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太助がいるというコンテナ倉庫に到着した刹希達は、騒ぎが起こっている方へ走り出した。

「で、どうやって彼氏さんを助けるんですか!?」

新八の問いかけに銀時と刹希は首をひねった。
正直お互いあまり考えていなかったのが本音である。
だって、まさかここまで大騒ぎになっているとは思わなかったのだから。

「ハム子さんもいるし戦闘は避けたいけどね」
「だがあのカレシ追われてるぜ。てか囲まれそうですけど」

コンテナの上に移り、太助の様子を伺っていたが、事は一刻を争う状況になっていた。

「銀ちゃん刹希!ここにちょうどいい縄があったヨ!」
「何そのご都合主義!!いいの!?いいのかそんなんで!?」

きっと某青い狸がポケットからアイテムを取り出したときのような効果音が流れているんだろう。
新八のツッコミなど華麗にスルーして、刹希は神楽の持っていた縄を掴んだ。

「じゃあ、これでカレシを引き上げて即撤退ってことで」

異論はあるかと全員に問うが特に反論はなかった。
刹希は早速銀時の胴体に縄を巻きつけガッチリと縛る。
そうしている間にもコンテナの下から太助は助けてくれと泣きそうな声で懇願する。

「うわァァァァァァ!!」

一際でかい叫び声を合図に、銀時はコンテナから飛び降りて、太助を殺そうとした天人を一刀し着地した。
コンテナの上からは刹希を始め、新八と神楽が引き上げるために縄を持っている。
いきなり現れた第三者に天人がざわついていると、刹希の横に居たハム子が動いた。

「ちょ、ハム子さん!?」
「太助ェェ!!」
「公子ォォ!!」

止める間もなく、ハム子もコンテナから飛び降りて戦地に赴いてしまった。
刹希の縄を持つ手が小刻みに震える。

「なんで勝手に降りるの!?アホか、馬鹿なのか!!?ハム子!!」
「刹希さん落ち着いて!ここは落ち着いて!!」

下を見下ろしてみればハム子に潰された銀時が倒れていた。
さすがにかわいそうに見える。
ハム子は太助に駆け寄ってもう大丈夫だというが、全然大丈夫じゃねぇ。
もろ存在がバレた。

「オイ作戦変更だ、連中残して戦線離脱するぞ!」
「あいあいさ〜」

銀時の考えには賛成だった。
いくら銀時とて太った大人二人を抱えて行くことは難しいだろう。
神楽が掛け声を上げて銀時を引き上げ始めたのはいいが、それに気が付いたハム子と太助が銀時の足に飛びついてきた。

「ふざけんな!!ケーキとパフェ何杯食わせてやったと思ってんだよ!!キッチリ働けや!!」

デブ二人の体重が一気に縄に掛かり、刹希たちも思わず下方に引っ張られそうになった。
だがこの状況で一番きついのは銀時だ。
上から引っ張られ下からも引っ張られ、刹希は久しぶりに銀時がかわいそうに見えた。

「はっ……腹が、しめられ……ぐふっ……やばいってコレ!出るって!なんか内臓的なものが出るって!!」
「内臓的なもの?いやだヨそんな銀ちゃん!四六時中そんなの出てたら気を使っちゃうヨ!!関係ギクシャクしてしまうヨ!」
「出るわけねーだろそんなもん!」
「いや出たら軽くなるかも……」
「なりませんから!!何サラッと怖いこと言ってんだ!」
「刹希、新八、縄お願いアル」
「あ、ちょっと!!」
「待ちなさい神楽!!」

神楽が縄から手を外したせいで、一気に縄から腕に重さがかかる。
そして神楽はコンテナから下に降りてしまい、さらに縄に重さが加わる。
何やってんのお前!!と怒鳴り散らした。

「銀ちゃんから手を離すヨロシ!このままでは銀ちゃんの内臓がァァァ!!」
「ちょっ……何すんのマジムカつくんだけどこの小娘!!」

どうやら銀時に引っ付いているハム子と太助を引き剥がそうとしているようだが、上から引き上げている者としては心底やめて欲しかった。
神楽が動くたびに揺れて、縄が手から滑り降りて行きそうになる。
正直四人の体重を一般女性と16そこらの少年が支え続けるのには無理があった。

「よし、諦めよう」
「え!?」

下からギャーギャー聞こえてくる声を無視して、刹希は新八を振り返った。

「新八、縄離しなさい」
「は、はいっ」

ぱっと二人同時に縄を離すとくっついていた4人は見事に地面に落ちていった。
何すんだよ!とギャーギャー文句を言うハム子やら銀時やらを下から見下ろしていた刹希は、冷徹な視線を向けて言い放った。

