@
何が正しくて何が間違ってんのか?
混沌としたこの世の中じゃそいつを決めんのは簡単じゃねぇ。

他人のつくったルールなんざあてになるか。
そんなもんに身を任せてたら何も自分で決められねェ人間になっちまうぜ。

結局、最後は自分で決めるしかねーんだ。
自分のルールで生きていくしかねーのさ。

「ジャンプは燃えるゴミで出していいはずだ。だって読んでたら何か燃えるもん」
「そりゃ、てめーが燃えてるだけだろーがァ!!」
「ごふっ!!」

ゴミ捨て場にいた銀時に、後ろから飛び蹴りを食らわしたのはお登勢だった。
なぜかポリバケツをかぶって(?)現れたお登勢はタバコを吹かせながら銀時を見下していた。

「雑誌は古紙の日の水曜に出せって言ってんだろーが!てめーいつになったらゴミの分別できるようになんだ?なんでも燃えるゴミの日に出しやがって……」
「燃えないゴミが嫌いなんだよ!何だよ燃えないって、ホントは燃えるのに出し惜しみしてるみてーじゃねーか。奴らホントは燃えられるんだぜ!ダリーからサボってるだけなんだよ!!」
「考えすぎなんだよテメーは!!」

地区で決まっているゴミ分別にそんないちゃもんをつけてくんな、とお登勢は言いたいわけで、銀時のその屁理屈な言い訳が苛立たしかった。
こんなんでよくここまで育ってきたなこの男、と思わざるを得ないのである。
きっと刹希が昔から世話を焼いていたに違いない。

「大体、テメーより後に来た刹希がすぐにゴミの日覚えてんだ、ちょっとは見習ったらどーなんだい」
「だからいってんだろーがババァ、刹希と俺を一緒にすんじゃねー!俺と刹希は水と油なの!あ、月とすっぽん?太陽ともぐら?とりあえずお互いでお互いを補ってんの!」
「知るかァァんなもん!毎回毎回尻にしかれてるテメーの言える台詞じゃねーんだよ!!」
「うっせェェェ!!別に敷かれてませんから!ちょっと、アレだから!!俺が年上としての威厳というか……」
「どっちが年上かわかったもんじゃねーだろうが!!」

というか恋人のような体で話を進めるのをやめてください、とその場にいたら刹希は絶対そう言うだろう。
とりあえず、刹希が銀時のダメな部分を補っているとしても、銀時が刹希を補っている部分はかなり少ないはずだ。
十個挙げよと言われても片手にも満たいないに違いない。

「とにかくそれ持って帰りな。最近ゴミ捨て場で放火が多発してて規制も厳しくなってんだから……」

お登勢は吸っていたタバコの吸殻を捨ててその場から去っていった。
誰もいなくなったゴミ捨て場で銀時は頭を掻きながら面倒くさそうに自分のついさっき捨てたジャンプを見やる。

「しょうがねぇ、便所紙にでも使うか……ん?」

銀時の背後からパチパチと何か嫌な音が聞こえてきた。
若干背中が温かくも感じる。
待て待て、と思いながら後ろを振り向けば、銀時の読みは見事的中していた。燃えているのだ、ゴミが。

「アレ?ちょっとォ!?ウソォォ!?ここもボヤ騒ぎ?あのババァタバコポイ捨てしていきやがったな!やべーぞコレ!!水、水!!あるかんなもん!!」

一人漫才をしている場合ではない。
どこかに水はないか、とあたふたしながら考えていると一般的に一番よくないことを思いついた銀時。

「出るかな?いや、大丈夫だ、自分を信じろ」

全然大丈夫じゃねーよ。とアッパーカットでも食らわしてやりたいが、ツッコミ不在はどうしようもない。
唯我独尊。銀時は止める誰かがいないのをいいことにズボンのチャックを下げはじめた。
刹希がいたら本気で殺されていただろう。
しかし、そこで銀時、というか火元だろう。そこにめがけて消火器が噴射された。

「とうとう尻尾つかんだぜ、連続放火魔さんよ〜」

そこに現れたのは、ねじり鉢巻をして男のような格好をしている女だった。
今まで隠れていたのかはわからないが、正直この状況で飛び出してくるとは中々根性のある女であった。

「この“め組”の辰巳に見つかったからにはてめー生きては帰さ……」
「あの〜、あんまりジロジロ見ないでくれない?」

固まる女と用を足す男のコラボレーションである。
女は雄叫びに近い悲鳴をあげながら消火器を振り上げて銀時めがけて振り下ろしたのであった。



  *



珍しく鳴る電話に出たのは小料理屋「あじさい」の店主だった。

「はい、小料理屋「あじさい」ですよ」

料理の注文をとっている最中の刹希に代わって電話を取った彼は、電話の向こう側にいる女の苛立たしげな声にのんびり対応していた。

「……綾野刹希さん?ああ、いるよいるいる。刹希ちゃーん、君に電話だよォ」
「え、私にですか?」

少しびっくりしながら、店主に伝票を渡して受話器を受け取った。
滅多にこの店に電話がかかってこない上、刹希を名指ししてくるのだ。いったい誰だろうか。

「もしもし、電話代わりました綾野ですが」
「〜〜〜〜〜〜〜」
「……は?」

受話器の向こう側から聞こえてきた言葉の数々に刹希は思いっきり顔をしかめた。
女の声が聞こえてくるそのさらに遠くから聴き慣れた男の声が聞こえてくる。
ギャーギャーと言い争っている向こう側に刹希の怒りが徐々に上がっていく。
なぜアイツは一人だとこうも面倒事を増やしてくるのか、怒りで受話器を持つ手が震えてくる始末だ。

「……今からそちらに向かいますので、よろしいでしょうか」

わかったとの相手の返答を聞き、刹希は電話を切った。

「刹希ちゃん、なんだったんだい?」
「店長、すみません。またあのバカがやらかしたみたいなので後始末に行きます」
「え、あ、ああ、そうなの?」
「用が終わったら帰ってきますので、毎度毎度すみません、あのバカ(強調)のせいで」
「うん、いいよ。うん……だから行っておいで」

店主はゴゴゴと背後で黒いものをあふれさせている刹希に怯えながらそう言った。後始末という単語が妙に裏を含んでいそうで恐ろしい。
店長は久しぶりにこんなに怒っている彼女を見た。銀さん今度は何やらかしたんだろう、と思うが口には出さなかった。話が長くなりそうだったからだ。

エプロンを外して疾風の如く店を出ていった刹希を店主は無言で見送るのだった。


prev next

bkm
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -