B
早速このバカ、もとい辰馬を起こそうとした。
だが先頭の方で激しく地鳴りと錯覚するほどの揺れが轟いた。
何事かと全員が前を見やると「爆発だ!」と客が先頭から我先に逃げてくる。
床に倒れているテロリストはパニックになる乗客を見て嘲笑う。
船がテロリストの言っていた通りターミナルへ向かっているのだろう、機体は大きく傾いて乗客員はバランスを崩して床に倒れ込んでしまう。

「どなたか宇宙船の操縦の経験のある方はいらっしゃいませんか!?」
「もうホント誰でもいいから助けてェェェ!!」
「銀時!」

刹希は銀時の着物を引っ張って辰馬を指さした。
昔から船が好きだとかなんだとか言っていた気がする。
というか、そういうのがあって辰馬は戦争を途中放棄してどっかへ行ってしまったのだが、それは今は置いておくとしてここは辰馬にかけるしかないと刹希は思った。
銀時もそれに同意して、辰馬の髪の毛を掴むと先頭へ走り始め、刹希も後を追った。

「イタタタタタ!!何じゃー!!誰じゃー!?ワシをどこに連れてくがか!?」
「テメー確か船大好きだったよな!?操縦くらいできるだろ!!」
「なんじゃ?おんしゃ何でそげなこと知っちょうか?あり?どっかで見た……」

髪の毛を掴まれながらも辰馬は銀時の顔を見た。
少し老けたか、でも白い髪も眼差しもどことなく変わらない雰囲気が過去の銀時と合致した。

「おおおお!!金時じゃなかか!!おんしゃなぜこんな所におるかァ!?」

久しぶりじゃのーと楽しそうに話しかける辰馬は、昔と何ら変わらず馬鹿なんだなと思う。
めでたいから酒を用意せい!と誰に言ってんのかわからない辰馬を、銀時は思いっきり壁に叩きつけた。

「銀時だろーがよォ、銀時。もし俺が金時だったらジャンプ回収騒ぎだぞバカヤロー」
「それよりも辰馬死ぬよ、銀時」
「この馬鹿がそんくらいで死ぬタマかよ」

そりゃそうですがね、と思うも再度意識を飛ばしかけている辰馬が少し可愛そうに見えていくる。
刹希は銀時や小太郎の雑な対応に比べると辰馬には優しい対応をしているのである。

「おおー!まさかその声は刹希か!?ちっくと見ない間に綺麗になったのー!!」
「やだ辰馬、相変わらず口が上手いね」
「ほがなことなブァァ!」

陽気な辰馬を銀時は再度地面に向かって投げ飛ばした。
顔面スライディングをかまして、何するんじゃ!と抗議の声を上げてくる辰馬に、銀時は足で踏み潰さんとした。
げしげしと足を向けてくる中で辰馬は笑いながらやめろーと言っている。
なんだこの状況と、刹希の顔が引きつった。

「ホントお前のそういうところ嫌いだわ!銀さんイラッとするわァ!!」
「何をそんなに怒っちゅうか!?はっ!銀時も素直に刹希が綺麗って言えばいいやか!」
「何閃いた!みたいな顔してんだくるくる頭ァ!別にそういうんじゃないから!誰もあいつ綺麗とか思ったこと一ミリもないから」

じゃー普段のあの態度は何なんだよ、と刹希は突っ込みたかった。
隙さえあれば素敵だの綺麗だの好きだのと言っているが、あれは一体どーいうことだと考えてみるも、ただの冗談半分だろうと片付けてしまった。
この思考結果に行き着くのも銀時の日頃の態度のせいで、自業自得だ。
銀時としては真面目にそんなセリフ吐けないのである。
だから辰馬が恥ずかしげもなく本心を言うのがイラッとする、しかも刹希が嬉しそうにしているのが余計腹が立つ。

「あんたらそんなことどーでもいいから本題戻ってくれない?私たち今死にそうになってんのわかってる?」
「はい、すんません」
「おー刹希は見ない間に迫力も3割増しじゃ!」
「あぁ?」
「よーし、メインコントローラーはどこがか!?」
「その中じゃねーのは確かだな」

操縦士のポケットの中を見るというバカな行動をとる辰馬の頭を、銀時と刹希はそろって叩いた。
真面目にやる気あるのかてめーは!と二人揃って突っ込むものだから、辰馬はそのハモリ具合にさらに笑ってしまう。