「あんたたちのクソ重たい体重支えられるほどコッチはスーパーマンじゃないんだよ。勝手に行動したあんたらが悪い。自業自得だ馬鹿共がァ!」

刹希はそれだけ言うととても満足気な表情で踵を返した。
どんだけ鬱憤溜まってたんだよ、と銀時は青ざめているが、その間にも天人が落下してきた彼らを取り囲もうとしている。

「銀さん!ヤバイ早く逃げて!!」
「ケッ、結局俺達ゃこいつが一番向いてるらしーな、ついてこいてめーら強行突破だァァ!!」

銀時が先陣を切って敵を倒しながら逃げ始めた。
天人は逃げ始める銀時達を追い始め、コンテナの上にいた刹希と新八には見向きもしなかった。

「とりあえず私たちも後を追おう」
「はい!」

コンテナからコンテナに移動をしながら銀時たちの後ろを付いていくが、移動するたびに天人が嫌というほど増えていく。
いくらなんでも囲まれれば銀時と神楽だけではきついかもしれない。
そう思うも、今更あの中に飛び込んでいくのも正直面倒くさくて嫌だった。

「あッ!刹希さんアレ見てくださいよ!!」

びっくりした顔で新八が指さすのは太助だった。
見れば、自毛ではなくカツラだったらしいアフロを取った太助の頭には、白い粉の入った袋がテープできっちり貼り付けられていた。

「ぶん殴ってもいいかな」
「やめたげてください、気持ちは分かりますけど」

そりゃ商売物の白い粉を勝手に持ち出そうとすれば必要以上に追い掛け回すわけだ。
刹希は今日で一番重いため息をついていた。
そうこうしている内にハム子が天人の人質となっていた。
天人は太助に取引をしようと持ちかけていたが、太助は考えることもせずその場から逃げようとした。

「あばよ公子!お前とはお別れだ!!金持ってるみてーだから付き合ってやってたけど、そうじゃなけりゃお前みたいなブタ女ゴメンだよ!」
「……」
「世の中結局金なんだよ……まっとうに貧乏臭く生きるなんてバカげてるぜ!」
「……何逃げようとしてんだこのブタ男ォォォ!」

刹希は持っていたクナイを太助に投げつけ、見事にぶつかった。刺さったとも言う。
ああいう自分勝手極まりない、欲に忠実な奴が得をするというのが好きじゃない。
自分のやらかしたことは自分でしっかり後始末してこそ、男だろうと思うのだ。

「刹希さん!?あれ死んだらどーするんですか!危ないなァ!!」
「大丈夫だよ、こういうフィクションではクナイで刺されても死ぬ奴はいないから」
「業界の裏事情を持ってこないでくださいよ!」

ぶっ倒れた太助の頭に付いていた袋を銀時が剥がしていると天人が敵なのか味方なのかと問いかけてくる。

「どっちでもねーよ」

そうどっちでもない。
強いて言うならハム子の味方だろうか。依頼人だし。
太助の味方ではないのは確かだ。

「こいつとそのブサイク交換しよーぜ」
「……お前から渡せ」
「なーにびびってんだか」

そういうと手に持っていた袋を空中に放り投げた。
思いもよらない形に天人も慌て出し、刹希が傍らにいた新八に耳打ちをする。
新八を置いて先に銀時たちの方向へと進み始めると、今度は後ろから天人たちの叫び声が上がった。
新八が見事に袋を裂いて中身をばらまいてくれたらしい。


こうして刹希達はハム子と太助と共にコンテナ倉庫からそそくさと逃げてきたわけである。
未だに気を失ったままでいる太助を、ハム子が背におぶって不満げな顔を向けてきた。

「マジありえないんですけど、太助助けてくれって言ったのに何でこんなことになるわけ〜?」
「ありえねーのはお前だろ、どーすんだソレ。言っとくけどそれは焼いても食べられませんよ」
「食べたとしても共食いですからね」
「お前ら最後までそれか」

なんだかんだ、ハム子を茶化すのは楽しいのでは、と最後になって思い始めているのが刹希である。

「コイツ逃すと彼氏なんて一生できなさそーだからか?世の中には奇跡ってのがあんだぜ」
「そんな哀れみにみちた奇跡はいらねー。こんなヤツに付き合えるの私くらいしかいないでしょ……」

そういってハム子は去っていった。
なぜだかその後ろ姿は、恋人同士というより親子のようだった。
こうして男は女の尻に引かれて行くのだろうかと、刹希はなんとなく想像するが、実感がわかなすぎて考えるのを放棄した。

「あんな母親、俺ならグレるね」
「私もあんな奴が息子なら毎日泣くね」





2014.10.19
加筆修正:2022.8.24



(あとがき)
本当にクナイはオプションなので殺傷能力とか深く考えてはいけないのです。
臨機応変で。


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