B
「女王サンはいいですね、自由で」

そよの言った言葉に一瞬反応したが手は止めなかった。

「私、城からほとんど出たことがないから友達も少ないし、外のことも何もわからない」

きっと彼女は城という籠の中でずっと外に恋こがれているのだろう。
自分とは比べ物にならないくらい、知りたくて知りたくて……焦がれているのだ。
同じ、なんて考えていた自分が馬鹿らしい、全然自分とそよは違うのだ。
当たり前だ、彼女は表の人間で自分は裏の人間なのだから。

「私にできることは遠くの街を眺めて思いを馳せることだけ……あの街角の娘のように自由にはね回りたい、自由に遊びたい、自由に生きたい。そんなことを思っていたら、いつの間にか城から逃げ出していました」

からんからん、と店のドアベルが鳴る。
視線だけ入口に向ければ小一時間ほど前に会った黒服の男が立っていた。
一瞬目が合うと彼は呆れたように肩をすかした。
言いたいことはなんとなくわかるが、今回はそよに肩入れしたくなるのだ。仕方ないと心の中で謝っておいた。

「でも最初から一日だけって決めていた。私がいなくなったら色んな人に迷惑がかかるもの」
「その通りですよ、さァ帰りましょう」

土方の言葉にそよは彼が役人だとすぐにわかった。
短い家出だったと思っているのだろうか、先程まで年相応に無邪気な笑顔でいたにも関わらず、そよの表情は写真で見たものと同じになっていた。
土方に再度促されたそよは言われるがままに立ち上がった。
だが、少女の腕を掴み止めたのは神楽だった。

「何してんだテメー」

この後に及んで、と言いたげな土方の声音が耳に入る。
神楽は立ち上がりそよの隣に並んだ。土方が口を開いた瞬間、神楽はデーブルに置かれていたグラスを掴むと土方に向かって投げつけた。
ガシャンとグラスが砕ける音に土方が待て、と叫ぶ。
そよを連れて外へ行く神楽を土方が追おうとしたが、袖を引っ張られてそれはできなかった。

「何してんだ離せ」
「弁償」
「は?」
「弁償してください、グラスの」

にっこり微笑みながらそう言い放つと土方は顔を青くし始めた。
今この状況でこの女は何を言ってるんだ、と罵ろうと思ったのだが、エンドレスで紡がれる弁償コールで口を挟む隙もない。

「土方さーん何遊んでんですかー、姫さんとチャイナ屋根上っちまいやしたぜ」
「さすが神楽、やること派手だね」
「お前これが目的かァァ!」

離さないとしょっ引くぞ、と脅し文句が入ってきたため刹希はすぐに手を離した。
クソと文句を言いながら外へ行く土方たちの後を追い、野次馬の如く空を見上げた。
店の奥に建っているビルの屋上へ逃げたらしく、真選組隊士は降りて来いと主に神楽に対して叫んでいる。

「たく、お前んとこのガキは何考えてやがんだ!」

ごちるようにそう言うものだから、刹希は冷めた目で首をかしげた。

「大体、出会ってせいぜい数時間でなんであそこまでするんだか」
「何を言っているんですか?」

近藤の疑問に刹希は口角を上げて空を見上げる。
なぜ?そんなのわかりきっている。
この場に銀時がいたら同じことを言うに違いない。

「あの子は万事屋の一員ですよ。依頼者のお願いは何があろうと守る。例え、一日だけの友達だろうが、一生の友達になることだろうが……」

それがそよの頼みなら喜んで首を縦に振るだろう。
決して一日だけの友達だけでいいと言われようが、最期まで友達を貫き通そうじゃないか。
たかが何でも屋だと思って甘く見ないでください。

自信を持って言えるその言葉は意識せずとも口から出ていた。





2014.6.21


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