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思いもよらない来客が現れたのは、店から帰ってきて一時間ほど経ってからだった。

「刹希来たアルヨ〜!」
「いらっしゃい珍しいね、かぐ……ら」
「ここが刹希のバイト先アル!」
「わぁ、なんだか趣がある場所ですねぇ〜」

思わず持っていたお盆を落としそうになったが頑張った。自分で自分を褒めたい。
神楽の後ろには沖田が見せてくれた写真そっくりの女の子がいるではないか。
見間違い?ドッペルゲンガー?何度か目をこすって見てみるがやっぱり変わらない。
どうみても真選組が探しているお姫様その人だ。
カウンターに座ってメニューを見始める二人。

「そよちゃん、何でも頼んでいいアルヨ!今日は私がおごってあげるネ」
「え、いいんですか?」
「もちろんね、遠慮はいらないアル!」

メニューを見ながら悩む姫様ことそよ姫。
刹希は神楽の横に座って冷や汗をかきながら聞いた。

「そのおか……子、どうしたの?」
「公園にいたから友達になったアル」

この子怖!命知らずっていうか世間知らずっていうか、天人怖!
それよりも家出して公園にいるところが安直である。
姫でも考えはやはり子供っぽいのか、なぜ真選組が見つけられないのか不思議だ。

「ていうか神楽、金ないでしょうが。注文はダメよ」
「えーケチアル刹希!」
「ケチで結構です!てか、その両手にいっぱいの駄菓子どうしたの!?」
「買ったアル」
「……」

頭が痛い。
駄菓子だといってもそれだけ大量に買っていれば万事屋にとっては痛いところだ。
そよも金なんて持って出てきているわけないし、きっと全部神楽の財布からだろう。

「バカ神楽、金の使い方はもっとしっかりしなさいって言ってるでしょうが!」
「痛いアル!叩くことないヨォ」
「ふふ、なんだか親子みたいですね!」

そんなことを言われたのは初めてだ。
思わず固まってしまい、神楽がこんなマミー嫌ネ、と言っているが刹希の耳には入っていない。まさかそんな事を言われるとは思わなかったのだ。
こういうものが親子というのか、刹希にはわからなかった。

「私にも叱ってほしいです!じいやはいるけどお母さんみたいな人に叱られたことないんです」
「い、いや……それは流石に無理です。打ち首になります」
「あ、私のこともそよって呼んで欲しいです」
「あなた私に死ねって言ってるんですか?」

もし姫様に対して呼び捨てをして神楽と同じように怒鳴ったり手を挙げたりすれば打ち首だ。
どう考えても打ち首だ、勘弁願いたい死んでも嫌だ。いや死にたくはない。
敬語もやめてください!とキラキラした目で言ってくるものだから良心が痛む。
お姫様だけあってなんだか顔の作りも綺麗だし、何かに負けてしまいそうだ。

「一回だけでいいですから」
「刹希も万事屋の端くれならお願い叶えてやるアルヨ」
「……何かあったら、弁解してくださいね、姫様」
「ええ、もちろんです」

にっこり笑っていうそよ姫に刹希はついに降参した。
そう、姫の頼みだ、断れるものか、だって姫様だもの。
刹希は深呼吸して、冷や汗をかきながらその名を呼んだ。

「……そ……そよ、家出は良くないから早く帰りなさい」
「もっと激しいのください!」
「意味わかんないんだけど!やめよう!おかしいでしょう、Mじゃないんだから!」
「神楽ちゃんにはあんなにも強く言ったのに!」
「神楽はね!馬鹿だからね!」
「酷いアル!」
「そよがふらふら家出てってるから大変なことになってるのよ!家出するならもっと計画的にやりなさい!」
「はい!」
「はいじゃないでしょォォォ!」

よそ姫という人間が思った以上にお茶目に見えてきた。
子供二人はとても楽しそうだが刹希の心のダメージは計り知れない。
机に突っ伏していたが、顔を上げて食器を洗いに戻った。


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bkm
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