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砂漠にやってきた宇宙船は辰馬の知り合いの船だったようだ。
途方にくれていた乗客は、文字通り助け舟の登場に喜んで船内に入っていった。
ヘロヘロだった神楽も銀時に連れられて早々に船内に引っ込んでいった。

「アッハッハッハッ、すまんの〜陸奥!こんな所までむかえにきてもらって」
「こんなこたァ今回限りにしてもらおう。わしらの船は救援隊じゃない商いするためのもんじゃきー頭のあんたがこんなこっちゃ困るぜよ」

辰馬と話している陸奥という名の女?は笠を目深にかぶって辰馬に文句を垂れる。
刹希はのろのろと立ち上がって辰馬に近づいた。
自分たち以外の辰馬の仲間に少なからず興味があったのだ。

「それからわしらに黙ってフラフラすんのも今回限りじゃ」
「アッハッハッすまんの〜、やっぱり女は地球の女しかうけつけんき」
「女遊びも程々にせんとまた病気うつされるろー」
「アッハッハッ、ぶっとばすぞクソ女」

頭のカラな辰馬を止めてくれる仲間も出来ていたようだ。
一人で無茶苦茶していないようで良かったと、誰かさんのことを考えつつ刹希は安心した。

「それにしても大きな船ね」
「ああ『快援隊』ちゅーてな、わしらの施設艦隊みたいなもんじゃ。ちゅーても戦するための艦隊じゃのーて、この艦隊そのものが会社なんじゃ」
「会社?」
「そうじゃ、わしらこの船使ってデカい商いやっちょる。色んな星々回って品物ば売り買いしちょる……まァ貿易じゃ」
「ふーん、辰馬そんなことしてたのね!」

辰馬に連れられて刹希も船内に入った。
入り組んだ内部は商い用の物品と思われる積荷が所狭しと積み上げられていた。
二人は甲板の方へ向かうと、助けられた人たちが水分補給をして体を休めていた。

「じゃが近頃宇宙は物騒じゃきに自衛の手段としてこーして武装もしちょるわけぜよ」
「へー辰馬でも色々ちゃんと考えてるのね。銀時や小太郎みたいに行き当たりばったりのバカじゃなかったのね!」
「アッハッハッ、泣いていい?」

裏表のない純粋な笑顔で言ってくる分、辰馬のダメージも大きかった。
刹希は辰馬に対しては皮肉った言い方をしないのだが、それはそれでくるものがあるのである。

「刹希さん!」
「ああ新八、水分補給できた?」
「はい。刹希さんの分もあっちにあるので飲んできてください」

新八が言う先では、銀時がひと樽抱えて神楽に水を飲ませていた。
あれを全部飲んでしまう神楽も神楽だが、持ち上げている銀時も銀時で元気だなと呆れてしまう。
刹希は新八に礼を言うと自らも水分補給に向かった。

「すごいですね宇宙に出て商いするなんて、そんな発想そうそうできないですよ」

新八がそういうと辰馬はカラカラと笑って空を見上げた。

「わしも昔は銀時やヅラ達と天人相手に暴れまわっちょったが、どーにもわしゃ戦っちゅーのが好かん。人を動かすのは武力でも思考でものーて利益じゃ。商売を通じて天人・地球人双方に利潤をもたらし関係の調和ばはかる、わしゃわしのやり方で国を護ろうと思ってのー」

かつての戦友である小太郎も社会制度を変えようと奮闘しているし、晋助は幕府を倒すために色々画策している。
道は違えど皆何かしらを思い動いているのだと辰馬は言った。

「へぇーみんなスゴイんですね。ウチの大将は何考えてんだか、ブラブラしてますけどね」
「アッハッハッハッ、わし以上に掴みどころのない男じゃきにの!じゃが人が集まってくる男ちゅーのは何かもってるモンぜよ。わしやヅラの志に惹かれて人が集まっとるよーに」

新八も神楽も銀時の中の何かに惹かれて慕ってるんじゃないかと言われると、それは定かではないが少なくとも新八に否定できるものではなかった。
もともと万事屋で働こうと思ったのも銀時になにか見た気がしたからだ。
神楽もそう何だろうか、いまいちわからないがそうなのかもしれない。

「……それじゃあ、刹希さんも銀さんの中の何かに惹かれてるんでしょうか」

常々しっかり者な刹希が銀時と行動を共にしている理由がわからなかった新八は、思ったことを口から漏らした。
新八と辰馬は怒鳴りつけている刹希と叱られている銀時をみやった。
やっぱりどう見ても刹希が銀時の中の何かに惹かれているようには見えない。

「刹希は、そういうものとは少し違うだろうのー。刹希には金時がいないとダメなんじゃき」
「え?逆じゃないですか?」
「ん?これで合ってるじゃろー」

アッハッハッと笑う辰馬に新八は首をかしげるしかなかった。
銀時に刹希がついていないとダメなのはわかるとして、その逆となると意味不明だ。
新八から見れば、刹希はどう見たって一人でも生きていけるしダメダメな大人になるようには見えない。
この人やっぱりバカなのかと思うが、ふいに見た辰馬の真剣なその顔に新八は口を閉ざした。
なんだかんだ言って、自分や神楽には立ち入れない昔の彼らがそこに存在しているんだと考えさせられた。

「ギャァァァ」
「助けてェェ!」

やっぱり大人って色々考えてんだな、と感慨に耽っていると目の前に何かに巻き付かれた人間が宙に浮いているのが見えた。
叫んでこっちを見てくるその光景になぜか思考は停止してのんきに見入ってしまう。