「もう何でもいいからどうにかして!辰馬だけが頼りなんだから!」

刹希の一声でようやく辰馬が真面目に作業に取り掛かり始めた。
そうしている間にも新八と神楽が慌ただしく操縦室に入ってきた。

「大丈夫なんですか?みんな念仏唱え出してますよ!」
「心配いらねーよ、あいつに任しときゃ」
「知り合いなんですか?」
「小太郎と同じで戦争時代の仲間よ」
「あいつは頭はカラだが無類の船好き、銀河を股にかけて飛び回ってる奴だ。坂本辰馬にとっちゃ船動かすなんざ自分の手足動かすようなモンよ」

剣を振り回すよりも船をいじっている方が、辰馬の本領が発揮される。
そう言ってしまえるくらいこの男は船が好きなのだ。
辰馬がこの場にいてくれることこそ心強い、と二人は思ったのだが……。

「よーし準備万端じゃ……行くぜよ!」
「ホントだ、頭カラだ……」

倒れているパイロットの足を掴んで、舵を切ろうとしているバカに新八はすかさず突っ込んだ。
もちろん銀時は辰馬の頭を掴むとグーパンして、ボコボコにした。

「おーい、もう一発いくか?」
「アッハッハッハッ!こんなデカイ船動かすん初めてじゃき、勝手がわからんち」
「そういうことは最初に言ってよ馬鹿辰馬!」
「なんか動物いっぱいで楽しいのー!」
「ちょっと一回頭開いて解体していいかな?」
「落ち着くぜよ二人共〜」

クナイを持ち出してきた刹希に、辰馬も流石に身の危険を感じたのかどうどうとなだめようとした。
次真面目にやんなかったら首落とすから、という脅しにもはや標準語で了解してしまう辰馬なのであった。

「銀ちゃん、刹希!変な星に落ちかけてるアル!」
「オイオイヤベーぞ!!」
「舵はどこにあるぜよ?」
「銀さん刹希さん!コレッすよコレ!」

新八が舵を発見してくれたが、どうにも新八の力では舵が動かせないらしい。
全員が舵の元へ駆けつけた。

「ボクでかした、あとはワシに任せ……うェぶ!」
「ちょっと辰馬!ゲロ吐いてる奴は近づいてこないでよ!!」
「アンタ船好きじゃなかったの!?思いっきり船酔いしてんじゃないスか!!」
「イヤ、船は好きじゃけれども船に弱くての〜……」
「何その複雑な愛憎模様!?」

馬鹿にプラスして本当に残念な男である。
これがなければ辰馬は頼りになる良い奴なのだが、今更そんなこと言っても仕方ない。
船酔いしている奴は置いておいて、どうにかしてこの舵を動かさなければ自分たちは死ぬだけだ。
万事屋全員は自分が動かすと舵の取り合いを始めてしまった。

「ちょっと神楽には絶対任せられないから離れなさい!」
「刹希は私のこと信用してないアルか!?」
「信用っていうか力任せに動かして舵壊しそうで怖い!!」
「オメーらはひっこんでろ俺がやる!普通免許持ってっからこんなモン原チャリと同じだろ!」
「一緒なわけないでしょーが!!ここは私がやるから!」
「オウオウ!素人がそんなモンさわっちゃいかんぜよ」

あーだこーだと仲間割れを始めている銀時たちの後ろで、辰馬が止めに入ろうとした。

「このパターンは四人でいがみ合ううちに舵がポッキリっちゅ〜パターンじゃ、それだけは阻止せねばいかん!」

辰馬にしては珍しく真っ当な未来予測をしたものである。
だが、馬鹿が珍しくマトモな思考回路を持つと悪い方向にしかいかないのがコメディー物の定石だ。
辰馬が走って四人の間に割ってはいろうとした瞬間、足元にあった瓦礫に躓いて転んだ。
思わず前に両手が伸びて、そばにあったそれを掴んだ。
ボキッと嫌な音を立てて、舵が取れた。

「……」
「……」
「……」
「……」
「アッハッハッハッそーゆーパターンできたか!どうしようハッハッハッ!!」
「アッハッハッハッじゃねーよ!」
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」

宇宙船はそのまま辺境の星へと落ちていったのだった。





2015.1.17




(あとがき)
辰馬の訛りは土佐弁変換サイトを参考にしました。
まあ変かもしれませんが許してやってください。
けどもしよかったら指摘してくれるとありがたいです。


prev next

bkm
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -