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一回目視聴版


名前は覚束ない足取りで銀時に近づいた。
もう息をしていない彼の目の前に膝をついて、まだ温かい頬をそっと触れた。
まだ柔らかい、だか少しだけ硬直が始まっている。
名前は慈しむ様に、何度も頬を撫でた。
これまでの彼との出会いからあらゆる出来事が脳裏を駆けていく。楽しい思い出も、辛い思い出も、何もかも。
自然と名前の両頬に冷たいものが撫でていった。
涙だった。

「……うぅっ」

もう話すことさえできない。
自分は彼のために何ができただろう、何もできなかった?
こんなにも満ち満ちた笑みを浮かべながら死んでいった彼。
救ったのは自分ではないのだ。後ろにいる最愛の男の……過去の銀時だ。
ああ、自分は銀時のために銀時を殺すことさえできなかった。自分のエゴで殺せなかった。
ずっと辛い思いをしていたのに、自分のせいで朽ちていく世界を見ていて、大好きな町が死んでいく様を見て、辛いはずない。
わかっていながら、それでも尚、殺してあげられなかった。

離れたくはなかった。
一生離さないと言われたから、名前も離したくはなかった。
ずっと一緒にいたかった。
でも、それではいけなかったのだ。
目の前の銀時を見ながら名前は思った。醜い自分、ああ、なんて酷いんだ、と。

「……名前」
「やめて……」

後ろから聞こえた、聞きなれない、でもどこか懐かしい響きに名前は耳を塞ぎたくなって、過去の銀時の言葉を遮った。

「……私は、無力だって言うの。また、何もできなかった。あなたが、銀時だって言うならわかるでしょ、なんで、私はいつも銀時を助けられないの、救って上げられないの」

いつだって救ってもらったのは名前だった。
いつだって守られてきたのは名前だった。
いつだって手をさし出してくるのは銀時だった。
いつだって名前の手を引っ張っていくのは、銀時だった。

「なんで、自分の辛いもの、自分に押し付けて、自分はとっとと逝くわけ。銀時は、私を何で頼ってくれないの……っ」

悲痛な叫びだった。いつだって弱音は吐かない男だった。
今度もいつだって隣にいても、弱音は吐かなかった。
それが寂しくて、名前の口から溢れ出てくる。

「……こいつは、お前に汚れ仕事させたくなかったんじゃねェの。俺だったらそう思うしよ」

名前はゆっくり顔を上げて銀時の顔を見た。
寸胴でキノコのようなサラサラヘアーにどこを見ているかわからない目。
なんというか何回見てもこんなシリアス場面にいて良いような人物ではない。
名前は銀時を睨み付けるような視線を送りながらため息をこぼして、銀時に近づく。
おでこについている鼻くそを取って銀時の手に押し付けた。
そして改めて銀時の顔を見れば、そこにはいつもの見知った顔がいた。
死んだ目で銀色の天然パーマ。
そこにいる人物と同じ顔だ。
忌々しい。正直な感想だった。反吐が出る。

「同じ顔でも、声でも、容姿でも、どれだけ同じでも、私が愛したのはそこで死んでる銀時。過去の銀時とかそんなのどうでもいい、私は……私はどんなことがあろうとも、あなたを許さない。銀時を殺したあなたを、許さない」

冷たいものだった。
どちらも、心の中でぽっかりと穴が開いていた。
こんなふうではなかったのだと、頭を抱えたくなる。
でも、これで良かったのだと、どちらも心の中で思っている。

「さようなら」

名前は出口へと向かっていった。
銀時は追わなかった。
それは自分の役目ではなかったし、自分のやるべきことはまだ残っているのだから。
彼女がこれからどうなるのかはわからない、悪い方向に転ぶとしてもどうしようもないのかもしれない。
でも、どうにか思いとどまってくれるのなら、それを願わずにはいられないのだ。
銀時は鼻くそを額につけて映画泥棒の元へ向かった。




執筆:2013.7.14
公開:2015.2.8


ヒロイン百詛かかってないver
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