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ようやくゲートを通り、全員で宇宙船の中へ搭乗することができた。
席について早々問題を起こしたというか、既に起こした神楽が悲しそうな表情で訴えてきた。

「なに?定春がさらわれたって?」
「そうアル、知らないおじさんについて行ってしまったのヨ」
「だから定春はお登勢さんのところに置いてきなさいって言ったでしょ、神楽」
「だって定春一人だけお留守番なんて可哀想ネ!!」

神楽の気持ちはわからないでもない。
でもだからといって、迷子になってしまっては元も子もないのである。
迷子と言ったが誰かに拉致られた、または定春が勝手についていった、のどちらかなのだが。
二択で言えばあの定春を連れて行こうとする猛者はそうそういないだろうから後者が確実な気がするが、どっちにしても刹希に打つ手はない。

「もう船に乗って出発しているし、定春は諦めなさい」
「私もう旅行なんて楽しめそーにないヨ」
「うじうじしやがって、せっかくの旅行が台無しじゃねーか……」
「台無しなのはお前らの人間性だよ」

楽しめそうにないだの台無しだの言っておきながら出された料理を見事に完食していく三人。
ホントに悲しく思ってんのか、と新八は突っ込んだ。

「出たものはしっかり頂かないと、新八食べないなら貰うけど?」
「食べますよ!刹希さんは定春がいなくなってもっと心配してるのかと思いました!」
「心配だけど……だって、もともと私、定春を飼いたいなんて言ってないし……」

ボソッと隣でつぶやかれた台詞に新八は喉の奥を引っ込めた。
やばい、地雷を踏んだか、と顔を青くさせるが、刹希は気にすることなく食事を進める。

「きっとモジャモジャで定春銀ちゃんと間違えたに違いないアル」
「モジャモジャって何が?どこがモジャモジャって言いたいの?」
「頭部についてるその白い塊のことでしょ」
「髪の毛だから!天パだから!モジャモジャとかやめてくれません!?」
「銀ちゃんのせーアル」
「オイオイ、なんでそれまで俺のせいにされなくちゃならねェんだよ、あーあ興冷めだもう帰るか」

場の空気が悪くなる一方だなと横で聞いていた刹希が溜息を漏らす。
せっかくの旅行が、こういうアクシデントでつまらなくなるなどよくある話である。
だが今回のアクシデント、刹希にとっては家計に良い潤いをくれるのでありがたかったりするのだが、さすがにこれは口に出せない。
そういうしていると、機内にアナウンスがかかった。

『皆様、よろしければ左側の窓をご覧下さい。あれが太陽系で最も美しい星とされる我らが母なる星、地球です』
「わー、キレイだ〜」
「わー、じゃねーよ!キッチリエンジョイしてんじゃねーか!なんだオメーら!」

銀時と刹希までもが窓に乗り出して地球を眺めている始末である。

「小さな悩みもどーでもよくなってくるな〜」
「ホントアル、心洗われるヨ」
「洗っちゃいけないよ!心に残しておかなきゃいけない汚れもあるよ!」
「え例えば?」
「定春ですよ定春!!」

あ〜定春かぁ〜!とあっけらかんとしている刹希を心底嫌になる新八。
ホントこの面子でまともなのいねーな!と切れたい気分である。
この三人に定春を任せることもできず、新八は地球で盛り上がっている彼らに定春を探してきますと言って席を立とうとした。
だが、真横で機械音がして動きを止めた。

「動くな」

通路には鉢巻を巻いて、顔を隠している男が銃を持って立っていた。
思わず新八は座り直して頭に疑問符を浮かべた。
しかも、知らない内に銃を持った覆面男が何人も機内を歩き回っているではないか。

「これよりこの船は我々革命組織「萌える闘魂」が乗っとった!貴様らの行く先は楽しい観光地から地獄に変わったんだ!宇宙旅行などという堕落した遊興にうつつを抜かしおって、我らの星が、天人が来訪してより腐り始めたのを忘れたかァ!!」
「この船はこのまま地球へと進路を戻し我が星を腐敗させた元凶たるターミナルにつっ込む!我等の血肉は燃え尽きるが憎き天人に大打撃を加えることができよう、その礎となれることを誇りとし死んで行け!」

アホらし、と刹希は席に着きながらそう思う。
第一この国を開国させて政権を握り、幾人もの戦人を葬ってきたあの天人が、ターミナル損傷と少しに人間が死ぬことに大打撃を受けるというのだろうか。
痛くも痒くもないのだろうと思う。
同胞が次々と殺されれば別だが、きっと人間が死んでも馬鹿にするだけで終わるに違いない。
それが目に見えない、頭の足りないテロリストに嫌気がさすのだ。

「俺、死んだら宇宙葬にしてもらおっかな、星になれる気がする」
「ちょい待て、宇宙葬なんてどれだけ金かかると思ってんの?土葬に決まってんでしょ!」
「刹希さんそういう問題でもないし、今から星になっちゃうかもししれないんすよ!」
「オイ貴様ら何をしている?我らの話きいてい……」

銃を向けてきた男を神楽が蹴りで返り討ちにした。
その騒動に気がついたもう一人がこちらに来るが、その男も銀時があっさり倒してしまった。
やっぱり怪力と大の男は頼りになるな、と刹希は席に大人しく座りながら思う。
最後の一人も新八が倒してくれたし、刹希の出る幕はなかった。

「や〜、楽だわ」

きっと前だったら自分も参戦していたんだろうと思うと人数が増えて楽になったな、しみじみ思う。
万事屋が増えて楽になったことと言ったらそれくらいか。

テロリストを制圧したことによって乗客から拍手喝采が起こる。
危機は脱したか、と思われたが銀時たち三人の後ろからテロリストが銃を構えて出てきた。
倒したはずだけど?と呆気にとられていると、テロリストは死ねと叫びながら今にも銃を打とうとした。
が、これまた唐突に後ろの扉が開いて、テロリストは簡単に倒れてしまった。クソ弱すぎだろ。

「あ〜気持ち悪いの〜、酔い止めば飲んでくるの忘れたきーアッハッハッハッ……あり?何?なんぞあったがかー?」

呑気な調子で現れたグラサン男は背後というか頭に定春がくっついていた。
その男を見て刹希は昔の仲間を思い出す。あの天パ具合も、あの訛りも、あの船酔いしてる様もなんにも変わらない。
そうしているうちに神楽が男に蹴りを入れて定春を引き剥がした。

「辰馬!」

刹希は席から立ち上がって男の元へ駆けた。
横に銀時も来て、二人して男を見やる。
酔いと神楽の足蹴りのせいで気絶している、いや、唸っている。アホだ。

「何年たってもアホだなこのバカ」
「辰馬も銀時には言われたくないよね」
「刹希ちゃん!?」

これが元戦仲間、坂本辰馬との再会であった。


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