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一同は志村家へ集まり、ふんどし仮面を捕らえることにした。
なぜかお妙にノックアウトされていた近藤も復活して内輪に混ざっていたがこの際気にしないでおこう。

軒先に吊るされている角ハンガーにはお妙のパンツがぶら下がっていた。
これを餌にふんどし仮面をおびき出してとっ捕まえるという算段である。

「いいかー、相手はパンツの量より娘の質を求めてる真性の変態だ」
「よって、一度パンツを盗まれているお妙のところにふんどし仮面はまた必ずここに忍び込んでくるでしょう。今回はそこを叩きます」

オオー!と神楽とお妙、そして近藤が気合充分に声を上げた。
近藤のいかにも戦に行ってきます装備については、よく隊士たちに何も突っ込まれなかったなと思う。
こんな男が上司って、世の中マトモな上司って存在しない気がしてならない。

「刹希さんその刀初めて見たんですけど、本格的すぎません?」

各々ふんどし仮面対策を行っている最中、新八は縁側でぼーっとしている刹希に声をかけた。
新八が気になったのは刹希の傍らに立てかけてある刀である。
志村家にあるものでもない、もちろん坂田家でも目にしたことのない刀だ。
どっから持ってきたんだと疑問に思っていると刹希は刀を持ち上げて新八に渡した。

「その刀は私のよ。ずっと部屋に置いてあったんだけど、新八は私の部屋はいらないから知らなかったでしょ」
「へー刹希さんのなんですか。刀持ってるって、刹希さん何者ですか」

女で刀を所持してるなんて滅多にないことだろう。
そもそも女でありながら攘夷戦争に参加していたこともおかしな話なのだ。
この人本当に何者だと疑問に思うのも当然である。

「……新八は私を何者だと思う?」
「いや、聞き返されても困るんですけど」

にっこり笑って質問を質問で返してくる刹希。
ああこれは話す気ゼロだなと新八は肩を竦ませて聞き出すことを諦めた。
これまでの付き合いからなんとなく刹希や銀時の過去を知れるようになってきたが、刹希に至っては話を振っても絶対話そうとしない節があるのだ。
よほど触れられたくないのか、思い出したくないのかわからないが、嘘でも話をする銀時の方がまだわかりやすい気さえしてくる。

「てか、刹希さん今回の話やる気ないですよね」
「あれ、バレた?」
「縁側でのんきにしてる時点で見え見えですから」
「まあ私下着取られてないからねェ」

身も蓋もないこと言うな。
それをお妙の前で言ったら締め上げられかねない。
幸いお妙は薙刀を振っていてこちらに見向きをしていないけれども。

そんなこんなで、近藤が敷地のあちこちに地雷を設置しているのを見ながら日は暮れていった。
パンツがぶら下がっている軒先から距離のある茂みの中に身を潜めて刹希たちはふんどし仮面が現れるのを待った。
月もてっぺんに差し掛かりそうな頃合である。

「ちょっと、全然泥棒来る様子ないんですけど」
「コレひょっとして今日来ねェんじゃねーの?」
「大丈夫よ、きっと来るって」
「いや、だから何を根拠に今日来るって言ってるんですか?」
「あんなにこれ見よがしにパンツがぶら下がってるアル、下着泥棒がほっとくわけないヨ」
「いや、あからさますぎるよ!なんか罠まる出しだし」
「新ちゃん、泥棒というのは目的までの障害が困難である程燃えるものなのよ」
「何勝手にキャラ設定してんの?気の小さい泥棒だったらどーするんスか」
「泥棒やってるくせに気が小さいわけないでしょ」

ホント刹希さんの自信どこから来るの?と新八は再度突っ込んだ。
それにしたって何時間も待っているのに泥棒がやって来ない。
わざわざ徹夜してお前の大好きなパンツ用意しているっていうのになんで来ないんだ。
夜だっていうのに暑いから余計にイライラしてくるのである。
夏特有の蒸し暑さが漂っていて、手で仰いでいても全く暑さが紛れることがない。

「お前らちょっとは黙れないの?泥棒にバレたら全部パーだぞ」
「パーなのはオメーらだよ!このクソ暑いのによ!」

「なんだとこの野郎!コンタクトにしてやろーか!」「新八私の頭がパーだとか言いたいわけ?何様のつもりだ!」とかなんとか、新八のパー発言に近藤以外の全員が食いかかった。

「あーもう止めて止めて喧嘩しない!暑いからみんなイライラしてんだよな、よしちょっと休憩。なんだか冷たいものでも買ってこよう」
「あずきアイス!」
「なんかパフェ的なもの!」
「ハーゲンダッツ!」
「チューペットで!」
「僕お茶」
「ハイハイ、じゃ買ってくるからおとなしくしてなさいよ」

年長者である近藤がそういって茂みから出て買いに行こうとした時だった。
言い合いをしていた刹希たちの後ろで爆発が起こった。
何事だと振り返ると煙を上げながら近藤が倒れていた。

「……アラ、近藤さんが爆発したわ」
「あー、暑かったからアルヨ」
「んなわけねーだろ、自分でしかけた地雷ふんだんだよバカだね〜」
「アレ?ちょっと待って、ひょっとして地雷どこにしかけたかみんな覚えてないの?」

新八の発言に全員が顔を見合わせた。
無言の状態で誰も発言しないということは、新八の言うとおりなのだろう。

「大変だわ、明日新聞配達のオジさんが爆発するわ」
「言ってる場合ですかァァ!!」
「ということは私たち、ここから身動き取れなくなったってことね」
「何冷静に分析してるんスか!こんな状態じゃもう泥棒とか言ってる場合じゃねーよ!!」

どうするんだよォォ!と新八がこの世の終わりみたいなテンションで叫んでいると、聞きなれない男の高笑いが聞こえてきた。
「滑稽だよ!」と繰り返す声を見ると、屋根の上に男がひとり立っているではないか。
噂通りブリーフ一丁に赤いふんどしを頭にかぶっている、あれがふんどし仮面だ。

「最悪だァァァ!!最悪のタイミングで出てきやがったァァ!!」
「ほーら、来るっていったじゃない」
「だからなんでそんなに自信たっぷりなの!?」

ふんどし仮面はそこで指をくわえてパンツをとられるところを見ていろと言った。
茂みの向こう側はどれだけの地雷が設置されているのか全くわからない。
やはり無闇にふんどし仮面をとっ捕まえることはできなかった。
ふんどし仮面が屋根から縁側に移ろうとしたが、着地した瞬間ドォンと大きい爆発が起こった。

「……床の下にも地雷セットしてたんですね」
「そーみたいだな」
「近藤さん侮れないわね」

しかしふんどし仮面は爆風で舞い上がったパンツをしっかり掴んだ。
ボロボロの状態でなんとか立ち上がったふんどし仮面は全国の変態達が俺の帰りを待っているんだとバカな事を言っている。
アホらしい、と今にもふんどし仮面が逃げて行きそうな場面だというのに刹希は呆れた。

「待てェイ、汚ねェ手でお妙さんのパンツにさわるんじゃねェ!!俺だってまださわったことねーんだぞチクショー!」

近藤さん最後のセリフは絶対いらなかった。
刹希はやっぱり最後まで決まらない男だと近藤をかわいそうな目で見た。
でも地雷被害者一人目だった近藤にしてはふんどし仮面の足にしがみついている様は根性があった。
少し尊敬できた瞬間である。

「銀時ィィ何やってんだ早くしろォ!!今回はお前にゆずってやる!!」
「うるせーな。言われなくてもいってやるさ、しっかりつかんどけよ」
「ちょ、銀時!」

木刀を抜いてふんどし仮面に走っていく銀時。
そんなに無鉄砲に走っていったら、と刹希が顔を青くさせていると、予想通り銀時は地雷を踏んでしまった。
言わんこっちゃない、となんにも言ってない刹希はため息をついて手を顔にやる。
その横でお妙が銀時と同じ道を走り出した。
煙が立ちこめる中、お妙は倒れている銀時の背中を踏んづけて大きく飛ぶと、薙刀を振りかぶった。

「女をなめるんじゃねェェェェ!!」
「ぎゃあぁぁぁ」

こうしてふんどし仮面を倒すことができた。
さすがお妙といったところか、当初言っていた通り自らの手でふんどし仮面を血祭りとまではいかないが、やっつけてしまったのだ。

「ほしけりゃすっ裸で正面から挑んできなさい、心までノーパンになってね」
「アッハッハッハッ姉上ェェェ!!」
「やっぱり姐御が一番アル!」

神楽と新八は頼もしいお妙に走っていった。
ピ、という音がした次の瞬間、三人もまた地雷の被害を受けたのだった。

その模様を茂みからずっと見ていた刹希はおもむろに懐から携帯を取り出してピピパと電話をかけた。

「あ、警察ですか?庭に地雷が埋まっていて身動きがとれないので地雷処理班お願いします」




2015.4.20


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