お前も高等部に進むのだろう?ならば大きな変化はあるまい」
「そう、だね」

そう、大きな変化はきっとない。
それは真田と今の関係を続けられるという意味であり、同時に今の関係を変えられないという意味でもあった。


沈みつつある夕陽が私達の影を伸ばしている。二つの影の間には、僅かな距離。その距離数十センチ。

この僅かな距離を埋めたいと考えるのは、私だけなのだろうか。

気がつけば、私の家はもうすぐそこだった。
きっと中学を卒業したって、こうやって共に帰れる日もたまにはあるのだろう。けれどきっとその時も、私達の関係は変わらない。

「送ってくれてありがとう」
「構わん」
「それじゃぁ、また、ね」

たどり着いた私の家。
真田は、私が家の扉をくぐるまではその場を去らない。だから私は真田に背中を向けるのだ。いつものように。


「待て」


「え?」

強い力で突如掴まれた、私の腕。

こんなに寒い日なのに、真田の手は疼くように熱かった。
驚いて真田を窺うと、鋭い光を宿した瞳は真っ直ぐ私を捉えていて。

「さな、だ?」
「誕生日、おめでとう」


トクン、と。
自分の鼓動の音が聞こえた。その音は自分の役割を果たすように、私の全身へと血液を巡らせる。けれどその流れがいつもより速く、激しいかのような錯覚を起こす。

鼓動が、速かった。

「え、どうして、」
「どれだけの付き合いだと思っている。知らない訳がないだろう」
「でも、今まで一度も、」
「俺は、まだ責任を取れる立場にない。お前に全てを伝えるのは、その時が来たらと決めていた」

揺るぎのない瞳。

その眼差しが、好きだった。
頑なな心が、好きだった。
力強い声が、好きだった。
不器用な手が、好きだった。
全部、全部大好きだった。


「さな、だっ」
「今は、お前の誕生日を祝う言葉だけしか伝えられない。だが約束する。いつか必ず、全てを伝えよう」

声は、出せない。
気持ちが溢れて、心が痛くて苦しい。

その言葉だけで、充分だった。
言葉と、熱い掌から伝わる優しい感情が、たくさんの”すき”を私にくれる。

私は言葉の代わりに、何度も何度も頷いた。
気がつけば、私の頬には涙が伝っていて。それを見た真田は、呆れたようにため息を零す。

困ったような笑顔。

知らなかった。
真田が、こんなにも優しく笑うこと。私に向けられる視線が、こんなにも柔らかいことを。

「わたし、待ってる、からっ」
「ああ、約束だ」

ふと、地面に目をやる。


沈みつつある夕陽が私達の影を伸ばしている。二つの影の距離は、先ほどよりも近い。そしてその二つの影を、一筋繋ぐものがある。

真田の、手。

きっと近い将来、この影はまた距離を縮めるだろう。そして私達の関係も、変わる日だって遠くはない。

熱い熱いこの手もまた、そんな未来を望んでいるのだった。


(「なあ、ほんとにあの二人上手くいくのかよ?」「ふふ、大丈夫だよ。せっかく部活を休みにしたんだから」「ああ。今日という特別な日なら、弦一郎が何か行動する確率96%だ」「プリッ」)


ついったで仲良くしてくださっている方のお誕生日に捧げました。
Happy Birthday!!
2015.01.19.
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