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晋助が刹希の前に現れてから三日が経った。
この日は皆が待ちに待った祭り当日である。
鎖国解禁の足がかりともなったターミナル付近では、露店が立ち並び大人子供でひしめき合っていた。

そんな中、刹希はかぶき町に近い河原に来ていた。
三日前に銀時たち三人に任せていた騒音トラブルの件がまだ片付いていなかったのである。
騒音を起こしていた張本人の平賀源外は祭りの見せものの為に毎日ガシャコンガシャコンと騒音をまき散らしていたらしい。
止めに入った銀時たちだったが、毎度の如くトラブルを引き起こして平賀の手伝いをする羽目になったのだという。

かくして祭り当日にバイトもない刹希が源外の手伝いをしている銀時たちの手伝いにやってきたのだった。
なんてまどろっこしいのだろう。

「万事屋三馬鹿がご迷惑おかけしましてすみません」
「ちょっと刹希さん!?僕は全然ご迷惑かけてないんですけど!」
「連帯責任だ馬鹿メガネ」
「誰が馬鹿メガネだァァァ!!」

機械のことに関してはさっぱりだがそれなりにカラクリ人形の組立には尽力できただろう。
子供たちの楽しそうな声を端で聞き流しながら黙々と作業をしていると、サボリ気味の銀時が綿菓子の匂いに反応する。

「この甘ったりィ匂いは……綿菓子だ、綿菓子の匂いがする綿菓子だよオイ!綿菓子ィィィ!!」

お前はガキかとぶん殴りたくなるほど駆け出していく銀時に頭を抱える。
アレが自分より年上の大人だと思うと情けなくてしようがない。
駆け出していく銀時に源外の投げたスパナが見事頭部に直撃した。

「仕事ほったらかしてどこへ行く!?遊んでねーで仕事しろ仕事!」
「そーよ、いい年した大人が綿菓子につられないでよ」

刹希は地面に倒れている銀時を引きずって作業に戻らせた。
朝から作業を続けている新八は疲れた顔で源外に話しかける。

「でも平賀サン、もう祭り始まっちゃいましたよ。手伝いに来たけどもうコレ間に合わないんじゃ……」
「カラクリ芸を将軍に披露するのは夜からよ、夕方までにどうにかすりゃなんとかなる。大体片付いたしな」

確かに、朝来た時よりも完成されたカラクリは多くなっている。
やっとゴールが見えてきたかとほっとしていると、銀時の次は神楽が何か始めていた。
「しらばっくれるんじゃないわよ!!」と言う神楽に、嫌な予感しかしなかった。
何してんだお前は。

「アナタ私が何も知らないと思ってんの!?コレYシャツに口紅がベットリ!もうごまかせないわよ!」
「御意」
「御意御意っていっつもアナタそれじゃない!そんなんだから部下にナメられるの!たまにはNOと言ってみなさいよこの万年係長が!!」
「神楽は子供のくせに昼ドラっ観すぎだから!!お妙みたいに月九を見なさい!月九を!」

神楽の言動がどんどんアレな方向へ行くのは確実に坂田家に居るからだと想像に容易い。
もし神楽の両親に会って文句言われたらどーしよ、などとありもしないだろう未来を想像して刹希はうなだれる。
月九を見たからって純粋な可愛い子になるとも到底思えないのだが、どこかのお姉さんがアレなのでフォローもできない。
それでも昼ドラよかよっぽどマシだろう。

「ギャァァァァァ何してんだァァ!!やめろォォォ!!」
「相手は誰よ!?さち子ね!新築祝いの時に来てたあのブサイクな部下!」
「止めろって!なんてドロドロなままごとやってんだ!!」
「アナタにとってはままごとでも私にとっては世界の全てだった!」

ドメスティックバイオレンスのごとしやり取りを繰り広げている神楽を止めに入ろうとしている源外と新八だが、まああの二人が簡単に止められるわけもない。
今にも三郎が故障してしまいそうなところで、刹希は重い腰を上げて神楽を止めに行った。

陽も傾き、夕暮れどきになったあたりでようやく壊れていたカラクリが全て直った。
祭りも夜になればここからが本番だと言わんばかりの活気が昼間より出てくる。
あの人ごみの中に晋助はいるのだろうかと、祭りの中心部へ向かっていく人だかりを見ながら頭の隅で考える。

「刹希、どうした?」
「え?いや、全然、なんでもない」

珍しく話にも参加しないで明後日の方向を見ていた刹希に、銀時が声をかける。
お前も祭り行きたいの?と的外れなようで、外れてないような問いに呆れてしまう。
子供や銀時じゃあるまいし、テンション上げていきたいなんて思ってないわよと適当に返した。
頭の中は先日の晋助の言葉についての答えだ。
ずっと、答えを探していたが、やはり納得いくものは出てこない。
モヤモヤと内に溜まっていくそれに、刹希は不快感を覚えていた。

「オイ、行くぞー刹希」
「え?」
「えって……一杯くらい飲めば浮かない気分も晴れんだろうが、付き合ってくれんだろ?」

気を遣ってくれているのだろうか。
いや、銀時に限って気を遣うなんて言葉は全然似合わないのだが、彼なりに浮かない刹希を心配しているのだろう。

「ジイさんから金ももらったし心配いらねえよ」
「なんでそういうこと言うかな……」

言うことはいっぱしなのに、最後の最後でどこか格好付けられないのだこの男は。
馬鹿なことを何かしら言わないと生きていけないのか、とため息をつきたくなる。
けれど、それが銀時だ。そんなの長年一緒にいる刹希は重々承知だ。

「ま、報酬ってことで羽目外すのもいいかもね」

既に祭りの中へ走っていく神楽と新八を眺めながら、刹希は銀時と共に祭りの喧騒に向かっていった。




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