「あ〜やっぱダメだなオイ」
銀時と刹希は何事もなかったかのように、スクーターで道を駆け抜けていた。
「糖分とらねーとなんかイライラする」
「いやいや、発散してたじゃん。すごい暴れてたじゃん」
「おま、アレは暴れてるに入りません。ちょっと、お仕置きしただけです」
「まァ、これからまた一週間パフェはお預けってことで――」
マジかァァ!!と頭を抱える銀時。
しかし、そんな彼の嘆きを掻き消すほどの声が後方から聞こえ、というか迫って来た。
「よくも人を身代りにしてくれたなコノヤロー!!アンタたちのせいでもう何もかもメチャクチャだァ!!」
きっと全速力でここまで走ってきたのだろう、先ほどの店員新八が右手に木刀、左手に紙切れを持ちながら追いかけてきた。
「律儀な子だな、木刀返しに来てくれたの。いいよ、あげちゃう。どうせ修学旅行で浮かれて買ったやつだし」
「あ、その紙見てくれたんだ。でも、いらないから大事に持っててくれていいんだよ」
ついでに、銀時は天人を伸ばした木刀を新八の腰に差して、刹希は肩を叩きざまに 「こいつ無銭飲食しました」と書かれた紙を貼って置いたのだ。
二人してちゃっかりしている。
「違うわァァ!!ていうか、よくも無銭飲食なすりつけてくれたなァ!アンタらの所為で役人からやっとこさ逃げてきたんだよ!!」
よくぞここまで生き残った、君ならこの世知辛い時代生き抜けると思うよ。そう心の中で拍手を送る刹希。
「違うって言ってんのに侍の話なんて誰も聞きゃしないんだ!!しまいにゃ店長まで僕が下手人だって」
「切られたな、そりゃ。レジ打てねェ店員なんて炒飯作れねェ母ちゃんくらいいらねーもんな」
「アンタ母親をなんだと思ってんだ!!」
「いやいや、でもレジ打ちくらいはまともに出来ないとこれから先、バイトなんて出来ないよ。人生の先輩が言うから間違いないよ」
「レジ打ちに関しちゃ刹希は世界一だからな、あのレジ打ち大会覇者のミスレビッジさえも土下座させたからね」
「ミスレビッジって誰だよ!!レジ打ちに世界一もへったくれもないわァァ!」
なかなか良いツッコみを返してくる新八。
刹希はもう芸人でも目指したらいいんじゃないかと思ってしまう。
「大体バイトクビになったくらいでガタガタうる……」
「今時、侍雇ってくれるところなんてないんだぞ!!明日からどーやって生きて行けばいいんだチクショー!!」
持っていた木刀を思いっきり振りかぶって、今にも一撃食らわそうとしている。
だが、銀時は即座に急ブレーキをかけてそれを回避した。
「うわぁっ!」
突然のことに刹希は思わず銀時にしがみつく。
危うくふるい落とされてしまうところだった刹希は、スクーターがやっと停止して安堵する。
一方で新八には絶大なダメージを食らわせていたが……。
「ギャーギャーやかましいんだよ、腐れメガネ!!自分だけ不幸とか思ってんじゃねェ!!」
股間を押さえながらもなんとか立ち上がる新八少年に刹希は拍手した。
「世の中にはなァ、ダンボールをマイホームと呼んで暮らしてる侍もいんだよ!!お前そーゆーポジティブな生き方できねーのか!?」
「あんたポジティブの意味わかってんのか!?」
「あと、刹希ちゃんはちょうど胸当たってて良かった!もう一回お願いします!!」
「セクハラで訴えられたいのかよ!戯言は永眠してから言えよ、腐れニート!」
その場に落ちていた木刀で、銀時の鳩尾を容赦なく突く刹希。
無論、銀時は虫の息である。
そんな銀時を見下していると目の前のスーパーから少女が出てきた。
「――あら?新ちゃん?」
刹希よりは幼い顔つきで年下だろうと見て取れた。
少女はこちらに気が付いて、笑顔になっておしとやかな声で新八に声をかけてきた。
どうやら知り合いらしい。
「こんな所で何をやっているの?お仕事は?」
「げっ!!姉上!!」
「あ……どーも」
「お姉さん綺麗だね」
新八の姉の登場に、三者三様の反応で返す。
刹希は素で綺麗だと思ったのだが、それはすぐに打ち砕かれた。
「仕事もせんと何プラプラしとんじゃワレボケェェ!!」
「ぐふゥ!!」
見事なとび蹴りである。新八が勢いよく後方へ飛んでいく。
一発目のあのおしとやかそうな雰囲気はどこへやら……すごい、容赦ない暴力を自身の弟へ向けている。
正直この人とは関わり合いになりたくない。
「今月どれだけピンチかわかってんのかてめーは、コラァ!!アンタのチンカスみたいな給料もウチには必要なんだよ!!」
これにはさすがの銀時も冷や汗をかいていた。
ここをいち早く離れた方が良い、そう銀時と刹希二人の本能が訴えていた。
刹希を横目に銀時はスクーターで逃走を図ろうとする。
「あ゛ー!!待てオイ!!」
「ワリィ、俺夕方からドラマの再放送見たいか……」
刹希も逃走しようかと思ったが、横で素早く動く影が見えたのでそれはやめた。
きっと巻き添えくらうと分かっていたから……。新八のようになってしまうと思ったから。
「ら」
銀時が後ろを向くとそこには、新八の姉が乗っていた。
まさか、後ろに乗ってるのが刹希ではなく、お姉さまだとは思わなかったのだろう。
そのニタァと笑う様は、「逃がさねーよ」と修羅が耳元で囁くようであったとかないとか。
とりあえず、その後はやっぱり新八がやられていたような事が銀時にも降りかかった。
やられっぱなしの銀時久々に見たかも。と内心思いながら、横に立っている新八に謝っておいた。
「なんか、本当にあの馬鹿がごめんね、新八くん」
「あ、いえ。こっちこそ姉上がなんかすみません」
「これでお互い水に流そう!君なら大丈夫だ!」
「いや、それとこれとはまた別だから!!アンタ可愛い顔していうこと結構酷いな!!」
「褒めても何も出ないよ?」
「期待してないわ!」