「あれ?何?ウソ?何?あれ?」
「アッハッハッ、いよいよ暑さにやられたか。何か妙なものが見えるろー。ほっとけほっとけ、幻覚じゃアッハッハッ」
「その巻きついてるのが幻覚に見えるなら辰馬は何も変わってない馬鹿さ加減ね」

端で見ていた刹希は、辰馬の腕に絡み付いてくる触手を見ながらそうつぶやいた。
辰馬は辰馬で、触手に引っ張られて船から宙に放り出されても尚「幻覚じゃ」と高笑いしている。
船にいた元乗客達は化物が現れたと再度慌て出し、我さきにと船内に入ろうとしていた。

「あれは砂蟲じゃ」

先程辰馬に説教していた陸奥が横に来てそう言った。
陸奥曰く、砂蟲はこの星の生態系で頂点に立つ生物らしい。
普段は静かな生き物だが、砂漠の上でガチャガチャ騒いでいたせいで目を覚ましてしまったのだという。

「上司が危険な目にあってもその冷静さ、私この人と仲良くなれそう」
「そうですよね、アンタもそっちの人ですもんね!」
「お互い面倒な上司を持ったもんじゃな」
「イヤ辰馬の方が仕事しそうなんで羨ましいです!むしろ!」
「友情深める前にあの人助けるのが先なんじゃないんですかァァ!?」

なぜか硬い握手を交わす二人に新八は慌ただしく正論を吐いてきた。
陸奥は新八と辰馬に視線を向けてわざとらしくため息をついていった。

「勝手な事ばかりしちょるからこんな事になるんじゃ。砂蟲よォォ、そのモジャモジャやっちゃって〜!特に股間を重点的に」
「何?何の恨みがあんの?」
「砂蟲ィィ!ついでに白髪天パもやっちゃって〜息の根止めて星に返しちゃって〜」
「刹希やっぱり俺の事を思って宇宙葬にしてくれるんだぜ」
「銀ちゃんだけズルいアルヨ〜」
「何自分に都合のいいこと言って言ってんだよ!死ねって言われてるのわかんないの!?」

刹希たちがくだらないやり取りをしている内に、砂蟲が地中から地鳴りと共に姿を現した。
ヤドカリに入ったタコのようにも見えるその砂蟲は、大きな触手を戦艦に絡めてきた。
大きく揺れる船上で、刹希たちは柵に掴まったり床に這いつくばったりして振り落とされないように耐えていた。

「ヤバイ!船ごと地中に引きずりこむつもりだ!!」
「大砲じゃぁぁぁ!!わしばかまわんで大砲ばお見舞いしてやれェェェ!!」

砂蟲の触手に捕まっていた辰馬は陸奥達に向かってそう激を飛ばした。
床に座り込んでいた刹希はなんとか立ち上がって辰馬を見た。
なんて無茶な事を言うんだろう、刹希の心音が激しくなった。
昔から無茶苦茶な言動をとる男だったが、死ぬつもりなのだろうか。

「大砲撃てェェェ!!」
「ちょ、本当に撃つつもり!?」
「奴一人のために乗客全てを危機にさらせん。今やるべきことは乗客の命救うことじゃ」

刹希は振り上げていた陸奥の腕にしがみついて下ろさせようとしたが、意外と力強かったせいでどうにもびくともしなかった。

「大義を失うなとは奴の口癖……撃てェェェ!!」

陸奥の掛け声とともに大砲が砂蟲に撃ち込まれた。
爆風と爆炎に竜馬が巻き込まれそうで見ていられなかった。
刹希は銀時が木刀を持っているのが見えてハッとした。
陸奥の腕から離れて、船上を見回した。

「奴は攘夷戦争の時、地上で戦う仲間ほっぽいて宇宙へむかった男じゃ、なんでそんなことができたかわかるか?大義のためよ、目先の争いよりももっとずっと先を見すえて、将来の国のためにできるとこを考えて苦渋の決断ばしたんじゃ。そんな奴に惹かれてわしら集まったんじゃ、だから奴の生き方に反するようなマネわしらはできん」

例え上司が危機に陥ろうとも、辰馬ではないものを優先しろというのだろうか、ああそうじゃないだろうと刹希は走りながら思った。
バカバカしい、そう思うのはきっと今があるからだ。

「砂蟲が潜り込む前にしとめるんじゃァァ!!」
「坂本さんを救えェェ!!」
「神楽、これ持ってて。貴女にしか出来ない仕事よ」
「任せるヨロシ!」

刹希はだいぶ体力が回復してきている神楽に先ほど見つけた無駄に長い縄を持たせた。
一方で辰馬の仲間が地中に潜り始めた砂蟲を仕留めようと慌ただしく動き回っているが、その時大砲の上に銀時が飛び乗った。
木刀を大砲に突き刺して撃つことを妨害したのだ。

「こんなモンぶちこむからビビって潜っちまったんだろーが、やっこさんが寝てたのを起こしたのは俺達だぜ、大義を通す前にマナーを通せマナーを」
「ていうか辰馬の大義なんてすこぶるどうでもいいわね。私はこの馬鹿銀時といても銀時の大義とやらを尊重した覚え一切ないわよ、私を見習いなさい私を」
「銀さん!刹希さん!」
「辰馬ァ、てめー星を救うとかデケー事吐いてたくせにこれで終わりか!?昔からテメーは口だけだ……俺を見ろ俺を、自分の思った通り生きてっぞォォ!!」

銀時が潜ってく砂蟲に向かって飛び上がった。
同時に刹希も船の縁を蹴って外に飛び上がった。



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