もう日が沈みかけているせいで、ゴミの散らかった中を歩いてくる人物の顔を確認するのは難しかった。
ガタイの良さそうなシルエットと歩き方からして男だろう。
男は何やらコソコソとゴミをあさっているようだった。
「間違いねェ、放火魔だ」
「何を根拠に言ってんだ?」
あさっているといっても刹希たちのいる場所からだと言い切ることは難しい。
銀時の迷いのない断言に辰巳は怪しげに問いただしたのだが。
「まっとうに生きてる奴らの身体からコソコソなんて音するわけねーだろ」
「お前もコソコソ頭の上に出てんぞ!」
何もしてないのにコソコソという音が出ている時点で現れた男よりもよっぽどまっとうな人間じゃないことになる。
辰巳の後ろに隠れていた刹希は声に出さないながらため息をつくのだった。
だいたい、部外者といってもいいのだから隠れる必要はあったのか、と頭によぎりもした。隠れてしまったものは仕方ないので今更出ることもためらわれる。
男は先程よりもゴミの周辺でなにかしていて、ゴミの漁る音がより大きくなっていた。
「うおっ、コソコソだけじゃあきたらず濁点まで!恐い!もう恐いよ!」
「うるせーよ!アレ?ちょっと待て、あの纏……!!」
そう、背中に「め」と書かれたあの纏は昼間に見たものだった。
今まで腰をかがめていた男は辰巳の声に反応したのか立ち上がって辺りをキョロキョロと見渡した。
そしてその顔は昼間にも見ため組の頭だった。
「オイオイありゃ、オメーんとこのハゲじゃ……」
「頭ァ、何でこんな所に……」
「まさか、あの人が放火魔?」
全員の頭に浮かんだその可能性。
辰巳は息を呑んで頭の動きを見守っていたのだが、彼の取り出したその本が全てを語っていた。
「やっぱコレ捨てんの止めようかな……けっこー気に入ってんだよな」
「エロ本捨てに来たみてーだ」
緊張感の欠片もない発言に辰巳は盛大にずっこけた。
それに気がついた頭もようやく辰巳たちに体を向けた。
「てめーこんな所で何やってやがんだ!!」
「オメーこそエロ本捨てにわざわざこんな所まで来てんじゃねーよ!」
め組とは距離の遠いゴミ捨て場である。
「違いますぅ!俺はジャンプ捨てに来たんですぅ!!」
「ウソつくんじゃねェ!!薄っぺらいカモフラしやがって!!」
「まったくだよォ、こんなオッさんにだけはなりたくねーな」
「オイぃぃぃぃ!なりかけてるぞ腰のあたりまで侵食されてるぞ!!」
後ろで見ていた刹希は盛大にため息をついた。
エロ本など止めようとも思っていないがこうも堂々としていると呆れしか出てこない。
「ウチは思春期のガキが多いからこーゆーの持ち込めねーんだよ」
「多いって二人だけでしょーが、しかも一人女の子だろーが」
「バカヤロー思春期のガキにこそこーゆーものが必要なんだよ」
「お前らは社会的に必要ねーけどな!!」
「ホントそうですよね!こういうオッサンこそ焼却処分されればいいと思いますよね!」
「ちょっと刹希ちゃん!?前回からなんかひどくないィィ!?」
俺冤罪だったんだよ!と訴えてくるが、問題はそこではないのでどうでもよかった。