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「だァ〜から、それはお前、俺の聖水でだな、火を消そーとしてただけなんだっつーの」

め組、火消し屋に連れてこられた銀時はそう言った。
縄で胴体と腕を一緒にぐるぐる巻きつけられた銀時の目の前には先ほどの女辰巳が仁王立ちで怒っていた。

「ウソつくんじゃねェェこの変態放火魔が!!汚ねーもん見せやがってトラウマ決定だよチクショー!!」
「乗りこえてこい!人はトラウマを乗りこえて強くなっていく」
「トラウマ産み落とした奴に言われたくねーよ!!てめー女だと思ってなめてたらいてまうぞコラァ!?こちとら火消しになった時から性別なんざティッシュにくるんで捨てたんだコノヤロー!!」
「だったらオメー股間の一つや二つ見たって問題ねーだろうが!!ティッシュに優しく包んで捨ててくれや!!俺だってちょっと恥ずかしーんだからな!」
「そっちの話じゃねェ!!放火の話だよ!!」
「だからやってねーって言ってんだろ!!」

この目で見たんだからな、俺は火消そうとしただけだ、ウソつけ、嘘はどっちだバカヤロー、ずっと長い言い争いの後、刹希を呼ぼうと決めた銀時はある意味早くこの場から去りたかったのだろう。
いや、味方について欲しかったのだ。俺がこんなことするわけないと彼女ならわかってくれると信じていたからだ。
バイトをしている刹希には悪いが、銀時はそんな彼女の心境のことなど考えていない。真っ先にバイト先に連絡を入れさせた。
そしてそれから幾分か経った頃、刹希は笑顔でめ組に現れたのだった。

「すみませーん、電話をもらった者ですけど」

扉から顔を覗かして中を伺った刹希と縄で縛られている銀時の視線が合う。
救世主!と思った銀時だったが、すぐにそれは潰えてしまう。
目があった瞬間に、彼女はさらに笑顔を深くして近寄ってくると手のひらで銀時の頭を抑えて勢いよく床に叩きつけられてしまったのだ。

「フゴォッ!」
「どーもすみません、このバカが本当にバカのことをやらかしたみたいで!昔から頭が空で馬鹿だ馬鹿だと思ってたんですがまさか放火するなんて思っても見なくて!これまでしっかり見てこなかった私にも責任があります、どう責任を取っていいのか!」
「ちょ、刹希……ッ!おま、死ん」
「やだ、もっと地面にめり込むぐらい頭下げて謝罪の意を見せろよこのマダオが!!」

手をぱっと離した刹希。助かったと思った銀時だが、また頭に衝撃が来て先程よりも深く地面にめり込みそうなくらい押し付けられた。
刹希は容赦なく足で銀時の頭を踏んでいたのである。
銀時に向かう目は般若のようだったが、辰巳が声をかけたとたんぱっと満面の笑顔になった。
辰巳はかなり怖がっていた。

「ちゃらんぽらんで普段からぐーたれてるだけの男だけど根はいい奴なんです!本当に申し訳ありません、ほら銀時も謝れさっさと謝れ今すぐ謝れそんな子に育てた覚えありませんよ!!」

グイグイと床に押さえつけられている銀時はなんとか顔をあげようとしているがなぜか頭にかかる異常に力が強いせいで声すら出せない状態だった。

「あ、あの……そいつ死にそうですけど」
「ああ、大丈夫です!なにしても死なないんで!というか死ねばいいと思います。地獄に落ちろって感じ?」
「ここで殺人事件を起こさないでくれ!!」

目が座っているのを見て辰巳は本気で刹希を止めた。
必死で足をどかしてようやく解放された銀時は最初の頃よりもボロボロになっていた。

「……なんで俺がこんな目に」
「ああ、銀時。私はなんて先生に顔向けしたらいいか。こんな大人に育ったなんて……」
「だからやってねーって言ってんだろーが!刹希も信じないってか!?」
「だって普段の行いがね……」

とことん信用のない男、坂田銀時である。
シクシク泣き始める男を目の前に女二人は目を合わせた。
そして同時にため息をつく。

「で、本当に彼は放火したんですか?」

刹希の発言に辰巳は眉を寄せた。
間違いない、辰巳はそう言う。手口が同じだと……。
しかし刹希は言葉に出さないが、銀時がそんな意味のない事をするような男だとは思っていない。
とりあえずさっきのは日頃の鬱憤に対しての発散である。この前隠れて団子を全部食べたことにはかなり怒っていた。

「やっぱりこいつを庇うってわけだな」
「え、8割5分は信用してませんけど」
「何なんだおめーら!」

必死に助けを求めているからどれだけ信用しているのかと思えば、実際のところ全く信用されていなかった。
なんでわざわざ呼んだんだ、と銀時を見ながら呆れてしまうほどである。

「なんだなんだうるせーな。こちとら非常時の時のために睡眠とってんだよ、静かにしろバカヤロー」

ぞろぞろと奥から出てきたのは四人ほどの火消しの男たちだった。
火消しというだけあって皆風貌が厳つい。
一番前に立っている左目に傷を負った男が頭だろうか。ことが大きくなりそうだ、と内心思いながら刹希は会釈をしておく。

「みんな!放火魔捕まえたぜ」
「どーせまたハズレだろ?今週だけで八人も無実の奴つれて来てんだぜ」
「八っ?」

思わぬ数に刹希は目を瞬かせた。
一週間て7日だよね、一日一人でも計算が合わないんですけど。
捕まえすぎだろこの子、と目の前の辰巳を残念な目で見てしまう。

「放火魔しょっぴくだかなんだかしらねーけどよ、同心気どりもたいがいにしとけや。余計なマネして周りに迷惑ばっかかけんじゃねぇバカヤロー!」
「火消しは火事を未然に防ぐのも仕事だろーが!!こいつァ間違いねーよゴミ捨て場が火元っていう手口も放火魔と同じ……」

その時、め組内の警鐘がけたたましく鳴った。
火事が発生したらしい。しかも、火元はゴミ捨て場だということだ、この時点で銀時が無実なのは証明されたわけだ。

「野郎ども行くぞ!」
「はいよ!!」
「そんな……」
「だから言ったじゃんだから言ったじゃん」

そら見ろ、と銀時がふてくされ気味で言う。
刹希にまで謝罪してくださーい!なんて言い出すものだからにっこり笑って平手打ちをしておいた。

「辰巳よォ、お前も女だてらに周りに負けねーよう必死なんだろーが完全にから回ってんだよ。しょせん、女にゃ火消しなんざ無理なんだって、悪いこたァ言わねーから足洗え。あと現場にも足手まといだから来なくていいぞ」

頭の容赦ない言葉に辰巳は拳を強く握り締めるだけだった。
女だから、その言葉は彼女にとってはありがた迷惑なものなのかも知れない。


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