B
「それじゃあウーロンハイで」
「いや、ないです。焼酎ありますよ」
「焼酎じゃすぐ酔うでしょうが」
「烏龍茶はありますよ」
「なんで烏龍茶はあるのよ!」
「じゃあ何飲むんですか」
「烏龍茶で!!」

呑もうぜと言われたくせに、結局酒を飲む展開にはならなかった。
品揃え悪くない?と文句を垂れつつ、屋台を散策している神楽と新八、そして三郎に目を向けた。
なぜだか、三郎も神楽、新八を追って付いてきてしまったのだ。
そして当たり前のように更についてきたのは、銀時の横で酒を飲んでいる源外だ。

「妙なモンだな。なんだか三郎も楽しそうに見えるわ」
「そりゃいつも険しい顔したジジイといるよりは楽しいだろ」
「フン……息子と同じよーなこと言いよる」
「平賀さん、息子さん居るんですか?」

店員から受け取った烏龍茶を飲みながら、刹希は源外を見遣る。
てっきり独り身だと思っていたせいで、これっぽっちも子供がいるなんて思わなかった。

「もう死んじまったがな。勝手に戦に出て勝手に死んじまったよ」

源外は昔に浸るように息子のことを話した。
源外に劣らずカラクリが好きで、勝手に工場に来ては機械をいじりまわすクソガキだったようだ。
当時はカラクリで儲けることは難しくジリ貧生活だったらしいが、源外はあの頃が一番幸せだったんだろうと零した。

「昔は何も考えずただ好きだからカラクリいじりまわしてたが、江戸一番の発明家だとか言われだしてからカラクリは俺にとって何かを得る手段になりさがっちまった……」

その父の姿を見て息子は反発して出て行ったらしい。
きっと息子にとって、父と一緒にカラクリを作ることが好きだったのだろう。
そう言えば、昔そんな仲間がいたようないないような、刹希は話を聞きながら首を傾げた。

『久下野、俺は親子喧嘩しに来たんだよ――』

「そういや、お登勢から聞いたが、てめーも戦出てたんだってな」
「あん?戦っつっても俺のは大層なモンじゃねーよ……」

銀時と源外の会話を右から左に流しながら、昔の記憶を手繰り寄せていた。
機械の整備に強かった男が、笑って親子喧嘩しに来たと言っているのを思い出したが、まさかねと刹希は心の中で笑う。
でも、もしかしたらと考えると、次に思い出すのは晋助の顔だった。
あの男は晋助の率いていた鬼兵隊にいたはずだ。

(だからこのタイミングだった?……でも、晋助が何もしないはずない。源外さんをけしかけた?)

攘夷浪士の中でも過激派である晋助が、将軍も参るこの祭りでただ見物しているはずもない。
もし、源外とあの男が親子だとするなら、晋助が目を付けそうなものだ。
嫌な予感しかしない、晋助はどこで見ているのだろう。

「ちょっと、新八たちのところに行ってくるね」
「おー」

刹希は何気なく立ち上がって銀時に声をかけると、屋台を出て人ごみの中を歩き出した。
だが、晋助がいそうな場所にあてなどない。
忙しなく行きかう人々の顔を確認するが、そんな簡単に見つかるわけでもない。
捜そうと思ったはいいが、刹希は開始数分で挫けそうな心持ちに至っていた。

「お!刹希ちゃんじゃないか!」

祭りの喧噪の中で、聞き覚えのある声が微かに聞こえた刹希は周囲を見回す。
あ、と声を出して見つけたのは、大きく手を振っている真選組局長の近藤だった。
傍らには土方もいる。
なんでいるのだろうと疑問に思っていると、二人の背後にあった櫓が理由だった。

「ああ、将軍ここで見てたんだ」

見世物舞台の真正面に陣取って高みから見物している。
どうやら屋台が並んでいた道を抜けて、中心地に来ていたらしい。
刹希は近藤と土方のもとへ向かった。

「もしかして一人で来た?」
「いえ、銀時たちもいますよ。向こうで遊んでます」
「あいつらほっといていいのかよ」

土方は怪訝そうにそんなことを言った。
きっと騒ぎでも起こすんじゃないかと思われているのだろう。
まったく信用されていない銀時たちが少しかわいそうに思える。だが、否定はできない。

「まあ大丈夫ですよ、たぶん。それより、真選組は警護ですか?」
「ああ」
「祭りの日までご苦労様です」

いろんな意味で、なのだが。
沖田がいない時点で、サボっているのだろうと予想できてしまう。
案の定、トイレに行くといって全然戻ってこないらしい。

「テロとか大丈夫なんですか?」
「また総悟が喋りやがったのか」

土方は顔に手を置いて重いため息をついた。
そんな土方を近藤がなだめるが、正直こんなことは茶飯事なため土方も立ち直りが早い。

「……なんでしたっけ、高杉晋助が来てるとか来てないとか、聞きましたけど。大丈夫なんですか?」
「ああ、心配ないさ。俺たちが市民の安全をしっかり守るからな!」
「だが気は抜けねェ。ここまで音沙汰なしだが、祭りはまだ長いからな。お前も気を付けろよ」
「わかってますよ」

だが一番気を付けるべきなのはここだ。
もし、晋助が源外をその気にさせたのだとすれば、彼は見世物の時に何かを起こすはず。
見世物は花火だといっていた。
考えられる手段は花火の玉を本物の砲弾にするか、というところだが、晋助がどこでそれを静観しているのかが分からない。

「そういえば、刹希ちゃんはどうしてここにいるんだ?」
「え?ああ……江戸一番のからくり技師の見世物があるそうなので、見に来たんですよ」
「そういやあるなァ!今回一番の見世物らしいじゃないか」
「お、噂をすればだぜ」

土方が舞台に目を向けてその模様を見ている。
いつの間にか正装している源外と隣には三郎がいた。
観客も歓声を上げて、源外の見世物を楽しみにしているようだ。
三郎が右腕を上げると、花火が上がった。
鮮やかな色と体内を揺さぶるの振動と、眩しすぎる光。
将軍はどんな気持ちでこの花火を見ているのだろう。

「……なんて、馬鹿らしい」
「あ?なんか言ったか?」
「いえ〜!何も言ってませんよ!」

どんどん上がる花火の音で声がよく聞こえないのだろう、土方は眉を寄せてこちらを見てくる。
聞こえなくてもいい、刹希はそう思いながら笑って手を振った。

目の前の光景を、暢気に見ているのだろうか。
ならば、その表情が変わる時どうなるのだろう。
そう、晋助も思っているのだろうか。

「オイオイなんだ?」
「カラクリがこっちに砲門を!?」

客のざわめきと源外の動きを見て、これがやりたかったのだと思った。
存外刹希の想像は合っていたらしい。
この状況を、晋助はどこかで見ているはずなのだが、一体どこだろう。
三郎は源外の指示でそれを打ってきた、大きな煙幕が会場を包み込んでいる。

「うわァァァァ!」
「こいつァ煙幕か? 混乱に乗じて将軍を狙うつもりだな!!」

視界は悪い。煙幕の中を客の影が蠢きあっていて、収拾がつかない様子だ。
これでは晋助を探すどころではない。

「チッ、万事屋の顔見なくて済むと思ったが、やっぱり無事にゃ行かねぇか」
「……あ」
「てめーらァ、櫓の周りを固めろォ!!鼠一匹寄せ付けるんじゃねーぞ!!」

土方のぼやきにも似たその台詞に、刹希は思わず走り出していた。
昼間、源外とともに直したカラクリたちが目の前に現れるが、それを素通りして客と同じように屋台の方へ向かった。

なぜ気がつかなかったんだろう。
彼は小太郎にも会っていた、刹希にもわざわざ会いに来た。
悪友であり元戦友である銀時に会わずにいる訳ないのだ。



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