C
銀時はまだあの屋台にいるだろうか。
刹希は逃げる人ごみをすり抜けながら更に走る。

この祭りの中、晋助と銀時が接触してるかなんてわからない。
ただそんな気がして、走っているだけ。
もしかしたら刹希に言っていないだけで銀時も既に晋助と再会している可能性もある。
刹希自身が、晋助に再会していることを銀時に言っていないのだ、その可能性は大いにあった。
けれど、もう、それしか当てがなかった。

「また会えるって言ったのはそっちじゃない!」

あんな態度で別れた癖に、そのまま逃げられるなんて癪だったのだ。
自分の思いが正しいのか正しくないかなんてわからない。
けれど、今の自分の答えを知ってからどこへなりとも行けってんだ。

人ごみを掻き分けてこちらに来る銀髪が見える。
銀時だった。
お互いに目が合い、けれどお互い声も交わさずにすれ違った。
銀時は源外のもとへ行くのだろう。
彼も、刹希が晋助のもとへ行くと、思っているのだろうか。

「っ……晋助!!」

遠ざかる後ろ姿に、刹希は声を張り上げて呼び止めた。
ゆっくりと止まった彼はこちらを振り返ってきた。
遠く後ろからは爆発の音と、客の声が雑音として耳に入ってくる。
けれど、彼と、晋助と目を合わせたその時、喧騒は遠くへ逃げていった。

「……皆まで言わないよ」
「ああ」

聞こえた。
周りがうるさいはずなのに、晋助の声は良く聞こえた。
刹希は何度か深呼吸をして、息を整える。
何から話せばいいのか、どう話せばいいのか、まだ定まらない。

「……銀時、変わってなかったでしょ」

そうじゃない、てか話の切り口遠ッ!!と心の中の自分に突っ込み倒したい。
弱いのはわかってる、本題を話した時の晋助の反応が恐いのだ。
自身に自己嫌悪しつつ、それでも晋助から目は離さなかった。

「そうだな、変わっちゃいねェよ。お前もあいつも」
「……うん」

晋助は、変わったね。
その言葉を刹希は呑み込んだ。
何か、この自分たちの間に亀裂が走る気がしたのだ。
言ってはいけない、気がした。

「私、やっぱり行けない」
「……なら、お前はこのままでいいと思ってんのか?この腐た世界をよォ」
「良いとか、悪いとか、そういう問題なの?戦争は終わったのよ」

睨みつけてくる彼の鋭い眼光に、刹希もたじろがない様に睨めつけた。

「だからお前は変わらねェって言ってんだよ。おめェは昔から出会う前から変わりゃしねぇ、一番大切なのはおめぇ一人だけだってな」
「!なんで!そんなわけない!どうしてそう思うのよ!」
「だったら先生を殺したこの世界を許せるのか!?」

それはあの戦をくぐり抜けた自分たちの悲痛な叫びだ。
今でも蘇る“あの光景”を、刹希は歯がゆく思っている。
けれど、どうしようもない、一番近くにいる銀時が、再会してものほほんとしているのに、自分に一体何ができるというのだろう。
それこそ自分がちっぽけな存在に思えてしまう。

「許せないから、壊すの?それで晋助の気は済むの?」
「……」

いつの間にか源外がいた方向から爆発の音は聞こえなくなっていた。
終わったのだろうか。
銀時が戻ってくる前に、こちらも話を終わらせなければと、気持ちが急く。

「もっと、方法がいろいろあるんじゃ」
「昔っから俺の言うことなすこと全部口答えするな、何なんだよお前」
「別に、全部ってわけじゃ……」

てか、銀時の方に口答えすることが多かった気がするのだが……彼の記憶はどうなっているのだろうか。
晋助って昔からどこか思い込み激しいところがあると思っていたのだが、ここでそれを発揮するのかと刹希は少し呆れ返ってしまう。

「……私、そう、私はやっぱり戦争の終わったこの時代で、今更政府に喧嘩売ろうとは思わない。あの頃は先生と皆のために戦ったけど、今はこの日常を守りたいから。晋助がぬるいっていうのもわかる。けど、私はまだこのままでいる。家のことは、まだ向き合えないから……」
「後悔するのはお前だぜ、刹希」
「今まで、後悔しかしてないから今更かな」

刹希は緊張が解けたようにへにゃりと笑った。

「勝手にしろ」

晋助はそういうと踵を返して歩き出した。
呆れただろうか、それでも、今の自分の精一杯だった。
最後は俯いてて彼の顔は見えなかった。
次はいつ会う事になるのだろう、そう考えながら刹希は晋助の後ろ姿が見えなくなるまでその場で見ていた。

「……何も教えてくれないくせに」

闇夜に溶けるくらい微かな声は誰にも届かない。
刹希は一つため息をついて、銀時たちがいるだろう舞台の方へ向かい始めた。



   *



「ったく、今日は散々だったぜ」
「全くだね」

テロが起こった祭りはもちろん途中で中止となってしまった。
源外は騒動の中ちゃっかり行方をくらまし、神楽と総悟は競うように店じまいする屋台から食べ物をかっぱらっていた。
銀時と新八と合流した刹希は、お互い疲れた顔をしながら帰路に着いていた。

夜の河川敷を歩きながら前を歩く神楽と新八は元気そうだ。
子供ってやっぱり祭りの日は元気なんだなぁ、と年甲斐もなく考えてしまう。
隣にいる銀時はいつの間にか掌を怪我してるし、とりあえず止血はしたが帰ってしっかり消毒しなくてはいけないだろう。
本当に銀時は知らないところでよく怪我を作ってくるものだ。

「そういえば私って、晋助の行動に口答えしてたっけ?」
「ああ?……覚えてねぇよそんな昔のこと」
「だよねー」

お互いに前を見て、緊張感のない会話を繰り広げる。
なんだかんだ言って、家のこと以外を隠し事にする気があまりないのは刹希の方だ。
むしろ彼女から言えば銀時も口を割ることもある。

「なんか言われたわけ?アイツに」
「俺の言うことなすこと口答えしやがって、みたいな?」
「よし、次会ったら締めるわ、あのバカ杉」
「締めなくてもいいけどさァ……」

銀さんやるからマジで、と変な意気込みを見せてくるが正直どうでもいい刹希。
ちらりと銀時を見れば月明かりに照らされて銀髪が淡く光っていた。
別にそれだけだ、別にカッコイイとかそんなんではない。断じて。

「ナイナイ」
「何が?」
「バカ杉の発言が」
「は?」

『お前アイツのこと好きなのか』

何故今更そんなことを思い出すのか、さっぱりわからない。
わからないというか、なんかイラッとする。
もう一回ちゃんと違うから!と否定しておけばよかったかと、悶々と考え出してしまう。
まさか旧知にそんな誤解をされていたとは思わなかった。

「私別に銀時のこと好きでも何でもないから、ただの手のかかる兄弟だから」
「ねェ、なんで俺今振られてんの!?全然脈略もなく振られたんだけどォォ!!」
「よく飽きないねあの二人……」
「喧嘩するほど仲がいいアルからな」
「仲がいいっていうのかなアレ」

神楽と新八は鬱陶しそうにする刹希と大人気なく涙を流す銀時を見てそんなことを漏らしていた。



2015.8.2


(あとがき)
銀さんと高杉は悪友とか戦友とかそう言う言葉では言い表せないのです。あくまで例えです。


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