B
「……悪かったな、俺の勘違いでこんな目に合わせちまって」

火消し要請が出てしばらく経ってから、辰巳はそういった。
銀時と刹希は顔を見合わせた。きっと彼女の言葉は銀時へのものだ、刹希は銀時にしゃべるよう促した。

「……まァ、気にすんなや。俺も見苦しいもの見せちまったしあいこにしよーや」
「オメーここ来てから股間の話しかしてねーぞ!!」

変な単語が聞こえてきたが刹希は聞こえなかったふりをした。
これ以上銀時のせいで疲れたくはなかった。
辰巳はめ組の敷居をまたいで外へ行こうとする。それに銀時が声をかける。

「オイオイどこいくんだ?」
「放火魔捕まえに決まってんだろ、こんなことでへこたれる俺じゃねェ。俺ァ江戸一番の火消し目指してんだ、男集(アイツら)にも放火魔にも負けねェ!」

そう言い残して辰巳は行ってしまった。

「……銀時も目標でも見つけて稼いでくれないかなあ」
「結局そこに行くわけ?刹希ちゃん?」
「このドラ息子ォォォ!!」

不意打ちにくらった背後からの飛び蹴りに銀時は思いっきり倒れた。
一瞬で倒れていく隣の男に刹希は驚いてすぐに飛び退いた。
そこには仰向けに倒れた銀時に馬乗りになっている神楽がいた。

「アンタどこで火遊びなんて覚えたあるかァ!!そんな子に育てた覚えはないネェェ!!」
「神楽それさっき私が言った」

実はめ組に来る前に外を散歩していた神楽と鉢合わせていた刹希。
神楽が来ると面倒くささ倍増なのでなんとか帰して来たのだが、まさかまだいるとは思わなかった。
おいおいと演技臭く泣いている神楽。

「私情けないヨ〜、おとうさんに何て言えばいいの〜」
「神楽そんなセリフどこで覚えたの?」
「『眠らない街江戸八丁堀24時』でやってた。“万引きGメンの戦い”から抜粋」
「抜粋じゃねーよ!変なモンばっか覚えやがってロクな大人になんねーぞ!!」
「神楽も銀時には言われたくないよねー」
「ネー」

おいおい泣きてーのはこっちだよ!と完全に味方のいない場面で泣きたくなる銀時なのであった。

「ま、放火なんてしてなくてよかったよ。ちゃんと家帰って大人しくしててよ……」
「へいへい」
「刹希はバイト先帰るアルか?」
「うん」

銀時のことよろしく頼むね、とそう神楽に頼みながら、ちらりと銀時を見やればぼーっと辰巳の行った方を見ていた。
またこの男は関係ないことまで無駄に足を突っ込もうとしているのか、と思いながらそれでも何も言わない自分も大概だと思う。

「ああ、神楽。帰るの遅くなるかもしれないから、お腹すいたら新八に何か作ってもらって」
「わかったアル」

ぶらぶらと先を歩き始める銀時を見ながら刹希はそう神楽に伝えて店に戻るのだった。



   *



「ではお疲れ様でした」
「うん、明日もよろしくね。刹希ちゃん」

バイトがようやく終わり裏口から出てきた刹希は茜色に染まり始めた空を見上げながらそっと一人ため息をついた。
たかが放火魔だ。心配せずとも夜になれば帰ってくるに決まっている。
そうバイトが終わるまでぐるぐる考えでいたのだが、気になるものは気になってしまうのだ。
自分のこの性格にも困ったものだと、この性格になった原因でもある銀時に憎たらしい思いを馳せる。

「ばーか、ばかばか」

ふてくされたような声で悪態をつくようにばかの二文字を小さく連呼しながら刹希は銀時の元へ向かうのだった。

辰巳が放火魔を捕まえるならゴミ捨て場の近くにでもいるだろう。
彼女は結構単純思考で物事を考えていそうだからゴミ捨て場を回ればいいわけだ。
銀時も一緒に行動しているか遠巻きにいるに違いない。

「帰り道にいなかったら万事屋に帰ろう、うん」

偶然見つけただけだから、と会った時のやりとり想像しながらゴミ捨て場の近くになるときょろきょろと周囲に気を配った。
刹希は若干不審者になりかけている気がしていたがあまり考えないようにした。

「お嬢さん、そんなにキョロキョロしてなにか探し物かい?」
「……大丈夫、見つかったから」

ゴミ捨て場に続く路地の入口に立っていた銀時に刹希は足を止めた。
周囲を見回したが辰巳の姿はいなかった。

「あの子は?」
「あの中でぐーすか寝てるぜ。本気で放火魔捕まえる気があんのかわかったもんじゃねーな」

大きく欠伸をしながらそうつまらなそうに言う銀時。
指差していたそのポリバケツの中を見れば本当にぐーすか眠っている辰巳がいた。
そっと蓋をかぶせて刹希は銀時のもとへ戻った。
一体どれくらい前からここにこうしてつっ立っているのかは知らないが、きっと結構前からなのだろう。

「また無駄なの買って……しかも夕食前に食べて、夕食食べれなくなっても知らないからね」
「お前は俺のカーチャンか!張り込みって言ったらあんぱんだろーが」

それはドラマの見すぎである。
あんぱんはもう半分くらい食べていて、今更止めることもできないのでそれ以上は言わなかった。

「ヤベェ寝ちまった!!」

がたっとポリバケツから勢いよく出てきた辰巳に刹希は視線を向ける。

「戦線異常なしであります。よォ、いい夢見たかィアネゴ」
「お前何で?うぉ!!」

辰巳の反応からして銀時が見張りを始めたのは彼女が眠ったあとなのだろう。
迷惑をかけた相手がまさか見張りをしているなどと思わず、驚いた辰巳はポリバケツごと倒れた。
銀時は転がったポリバケツの上に跨った。

「俺も放火魔には迷惑しててね、いつまでたってもジャンプが片付かねーんだよ」
「あ、私は偶然通りかかっただけですよ」

銀時と刹希の双方を見る辰巳に気がついて刹希はあらかじめ考えていた言い訳を発した。
なんでそこまで、と言いたげな表情をしていた辰巳だったが、銀時はあんぱんを食べ終わると言った。

「それによォ……火消し小町大活躍!!なーんて見出しの瓦版見てみたい気もしてな」
「……お前」
「!二人共隠れて!!」

コソコソと路地に入ってきた人物をいち早く見つけた刹希は銀時と辰巳を押してゴミの影に隠れたのだった。





2014.3.5


(あとがき)
足で踏みつけるのが書きたかったというだけで頑張りました。
なんか回を増すごとに銀時に対しての扱いがひどくなっている気がします。
後半どうしようかとか何も考えてません!やばい!


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bkm
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