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「私的にはァ〜何も覚えてないんだけどォ、前になんかシャブやってた時ィアンタに助けてもらったみたいなことをパパからきいて〜」

長いソファー席にぎゅうぎゅう詰めに押し込まれながら、刹希は目の前のケーキを一口頬張った。
左に座っている神楽はドリンクを飲みながらもの欲しげに視線をよこしてくる。
だが、前々回のムダ使いもありお預けだ。なんと言われようとお預けだ。
世の中そんなに甘くないということは幼い内から教えなければならないのだ。

「シャブ?覚えてねーな。あー、アレですか?しゃぶしゃぶにされそーになってるところを助けたとかそんなんですか?」
「ちょっとォ、マジムカつくんだけど〜ありえないじゃんそんなん」
「そーですね、しゃぶしゃぶは牛ですもんね」
「豚しゃぶは美味しいと思うけどね」
「よし今日は豚しゃぶな!」
「何の話してんだよ!アレですよ、春雨とやり合った時のシャブ中娘ですよ」

話が逸れ始めたことに対して新八が訂正を入れると銀時と刹希はああ、と気のない声を出す。
目の前の席にはガン黒でふくよかな少女が座っていた。
万事屋の中ではハム子というあだ名がついていたが、本名はなんだったかと考えてしまう。
まあ、別に分からなくてもいいかと思い、話に交わることにした。

「ハイハイ、あのハムの!」
「豚からハムに変わっただけじゃねーかよ!!」
「ちょっと銀時、失礼でしょ?」
「アンタからもなんか言ってやってよこの男……」
「ハムは動かないから豚がいいって何度言ったらわかるの?豚に失礼でしょう、謝りなさい!」
「お前が私に謝れよ!失礼なのアンタでしょーが!」

ダンダンと机を叩いて文句をふっかけてくる目の前のハム子に内心メンドクセーなァと思う万事屋一同。
一応金持ちとあって羽振りもいいし仕事なら受けてもいいのだが、前回の一件のせいか今回は何の依頼なのか。乗り気ではないといえば乗り気ではない。
逆によくもう一度万事屋に依頼を持ってきたなと、少し意外でもある。

「す、すみません。あのハム子さんの方はその後どーなんですか?」
「アンタ、フォローにまわってるみたいだけどハム子じゃないから公子だから!」
「ああ、公子さん!お父上様も掛詞みたいな上手い名前を付けましたね!」
「ほんとアンタなんなの!?仕事別のことでやってもらうぞオイ!!」

フォローする気あるのか!?と言わんばかりにテーブルをバンバン叩いて手の振りも大きくなっていくハム子。
こちらとしては金づるがどこかへ行ってしまうのは惜しいが、春雨の一件を考えると関わるのも億劫である。
だが流石にそんな本音は口にはしない。やっぱり金が欲しいし。

「麻薬ならもうスッカリやめたわよ。立ち直るのマジ大変でさァ、未だに通院してんの……もうガリガリ」
「何がガリガリ?心が?」
「世の中不思議なこともあるもんだね」

とりあえず麻薬をやっていた時の自分と今の自分見比べてみろと言ってやりたい。
さぞや驚くことだろう。いろんな意味で。

「痛い目見たしもう懲りたの、でも今度はカレシの方がヤバイ事になってて〜」
「彼氏?ハム子さんアンタまだ幻覚見えてんじゃないですか!!」
「オメーら人を傷つけてそんなに楽しいか!!」

いやーわざとじゃないんですわざとじゃ!と言い訳するもこれまでの流れだと通用しなかった。
仕切り直すようにハム子は携帯電話を取り出して彼氏から送られてきたメールを見せてくれた。

『太助より
件名:マジヤバイ

マジヤバイんだけどコレ
マジヤバイよ
どれくらいヤバイかって
いうとマジヤバイ』

カタカナとひらがなの羅列が画面を埋めていた。
全員がそれを読み、思ったことを銀特が代表して言った。

「あーホントヤベーな。こりゃ俺達より病院にいった方が……」
「頭じゃねーよ!!」

マジとヤバイしか連呼してない時点で頭大丈夫か心配になってくる。
親切心で言ったのに、ハム子はそうじゃねーよ!と怒鳴った。
彼氏も合わせて少しは落ち着いたほうがいい。

「実は私のカレシ、ヤクの売人やってんだけど〜、私がクスリから足洗ったのを気に、一緒にまっとうに生きようってことになったの〜」

ハム子の話によれば、彼氏の太助が売人として組織に深く関わりすぎたという。
売人を辞めると言ったところ、組織の連中に狙われ始めた結果、今ヤバイらしい。
麻薬の売人をやっていて辞めたいなんて、そりゃ組織に狙われもするわと刹希は呆れてしまう。
辞めたそいつから情報が漏れて自分たちの安全が脅かされないのだから。

「とにかく超ヤバイの〜、それでアンタたちの力が借りたくて〜」
「それはそれは、自業自得ですね」
「全くだな、初めから危険なもんに首突っ込むならそれ相応の覚悟ってもんが必要だぜハム子」
「だからハム子じゃねェから公子だから!!自業自得でもアンタらがどーにかしてやってよ!」

そのための何でも屋でしょ!とハム子は言ってくる。
その顔は本当に太助の身を案じているようで、万事屋四人はそれぞれ顔を見合わせた。

「で、力を借りたいとは具体的にどうして欲しいんでしょうか?」
「やってくれんの?」
「(まあ金払ってくれるし)断る理由ありませんから」

にっこり微笑む刹希を、銀時は絶対ろくでもないこと考えてるなと思うのだった。


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bkm
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