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「坂田サーン、オ登勢サンノ代ワリニ家賃ノ回収ニ参リマシタ。開ケテクダサーイ、イルノワカッテマスヨ。坂田サーン、アホノ坂田サーン」

玄関の外から聞こえてくるキャサリンの声に万事屋一同は机の下でひっそりしていた。
ここ最近バイトを休まなければこんな事をしなくて済んだのにと、刹希は一人心の中でため息をついていた。

「綾野サーンイルンデショー」

私の名前まで持ち出すなキャサリンが!
呼びかけ方がヤクザの取立てじゃねーか、とツッコミを入れたい心境だ。
いや、だからなぜ自分が隠れなければ……それは家賃を滞納しているからだ。
自問自答を繰り返していると右横に居た銀時がくだらないことを言い始めた。

「いいか、絶対動くなよ。気配を殺せ、自然と一体になるんだ。お前は宇宙の一部であり宇宙はお前の一部だ……」

銀時の言葉に嬉々として反応したのが左横にいた神楽である。

「宇宙は私の一部?スゴイや!小さな悩みなんてフッ飛んじゃうヨ!」
「うるせーよ静かにしろや!」
「アンタが一番うるさいよ!」
「いやお前のツッコミが一番うるさい!」
「ていうツッコミしてる銀時が一番うっさいからっ」

ほぼ零距離から聞こえてくるツッコミと神楽の大声に刹希が眉を寄せて文句を募った。
隠れる気があるなら黙れと言いたいが、この三人がおとなしくしている玉でもないのは分かっている。分かってしまうところが悲しい。
それよりもなぜかさっきより体が重い気がするなあと、ふと気がつく。

「?静かになったな、帰ったか?」
「ナンカ修学旅行ミタイデドキドキスルネ」
「……」

いきなり背後から聞こえてきた聞き慣れた、だがこの家の中では絶対聞くはずのない声が聞こえた。
全員思うところは色々あった。なんでそこに居るだとか、どうやって入ったとか。
刹希に至っては重いから退けとも言いたかった。言いたかったのだが、それよりも先に口からそれが飛び出した。

「「「「ぎゃぁああああああ!!」」」」

4人の叫び声は一階のスナックお登勢にまで聞こえたそうな。



  *



結局居留守を使ったことがバレてしまった万事屋一同は揃ってスナックお登勢の店で雑用をすることとなった。
こんなことでは家賃分の足しにもならないが、何もしないよりはましだろう。
こういうのは誠意が大切だ。

「人の体に全体重かけないでよ、本当に背骨折れるかと思った……」
「ソノママ折レレバ良カッタンダヨ、コノアマガ」
「喧嘩売ってるんだよね?売ってるとしか思えないんだけど!」

キャサリンと会話をするとなぜこう言い合いまがいの流れになるのか。
初対面の頃が懐かしい。猫耳付いてるんだから猫被っててくれてもいいじゃないか、とも思うのだがキャサリンは今の方がキャサリンらしいとも思う。
決して絶賛できるほどの性格の持ち主ではないけれどもそう思うのだ。

「たく、なんで鍵かけてんのに入ってきやがんだ、さすが泥棒ってか?」
「キャサリンは鍵開けが十八番なんだ。たとえ金庫にたてこもろーがもう逃げられないよ」

お登勢は家賃取り立て手段に強力な武器を手に入れたらしい。
まさかこのためにキャサリンを働かせてるんじゃ、なんて疑ってしまうが、お登勢に限ってそれはないはずだ。……ないはずである。

「フン、金庫が開けられよーが中身が空じゃ仕方ねーだろ。ウチにはもうチワワと小銭しかねーぞ、さァどーする」
「どーするってお前がこれからの生活どーすんだァ!!」

自慢顔で言い切る銀時に対してお登勢はツッコんだ。
傍で聞いていた刹希は頭を抱えたい心境である。

「あーあ、バイト増やすしかないかなぁ」
「ココハ看板娘キャサリンチャンガイルカラ他ヲ当タレヨナ!」
「お登勢さんいつからこの店看板娘なんて可愛い子入ったんですか!?」
「目ノ前ニイルダローガァァァァァ!!」
「キャサリンが看板娘なんて100万年早いネ!!私の方が100万倍看板娘に向いてるアル!」
「乳臭イガキガ調子乗ッテンナヨ!」

キャサリンと神楽が掴みかからんばかりにヒートアップし始めてしまった。
神楽が店の物を壊して余計に店が汚く、もとい壊れて行くのをお登勢は蒼白で大人しくしてろ!と懇願していた。
刹希はそそくさと床を拭きながら、二人の引き金引いてごめんなさいと心の中で謝罪した。

「しかしバーさん、アンタももの好きだねェ。店の金かっぱらったコソ泥をもう一度雇うたァ更生でもさせるつもりか?」
「そんなんじゃないよ、人手が足りなかっただけさーね……」
「でも、盗み癖はすぐには治りませんよ。もう一度店の金盗まれたら……」
「大丈夫さ、あの娘はもうやらないよ。約束したからね」

どういう経緯でキャサリンがスナックお登勢で再度働くようになったのかは、刹希はもちろん知らない。
それは二人の個人的やり取りであり、特に聞き出してどうにかしようとも思わない。
ただ刹希は心配していたのだ。
悪行ほど、簡単に自分と縁を切れないということを、キャサリンを心配しているのだ。

「あの野郎どこ行きやがったァァァァ!!」

それから、まんまと店からとんずらこいた銀時に怒り狂っているお登勢をなだめるのは大変だった。
きっと刹希がいなかったら全員2階から本格的に追い出されていたことだろう。
なんとか頭を下げてその場で取り繕ったが、刹希も新八も神楽も銀時に対してキレていたのは確かだ。

「もういいよ、あんたらこれゴミ出ししてきな」

お登勢は長くて深いため息を吐き出しながらそう言った。
もちろんデス!なんて威勢良く了解して三人はキャサリン連れでゴミを捨てに店を出た。
だらだらとゴミ置き場のある裏道へ行く中で、子供二人は不満そうに口を開いた。

「ズルイヨ銀ちゃん一人だけ逃げるなんて……おかげで私たち仕事量倍ネ」
「今回は何とかなったけど、本当に部屋追い出されたら僕らどーなるんだろ?」

どうなるもこうなるも、新八はすでに実家があるじゃないか、と刹希は口に出しはしなかった。
せいぜい困るのは銀時と刹希と神楽だ。
といっても、この面子を考えれば家がなくとも自力で生きていけそうな輩しかいないのだが。
そこまで考えて刹希は引きつった笑みを浮かべると同時にため息をついた。

「ナラコノダンボールアゲマショーカ?」
「住めってか!ソレに住めってか!」
「ふざけんなヨ!こんなものに住めるわけない!Lサイズにしてヨ!!」
「アレいいのかコレ!?間違ってねーのかコレ!?」
「いや間違いでしょ!神楽もサイズの問題じゃないから!人はダンボールには住めないから!」

だいたいもらったダンボールそこ抜けちゃってるじゃないか!
腹巻のように腹のところでダンボールを抱えている神楽に刹希は捨てるようにいうが、なぜかイヤアル!と拒む。
なんでやねん。

「オ登勢サンニ迷惑カケル奴ハ私、許シマセン。家賃モ払ワナイオ前ラナンテ、ダンボールト一緒ニ廃品回収サレレバイイ」
「んだとォォォ!お前なんか泥棒やってたじゃねーかこのメス豚ァァ!!その耳ちぎってただの団地妻にしてやろーかァァ!!」
「ナニヲー!!オ前コソ語尾カラ「アル」チギッテ凡庸ナキャラニシテヤローカァ!?」
「ああもうおちついて二人とも!」
「ウルサイアル!お前も顔から眼鏡ちぎりとってさらに影うすくしてやろーか!!」
「んだとォォォォォコラァァァァ!!」

不毛な争いが始まってしまい、仲裁に入るもの面倒くさい状態だ。
入ったとしても巻き添えを食らうに決まっている。
刹希は自分の持っているダンボール箱をほかのゴミと一緒に隅に置いてさっさと距離を取ろうとした。
通りへと視線を向けると、こちらを見ている男が映った。

「オゥオゥ元気そーだな、キャサリン!」

男はそう言ってキャサリンに声をかけた。
どうやらキャサリンと知り合いらしい、振り返ったキャサリンは驚いた顔で男を見た。

「クッ……クリカン……」

クリカンと呼ばれた男は陰険な笑みを浮かべながら話があるといってキャサリンを呼び出して行ってしまった。
一瞬躊躇しているようだったキャサリンも、刹希たちに「早ク帰ッテオ登勢サンノ手伝イシテクダサイ」とだけ言い、クリカンについて行ってしまった。
新八をボコボコにしていた神楽も手を止めてキャサリンの後ろ姿を見ていた。

「まさかキャサリンの男アルか!?」
「ええ、まさかそんなわけ……」
「でも訳ありっぽかったアル!新八つけてみるネ!」
「エェェェ、やめようよ神楽ちゃん、そういうのはどうかと思うけど」
「そうよ、どうせ同業者か何かでしょう。首突っ込むだけ面倒よ」

そう刹希がいうと神楽は尚更付いていくと聞かなかった。

「キャサリンまた泥棒に戻るかもしれないヨ、ここは刹希が見張っててやるべきアル!」
「なんでそこで私が出てくるのよ?」
「だって刹希、キャサリンと仲いいネ」
「神楽ちゃん?どこをどう見たらそうなるの?眼科行ったほうがいいんじゃないの?」

ガシガシと神楽の頭を撫で回しながら、抑揚のない声と笑顔で言い寄る刹希はまるで般若である。
しかし、神楽の意見を完全に無視することもはばかられた。
新八が、「二人いっちゃいますけど」と恐る恐る言ってくる姿を見て、刹希は再度深くため息をついた。

「見に行くだけだからね」

そこだけ念入りに押して三人はキャサリンとクリカンの後を追うことにしたのだった。


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