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「そんなこより、テメーここで何やってやがった?まさかまた余計なマネ……」
「エロ本ジジイに何言われよーと俺ァ火消しやめるつもりはないんでね」
「やめるもクソもてめーみてーな小娘必要とされてねーのがわかんねーのか?」

昼間の言い合いがまたもや始まる雰囲気にある。
銀時を見れば我関せずでエロ本読み始めるし、どうしようか帰ろうか。
そもそも目の前に一応女がいるのだからエロ本なんて物を読むなとつっこむべきなのか、どつくべきなのか。

「火消しはその炎に立ち向かうだけじゃねェ、燃えた灰は全てその背中にのしかかってくる。死んでいった仲間達救えなかった連中……俺の背中はもう灰で一杯よォ。てめーのその細い体でコイツを背負っていくことができると思ってんのか!?」
「アンタまさか、まだ父ちゃん母ちゃんのこと……」

どうやら辰巳は火事で両親を亡くしてしまったようだ。
ぶっきら棒な言い回しで辰巳を突き放そうとするそれは、頭なりの愛情なのかもしれない。

「てめーの父ちゃんも母ちゃんも俺が殺したようなもんだ。その上お前まで死なせたら俺ァ……」
「何言ってんだハゲェ!!父ちゃんも母ちゃんも火事で死んだ!アンタのせいじゃねーよ。そんなことよりアンタ俺を助けてくれたじゃねーか!ここまで育ててくれたじゃねーか!そいつに恩返しして何がワリーんだよ、力になりてーって思って何がワリーんだ!」

だいぶ話が込み入ったものになってきたことに刹希は居心地が悪くなる。
他人の込み入った事情なんて万事屋をしているとよく聞かされることなのだが、今依頼でもないし、とため息をつきたくなる。

「私帰ってもいい?」
「お前またそんなわがまま言ってよォ、コンビニで箱ティッシュ買ってきてくんない?」
「自分で行け」
「わかった、プラスいちご牛乳もってことで」

なぜ親指立てて得意げな顔して言ってるんだろう。
それでもコンビニに向かっているのは別に銀時に従ったわけではない。
断じて違う、化粧品なくなってたから買っておこうって思っただけなのだ。
あと話から遠ざかりたかっただけだ。
そう思ってコンビニ入る瞬間、先程までいた路地裏から銀時の声が聞こえてくる。

コンビニとあの路地までは3、40メートルほど離れている。
だが、周りの人の反応で火事だということはわかった。

「ややこしいルールなんていらない、ゴミなんてみんな燃やしてしまえばいいのさ!」

そんな声が聞こえてきて路地から出てきた男はフラフラと刹希のいる道へと歩いていく。
そのあとを追って出てきたのが銀時だ。
すぐに刹希に気がつくと男を指して言う。

「刹希!そいつが放火魔だ!!」

火消しを呼ぶ声と放火魔の笑い声が響く。
刹希は着物の裾を膝あたりまでたくしあげて、向かってきた放火魔の胴体に回し蹴りを食らわした。
運動神経は悪いのだろう、放火魔はそのまま地面を滑るように倒れてしまった。
刹希を追い越した銀時はすぐにその男の頭を殴っていた。

「放火魔もタイミングいいね」
「こいつ俺のエロ本燃やしやがったんですよ!」
「うん、果てしなくどーでもいいけどな、ダメ人間」

おら立て!とキレ気味に放火魔を立たせて先どのいた路地にまで戻った。
火事が発生したゴミ捨て場から隣の家にも火が移ってしまったようだ。
いち早く到着した火消したちが慌ただしく消火の準備を進めている。

「これ以上火を広げるな!」
「早く水まわせ!」
「急げ!!アレそーいや頭どこ行ったんだ!!」
「……まさか、あの中じゃないよね」
「……俺、放火魔しか追ってなかったから知らね」

銀時の変わらない呆けた態度にため息をついた。
その時、家の中から辰巳が息を切らしながら出てきた。
近くの男に駆け寄ると辰巳は燃えている家を指さして言った。

「頭が二階の中にいるんだ!俺をかばって下敷きに……」
「なんだって!?」
「刹希、こいつ頼むぜ」
「ちょっと待ちなさい」

消防車に手をかけようとした銀時の肩を掴んだ刹希はにっこり笑った。
何か言いたそうだった銀時だったが、刹希は気にせずに近くにいた火消しの持っているホースを奪い銀時に向けた。

「炎に飛び込むなら水かぶっておかないと」
「焼け死ぬ前に窒息死するかと思ったんですけど!」
「うん、いってらっしゃい」
「やだもうこの子話通じねェよ!」

しくしく泣く真似をするがアホらしかったのかすぐにやめて梯子を登り助走をつける。
火消しの静止など聞かずに銀時は二階へと窓を蹴破って飛び込んでいった。
死なないだろうが行ったからには全員連れて早く帰って来いと心の中で案じた。
しばらくするとしゃぼん玉が銀時が壊した場所から見えてきて、刹希はそれをじっと見ていた。



それから辰巳が火消しとして活躍する瓦版を見つけたのはまた別の話だ。





2014.5.4




(あとがき)
前半会話文多すぎて反省。
火消しはヒロイン絡めづらくい。難しい……。


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bkm
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