@
「刹希は船ば、好きか?」
「船?」

二人で夕食の材料である魚を釣っていると、唐突に辰馬が聞いてきた。
辰馬が何を考えているのか刹希にはいまいち理解できない。
辰馬はいつもつるんでいる四人の中でも一番突拍子もない男だ。

「船は、別に……あまり乗らないからよく分からない。辰馬は船好きだよね」
「好きじゃ。わしは戦場で戦っちょるときよりも船で航海する方が好きじゃ」
「辰馬は変わってるね」

自分の思いを隠さずに吐き出している者など、辰馬くらいだと思う。
もちろん、戦がどうでもいいわけではないだろう。
辰馬は強いし、負けない。
ある意味そんな強さを持っているから、皆から変な目で見られても船が好きだと言い続けられるのかもしれない。

「刹希、わしゃ宙に行こうと思っちょる」
「そら?」
「……わしゃもう仲間が死ぬとこは見たくない、こんな戦はいたずらに仲間死ににいかせるだけじゃ……そう思わんか?刹希」

刹希は顔を俯かせて自分の手元を見た。
仲間が死んでゆくのは確かに見たくなかった、殺したくなかった。
だから、辰馬の気持ちは痛いほどわかってしまう。

「これからはもっと高い視点をもって生きねばダメじゃ。そう、地球人も天人も星さえも見わたせる高い視点がのー」

だから、辰馬は宇宙へ行くといった。

「宇宙にデカい船浮かべて、星ごとすくいあげる漁をするんじゃ」

眩しかった。
辰馬はここではない、遠い先まで見据えていて自分には遠い存在に見えた。
なぜか泣きたくなったのを、刹希は今でもよく覚えている。

「刹希も一緒に来んか?」
「……うん、そうだね。でも私は残るよ……行けない」

行ってしまえばよかったのではないかと、刹希は戦争が終わった今でも時折考えるのだ。
なぜあの時誘いを断ったのか刹希自身も明白な理由が思い浮かばなかった。
ただ、この星からも逃げてはいけないような、そんな気がしたのかもしれない。

「そうかそうか!」

辰馬は笑って頭を撫でてくれた。
刹希がしたいように、思ったようにすればいいんだと言ってくれたような気がした。
刹希は辰馬に兄のようなイメージを抱いていたのだ。




   *



「はっ!!ハハ、危ない危ない。あまりにも暑いもんじゃけー昔のことが走馬灯のように駆けめぐりかけたぜよ」
「首にそんな暑苦しいもの巻いてるから走馬灯見るのよ」
「ハハハ!金時!刹希はちっくと見ない間に口が悪くなったのー」
「だから金時じゃなくて銀時な、しばかれたいのかてめーは」

やっぱり金時と一緒にいるのが悪影響じゃったんやきとブツブツいう辰馬。
基本的に刹希の口が悪いのは昔からのことである。
ただ辰馬にその暴言がほとんど向けられていなかったという点では、少し他の男どもとは違う立ち位置にいたのは確かだ。

「昔といえば辰馬はなんでサングラス掛けるようになったの?」
「これはアレじゃ、舐められんようにするためじゃき深い意味はない!」
「へー。グラサンはキャラかぶるからやめたほうがいいと思う」
「キャラがかぶるって何が?誰がじゃ?」

困惑気味に聞いてくる辰馬を無視して、刹希は砂と空の地平線を眺めていた。
現在、刹希たちは砂漠の真ん中で誰かを待つわけでもなく座り込んでいる状況にある。
地球から進路を変えた宇宙船は、辺境の地へなんとか不時着したのだ。
砂がクッションの役割をしてくれたおかげで死人も出ずに済んだようで、それはよかったのだが、如何せんこの星は暑かった。

「あーあ、こんな一面ババアの肌みてーな星に不時着しちまってどーしろってんだ?なんで太陽二つもあんだよ、金玉がコノヤロー」
「辰馬が舵折らなきゃこんなことにはならなかったのになー」
「アッハッハッハッ前回のことなんか忘れたぜよ!刹希、男は前だけ見て生きていくもんろー」

呑気な辰馬に銀時が掴みかかる。
この暑さの中で天然バカが横にいれば誰だってイライラして掴みかかりたくもなるだろう。
刹希からすればこの二人のやりとりは見慣れているため止める気には一切なれない。
代わりに新八がげんなりしながら銀時を止めていた。

「神楽ちゃん大丈夫?キミはもともと陽の光に弱いんだからね」
「大丈夫アルヨ、傘があれば平気だヨ。でも喉かわいたからちょっとあっちの川で水飲んでくるネ」
「川ってどこ!?イカンイカンイカン!その川渡ったらダメだよォォ!!」

あるはずもない川を目指して歩いていく神楽を新八は走って止めに行った。
こんなに暑かったら確かに朦朧として幻覚も見えるかもしれない。
ぼーっとしている刹希の横で銀時が神楽の頬をピチピチと叩き、やっぱりあるはずもない川に連れて行こうとして再度新八に物理的ツッコミを受けていた。

「珍しいですね、いつもなら銀さん達に混じってボケをかます刹希さんが大人しいなんて」
「新八、別に私がボケをかまそうが所詮管理人が考えたボケよ?一体何が面白いっていうのかしら」
「ダメだ、刹希さん暑さでメタ発言してるよ」

暑さで刹希はぶっちゃけ始めるし、銀時と辰馬は幻覚が見えているようだし、新八も新八でこの暑さで頭を抱えて発狂しそうだ。
誰でもいいから早く助けに来てくれ!と思っていると、新八が遠く空から宇宙船が飛んでくるのを見つけた。

「船だァァ!!」
「救援だァァ!!」
「俺達助かったんだァ!!」



prev next

bkm
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -