A
銀時と刹希は、スクーターに跨がり走り出した。見知った界隈を眺めながらどこの店に入るか話し始める。

「とりあえず、所持金は少ないからね」
「へいへい。分かってらー」

刹希の言いたいことを理解して値段の安そうな店を探す銀時。
二人の所持金は、パフェが二品食べられる程度だ。
しかも、無駄遣いしないようにギリギリの金額しかない、ものによっては刹希が食べれないことになる。いや、銀時が食べれないでも可だ。

「あ、あそこで良いんじゃない?」

指差したそこは某有名店でに○ず。

「あそこ安いから、あそこ行こう」
「俺何食おうかな」

店の前にスクーターを止めて、早速店内に入る。
店員にテーブルまで案内してもらう途中、茶斗蘭星の天人が座っているテーブルを通り過ぎた。
刹希は横目で一瞬そちらを見たが、すぐに視線を前に向ける。
あの天人は、地球人を見下すように見てくる。
どこの天人もそう変わりはしないが、刹希は彼らの目があまり好きではない。

「刹希は何食う?」

銀時は彼女の張りつめた雰囲気に気が付いて、関係ない話題で意識を逸らせる。
席についてすぐに、メニューの最後のデザート一覧を広げて問い掛けた。

「うーん、それじゃ抹茶あんみつにしようかな。銀時は?」
「俺どうしよ、どれも食いてー」
「頼むの一品だけだからね……」

分かってはいるだろうが、一応注意をする。
店員に刹希は抹茶あんみつ、銀時はチョコレートパフェをそれぞれ頼むと、しばらくして二つが運ばれてきた。
銀時にとって待ちに待ったそれは、彼のテンションを上げるのに十分だ。

「お前を目にするのも一週間ぶりだよ、オイ」
「いや、昨日私のケーキ食べたじゃん」
「いや、アレケーキだから」
「パフェもケーキも銀時にとって同じでしょ」
「ちょっと刹希ちゃん!?俺のことどう見てるわけ!?」
「糖尿病寸前の死んだ目をした腐れ天パ甘党ニート野郎」
「悪口のオンパレードだな!ホント手加減ねぇよ」

銀さん泣いちゃうんですけど! と訴えるも、刹希は無視して目の前の抹茶あんみつを口に頬張った。
洋菓子も美味しいがやっぱり和というものはひと味もふた味も美味しい。
二人してデザートを堪能していると、刹希の後方から怒鳴り声が聞こえてくる。

「だからバカ!おめっ……違っ……、そこじゃねーよ!!そこだよそこ!!」

銀時はちらりとそちらを向くが、すぐにチョコレートパフェを食べることに専念した。
刹希は手を止めることは無いが、意識だけはそっちへ向けた。

「おめっ、今時レジ打ちなんてチンパンジーでも出来るよ!!オメー人間じゃん!一年も勤めてんじゃん!何で出来ねーんだよ!!」

なんとも短気な男なのだろうか、そう思うも、一年も働いていてレジ打ちを出来ないのはさすがに駄目でしょう。と怒鳴り散らす男に賛同する刹希。
だからと言って人間完璧ではない。特別そいつが物覚えが破滅的に悪いというのかもしれない、そう思うとやたら怒鳴りつけは良くないだろう。使えないのならクビにすればいいのに。
そこまで考えて、自分には関係ないしどうでもいいやと思考を停止する。

「旦那ァ、甘やかしてもらっちゃ困りまさァ」
「いや最近の侍を見てるとなんだか哀れでなァ。廃刀令で刀を奪われるわ、職を失うわ……ハローワークに失業者した浪人で溢れてるらしいな」

後ろにいる天人が饒舌になる。
一体誰のおかげで侍の失業者が多くなっていると思ってんだ、刹希の口からため息が漏れた。

「――あ、それ食べていい?」

顔を上げると、何を考えているのかわからない顔がねだってきた。
銀時は己のスプーンを抹茶あんみつのすぐそばまで伸ばして今まさに食べようとしている。

「いや、自分の食べてからにしてよ」
「今、今それ食べたいんだっての!」
「アンタは子供か!!」
「せめて、白玉だけでも!」
「嫌だよ!銀時昨日のことがあったのに今日も私の食べるなんて許さないから!!」
「分かった!俺のチョコレートパフェ一口やるから――」

ガシャン!!そんな効果音とともに、刹希たちのいたテーブルに振動が走る。
いやなんとも豪快だろうかビックリして皿をひっくり返すところだった。

何事かと不意に横を向けば、先ほどまで叱られていたあの店員がいたのだ。
ぶつかって来たのは彼のようだ。床に転がるグラスをトレイに戻している。

「てか、銀時は何固まって――」

思いだしたように、微動だにしない銀時を見るが、すぐに言葉は消えてしまう。
その光景は悲惨の一言に尽きるだろう。
状況は実に簡単。チョコレートパフェがさっきの衝撃で見事に倒れてしまったのだ。

「わー、銀時ドンマイ!だから、早く食べなさいって言ったのに」

そういっても終始無反応だ。
これはかなり精神的に来ていると見える。
横では店長が怒鳴ってるのか謝っているのかわからないことを言っているが、そこは無視しよう。
さてさて、甘いものの恨みは恐ろしいというが、刹希は銀時がどうするのか見守る。
ゆらりと立ち上がった彼は新八と呼ばれる店員と店長の前に立った。

「おい」

店長はどうしたのかと銀時の方へ向いた。
だが、次の瞬間、店長は宙を飛んでいった。
勢いよく吹っ飛んでいく店長は後ろの席へ頭から激突していく。
天人が何事かと騒ぎ始めて、腰にぶら下げていた木刀を引き抜く銀時に突っかかった。

「ギャーギャーギャーギャーやかましいんだよ。発情期ですかコノヤロー」

テーブルに置いてあったパフェの容器をこれ見よがしに天人に見せつける。

「見ろコレ……てめーらが騒ぐもんだから、俺のチョコレートパフェがお前コレ……まるまるこぼれちまったじゃねーか!!」

天人の一匹を木刀で思いっきりぶちのめす銀時に刹希は我関せずと残りの抹茶あんみつを完食する。
やってくれたよこの人。いや、予想の範囲以内だけどね。

「きっ、貴様ァ、何をするかァァ!!」
「我々を誰だと思って……」
「俺ァなァ!!刹希にすげー糖分制限されて、医者にも血糖値高過ぎって言われて……パフェなんて週一でしか食えねーんだぞ!!」
「いや、それ全部自業自得だから。てか何だかんだで隠れて食べてるでしょうが」

残りの天人も一振りで伸ばしていく銀時に、刹希は一応ツッコんでおく。
というか、なぜ自分まで台詞に入り込んでいるんだ。

言いたいことやりたいことは済んだのだろう。
銀時は騒ぎの当事者であるはずなのに、我関せずと言った感じで店から出ようとしている。
そして、その場に突っ立っていた新八に言った。

「店長に言っとけ、味は良かったぜ」

刹希行くぜー、と声をかけてくる銀時に、はいはいと返事をして自分も立ち上がる。
呆然としている店員に刹希は視線を合わせて苦笑してみせる。

「あの馬鹿が迷惑かけてごめんなさい、まあ、これから頑張りな」

ぽんと少年の肩を叩いてそう言うと刹希も小走りで店を出て行った。


prev next

bkm
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -