B
「……そうか、お前がおりゃ面白か漁になると思っちょったんだがの〜」
「ワリーな。こう見えても地球が好きでね」

それは辰馬が戦争をやめて旅立とうとするときのことだ。
辰馬を見送りにきた銀時は彼と対峙していた。

「宇宙でもどこでもいって暴れ回ってこいよ。おめーにゃちまい漁なんざ似合わねー、でけー網宇宙にブン投げて星でも何でも釣りあげりゃいい」
「……おんしゃこれからどーするがか?」
「俺か?そーさな……俺ァのんびり地球で釣り糸たらすさ、地べた落っこっちまった流れ星でも釣りあげてもっぺん宙にリリースよ」

実に彼らしい答えだった。
辰馬もこれ以上銀時に誘いの言葉をかけるようとは思わなかった。
それに、そう言いながらも、しっかりそばにいてやりたい人がいるのもわかってる。

「刹希ー、隠れちょらんで出てきー」

辰馬が声を張って、姿のないその人に声をかけた。
少し間を置いてから門の裏から刹希がそっと姿を現した。
その表情はやはり寂しげで不満げだ。
刹希は重い足取りで銀時の隣に立つと辰馬を見上げた。

「本当に行っちゃうの?辰馬……」
「行く、わしゃ行くぜよ」

戦争に参戦してから、幼馴染以外で一番仲が良かったのは辰馬だ。
気さくで、壁もないし女だからと卑下してこない裏表のない性格が刹希の心を開かせた。
一緒にいて楽しい人はそうそういないし、男という点で言えば安心できる人はこの戦場で限られてくる。
だから、せっかく仲良くなれた人がいなくなるというのはやはり寂しかった。
少し顔を俯かせて銀時の袖をぎゅっと握っている刹希を見て、辰馬は困った子供を宥めるように髪を強引に撫で回した。

「刹希、おんしゃもっと仲間ば頼れ。いいか?銀時たちがおるのを忘れちゃいかんぜよ」
「うん……でも、辰馬もちゃんと仲間だから!本当だよ」

顔を上げてそう言ってきた刹希は嬉しそうに笑みを浮かべていた。
辰馬にとってはその言葉だけで十分幸せだった。
自分がいなくなっても、やはり彼女には銀時が、小太郎がいることを忘れずにいてさえくれればよかったのだ。
辰馬は銀時に視線を合わせて頷いた。
銀時が辰馬の思っていることを理解しているのかはわからないが、彼は頷き返してくれた。

「元気でね辰馬。……もう、会えないかな」
「お前そこはまた会えるよね〜って言うところだろーがよ」
「だって!……宇宙に行くんでしょ?もう会えないよ」

会えないことが刹希にとっては何よりも悲しいらしい。
銀時と辰馬は顔を見合わせて仕方ないなぁ、と言わんばかりの顔をする。

「刹希そんなことなか!宇宙は広大じゃが、人の縁はたぐり寄せられるものじゃき、またどこかで会える」
「そうかな」
「そーだって言ったらそーなんだよ」
「銀時は言ってることに説得力ないだもん」
「ちょっと刹希ちゃんんん!?」

日々の態度がこういう大切な場面に影響してくるのだ。
あはは、銀時と刹希は昔から変わらないなぁと辰馬は朧ろ気に考える。
なんだかんだその後、話はなぁなぁになって、手を振って別れたのだ。
出会った時も締りが悪かったが、別れる時も締りが悪いなんて彼らは何一つ変わっていなかったのである。

「そんなに怯えちょるならいっそわしと一緒に誰もいない空へ行けばいい」

刹希に一緒に空へ行かないかと誘った時、辰馬はそういった。
彼女が何に怯えて何から逃げているのか、最近になってようやく教えてもらった。
若干それをネタに来てくれたらいいのにと、淡い期待があったのだ。
刹希は顔を曇らせそれでも言った。

「地球からも逃げたら私後悔する気がするんだ……。逃げ回ってるけど、でも、いつか向き合わなくちゃいけないこともわかってるんだよ」
「長い話じゃな」
「うんそうだね!きっとこう考えてることも忘れちゃうかも」

それでも彼女はこの星から逃げないといった。

「私、剣だけじゃなくて、気持ちでも強くなりたいから、ここで頑張るよ」

きっとこの少女はこれからずっと弱いままなんだろうと辰馬は思った。
消えてしまいそうな笑顔を浮かべているその姿は、どこか諦めに満ちているように見えたから、だからこそ、彼女には誰かが必要だと確信したのだ。
そしてその誰かは自分じゃないのもわかってた。
だから、だからあの何を考えているのかわからない天パの男に託したのだ。




「じゃが、任せすぎて銀時っぽくなるのは勘弁じゃのー」

砂の中から救出された辰馬はそう漏らした。
助けてもらった第一声で何言ったんだコイツと、銀時と刹希は辰馬を怪訝そうに見た。
アッハッハッといつもの高笑いを響かせて、ポンポンと刹希の頭を撫でる辰馬。

「ちょ、子供扱いしないでいいから」
「わしから見れば刹希はいつまでも子供ぜよ」
「じーさんかアンタは!!」

そこまで年離れてないでしょ!と刹希は辰馬の手を払って呆れながら文句をついた。
それでも、あの頃と比べれば随分感情豊かになったものだと、辰馬は笑いながら思ったのだ。




2015.4.20
修正:2015.9.9


(補足)
刹希に関しては、昔はおしとやかな控えめな女の子(ツッコミ&暴力少なく大声出さない)イメージですが、今はいかにも銀魂キャラって感じのバカさがにじみ出ているイメージです。


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