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「ぶぇっくしゅん!」

隣で、盛大なくしゃみをしている女がいた。彼女は年から年中薄着で、今だって12月に入り、気温は常に1桁だというのに、薄いワンピースにコートを羽織っているだけの状態だった。

「そんな薄着しとるからじゃ。何でもっと着込まんの?」
「んー?んー」

彼女は首を傾げて、考え込む素ぶりを見せる。女にしては身長は高い方だし、骨格も華奢という程ではないが、仕草が女らしい。

すると、彼女は俺の手に、その冷え切った手を絡めてきた。その手は、絡められたこっちも鳥肌がたつくらいに冷たくてぎょっとした。

「わ、雅治あったかくて気持ちいい!手が解凍されてくみたい」

それでも、彼女が幸せそうに微笑むから、俺はその手を離せずに、ぎゅっと握り返してやる。すると、更に嬉しそうに顔を綻ばせる。外見は大人っぽいのに、口元にできるえくぼが、ほんの少しあどけなく見える。

「お前さんが冷たすぎるんよ」
「そうかもね。でも、雅治があったかいからいいじゃん」
「なんじゃそれ」
「私が寒い時は雅治があっためてくれればいいだけでしょ」

だからいいの、と彼女は照れたようにはにかむ。
それは、俺にはまるで、この先も一緒にいたいと、そう言っているように聞こえて。自惚れかもしれないと思いながらも、彼女とこうしていられる冬が、俺も嫌いじゃなかった。彼女がそばにいて、こうして俺の手を握るなら。

「あ、雪だ」
彼女の声につられて空を見上げると、銀色の空からは静かに雪が舞い降りていた。
「寒いはずじゃ」
「そうだねー。でも私、雪好きだから嬉しい!積もるかなー」

うっとりと空を見上げる彼女。どの季節の彼女も、俺は情けないくらいに愛しているけれど、この季節だけは格別だと思った。だって、夏よりも彼女の笑顔が増えるから。

ふと俺の視線に気付いたように、俺へと顔を向ける彼女。そして俺をみた瞬間に、優しい微笑みを零し、そっと繋いでいない方の手を、俺の頬へと這わす。その手も相変わらず冷たいけれど、慈しむような手つきが、心地いい。

「でもほんとに寒いね。雅治鼻赤いよ」

どこかに入ろっか。
彼女が、俺の手を引いて歩き出す。こんなに寒くて彼女は薄着なのに。その足取りは軽かった。


寒いねと言いながら、彼女が笑うから。冷たい手を、嬉しそうに俺のそれに絡めるから。普段は強がりな彼女が、この季節だけは、少しだけ甘えてくるから。

だから俺は、この季節が好きだ。

君が愛する季節
(あなたが産まれたこの季節が、私は好き)


仁王Happy Birthday!!
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