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春雨の宇宙船から帰った翌日、刹希は寝込んでいた。
身体がだるい、頭が痛い、吐き気がする、熱が出る、とにかくもう動きたくない。
様々な症状が刹希を襲ってきた。こんな弱った状態の刹希を新八と神楽は初めて見た。

「ほら粥作って来たぞ、これ食べたら薬飲んで寝ろ」
「食欲ない」
「ざけんなよ、銀さんがわざわざ作ってやったんだから食べなさい!」

寝込む刹希の枕元に土鍋と置いて、その横で銀時が腰を下ろす。
頭が痛いというのに大声を出す銀時に耳を塞ぎながら仕方なく起き上がった。

春雨の船艦から帰って来たその日、刹希は足元がふらつくだけだからと言って病院に行かなかった。
元々病院に掛かる金も使いたくない、出来るなら自力で直したいと思っていたのだから。
だが、次の日朝起きれば冒頭の様な症状に襲われた。
朝起きるというが、実際は太陽が上る前の早朝である。あまりの頭痛に叩き起こされたという方が合っているかもしれない。

「だから言っただろーが、すぐ病院行けって」
「……その話やめて、頭痛い」

色んな意味で頭が痛くなる。
銀時が粥を小鉢によそって渡してくるのでそれを受け取り一口口に運んだ。
銀時がこんなに甲斐甲斐しいというか優しいのもこんな時ぐらいである。
滅多に体調不良にならない刹希にとってこれはこれで楽でありがたい。普段からこうだと更にありがたいのだが。

「……あ、これ以上食べると吐く」
「イヤイヤイヤ、まだ一口しか食べてないよね?一杯じゃなくて一口だよね?全部じゃなくて一杯でも良いから食べろってのォ!」
「……いやだから食欲ねーよ」
「俺がせっかく作ったんだから食べろっての」
「嫌だって言ってんじゃん」
「刹希ちゃんんんんん!?何!食欲ないんじゃなくて俺のご飯嫌なわけ!?」

またまた大声を上げる銀時。指で耳を栓する。
傍から見ればこんなに言い合っているのだから刹希もピンピンに見えるが、目は虚ろである。頭が朦朧としているのである。
いや確かに普段ほとんど食事を作らない銀時が珍しく食事(と言っても粥だが)を作っているのだ。
食べてやりたいのも山々だが喉が物を通そうとしないのである。
そんなこと銀時だってわかっているはずだ、刹希は銀時を見上げて訴えた。
勘弁してくれ。

「……よし、んじゃ俺が口移しで――ギャァァァ!火傷!火傷するからァァ!!」

銀時がバカなことを口走るので刹希は熱々の粥を匙ですくって銀時の口にねじ込んだ。
身悶える銀時を眺めながら小さくため息をついて膝を抱えて座り込んだ。
寝たい。果てしなく寝たい。寝たらきっと次起きたら治ってるといいのにな、などと考えるのだが、そんなので治ったらここまで苦労してない。
そんじょそこらの風邪ではないのだ。すでに風邪とも言いがたい症状でもある。

刹希の症状はいわゆる拒絶反応だ。
異物を取り込んだことに対して、体が異常な抵抗を見せている。
刹希の場合人よりもそれが著しいのだ。なぜこんな体質になったのか、困ったものである。
前もこんなことになったことがあり、その時も銀時が看病していた。だからその辺は弁えているはずなのだが……。

「ったくよー……食べねーと体力落ちるぞ。何でもいいから食べてくれって、ホラ」
「……」

目の前に出された匙の上に乗った粥。
渋ること数分、ごくりと生唾を飲みこんだ刹希は口を開けた。
自動的に口の中に運ばれる粥をなんとか噛んで、飲み込んだ。
それを何度か繰り返す。

「ハイ、お疲れさん。んじゃ薬飲んだらちゃんと寝とけよ」

銀時はそう言って、土鍋を持って刹希の部屋から出て行った。
静けさの戻る部屋、少しの間じっとしていたが思い出したように水を口に含んでから薬を飲みこんだ。
掌を額に当てるが熱くはなかった。手がひんやりするわけでもない。熱は引いたようだ。
頭に響かないようにゆっくりとした動きで布団の中へもぐりこむ。
やいのやいのと外から銀時と神楽の話し声が聞こえてきて、自分以外は何も変わらないな、と妙にしんみりし始めてしまう。
風邪になると誰かにいてほしいとか、一人だと寂しいとか、そういうことを前に本かテレビかで聞いたことがあった。あ、いや、人伝いかもしれない。
まあどこから聞いたのかは良いとして、まさに今はこういう状態なのだろうか、と考え始める。
別に風邪ではない、体調不良というだけだが、妙にこの部屋の中一人でいるというのが刹希の中の恐怖心を煽らせていた。いつも使っている部屋だというのに。
そう考えると銀時たちの声は普段と変わらないおかげか、どこか安心できて良かった。
……のだが、最初は気を遣って声が小さめだったわりに今では大声で言い争っている。
内容もまるぎこえである。

「……うるせーよ」

ぼそりとつぶやく刹希だが、もちろん襖一枚隔てた向こう側に聞こえるはずもない。
ここから大声で叱ってやる気も起きない。
仕方なしに布団をすっぽりかぶって耐え忍ぶことにしたのだが、正直刹希も気が長いわけではないのだ。
最終的に三人と一匹の息の合った大声に刹希の堪忍袋の緒が切れたのは言うまでもない。
ゆらりと起き上がった刹希は傍に置いてあったクナイを掴むと外のことなど考えずにそれを放った。
もちろん、襖を突き破ったクナイがどうなったのかは想像に知れている。

「ギャァァアアアア!!」

と、三人の絶叫が聞こえてきた。
次の瞬間にはばっと襖が開いて新八が顔面蒼白で正座をしていた。気分的に顔面蒼白なのは刹希である。

「すすすすみませんでしたっ!銀さんと神楽ちゃんには僕がちゃんと静かにするよう言ってきますから!」
「……いや、新八も十分うるさかった」
「すみませんんんん!!」

何度も頭を下げて謝る新八に、何もそこまで謝ることもないのに、と痛くなる頭を抑えながら思う。
もういいよ、と言って布団の中に潜り込めば、新八も襖を閉めて戻っていく。

「怖かったアル」
「もう、だから静かにしなよって言ったんじゃないか!」
「いやいや、あれもうバリバリ元気だろ。どこの世界に病人がクナイ投げてくんだよ!そんな病人、病人とは認めねぇよ!」
「ちょっと銀さん!静かにしてくださいよ!」
「新八の方がうるさいネ。また刹希に怒られるの嫌アル私」
「怒られるっつーか殺られるじゃね?」

病人が隣で寝ているというのにその発言は失礼すぎるだろ、そんなにあっちでもこっちでも誰かを殺るわけがない。
苛々とそう考えて、だがため息をつくと疲れたのか刹希は目を瞑って眠り始めた。
次第にうるさかった室外もようやく静寂を取り戻し始める。薬を飲んだおかげであっさりと眠ることが出来た。


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