B
迷うことなく刹希は走り続けた。
狭い通路を走り抜け、突き当たりの鉄の扉を開けて外に出る。
銀時はどこにいるだろうか、左右に続く通路を一瞬迷うが右に曲がり更に走った。

「銀時!」
「刹希か!?」

通路を進むと目の前に開けた甲板が広がる。
甲板の中央には天人が集まっていて、隙間を縫って前に進めば目の前に銀時が現れた。
しかも小太郎と同じように海賊船長のような格好をしていた。
大きく深呼吸しながら刹希は銀時に駆け寄る。

「も……っ、バカなの!?こんな無茶してっ!」
「無茶なんかじゃねェよ、銀さんピンピンだって」
「肩ぶっ刺されてたくせによく言うよ」
「いだだだだだだだ!!掴まないでェ!傷開いちゃうゥゥ!!」

陀絡に斬りつけられた左肩を掴めばやはり痛いらしい、銀時は思いっきり痛がって刹希の手を払いのけた。
そら見たことか、と言ってやれば仕返しとばかりに銀時が刹希の頭に巻いている包帯代わりの着物を指摘してきた。

「まさかあいつらにやられたんじゃねェだろうな!」
「違う!これは自分でやったの!!」
「イヤイヤ、そこはそうですって言っとこうね。自分でやったとかバカみたいじゃん?」
「なに、私のことバカだって言いたいの?」
「刹希ちゃんはたまにバカですゥ」
「オイ、痴話喧嘩もいい加減にしろよ。てめーら」
「ちょっと、今のどこ聞いたら痴話喧嘩になるの、耳腐ってるの?」

陀絡の一言に引っかかった刹希は眉間にしわを寄せて睨み付ける。
そんなバカみたいな勘違いをされるのは刹希にとっては失礼極まりないことなのである。
こんなダメ男と恋愛がどーのなんて関係まっぴら御免だ、と言ってやりたいところだ。

「大体さっきはよくもやってくれたわね、今すぐその首と胴体切り離してやるから」
「ちょ、オイ待て刹希!」
「あれ……?」

今にも陀絡に向かっていきそうだった刹希はすぐに足を止めてしまった。
そして何やら自分の手や懐や袂を見始める。
え、どうしたの?何探してるの?と銀時や新八は思った。

「どーした?刹希……」
「……小刀失くしちゃった。てことで、今回はパス」

普段見せない可愛らしい笑顔で、てへ、なんて効果音がついてきそうな仕草をする刹希。
ひらひらと両手を振るった刹希は後は任せた、と言って新八と神楽の元へ向かっていった。
それを見たのち、なぜか顔を見合わせる銀時と陀絡。

「イヤそこは行けよォォォォォォォ!!!」
「銀ちゃんうるさいアル」
「そうそう、こっちは皆頭痛いんだから」
「銀さんも痛いけどね!斬られたところ!」

ちょっとは労わってェェ!と叫ぶも生返事で返されるばかりである。
だがその時、船内から爆発が再び起こった。

「さっきからなんだ!」

痺れを切らした陀絡は集まっていた部下たちにそう訴えるが、もちろんその場にいる彼らは船内で何が起こっているのかわかるはずもない。

「何が起こっているんですか」
「小太郎がやってるんだと思うけど」
「桂さんが!?」
「ヅラまで来てたアルか!」

春雨に聞こえない程度の声で刹希と新八・神楽は話す。
とりあえずこの場は大丈夫だろう、そう二人に言い聞かせて落ちつかせた。

「陀絡さん!どうやら倉庫で爆発が……」
「俺の用は終わったぞ。あとはお前の番だ、銀時。好きに暴れるがいい、邪魔する奴は俺がのぞこう」

船の張り出した部分の上に立っていたのは小太郎だった。
両手には球体の爆弾を持っている。
その姿に陀絡は声を荒げた。

「てめェは……桂!!」
「違〜〜う!!俺はキャプテンカツーラだァァァ!!」

小太郎は飛び降りながら手にしていた爆弾を天人目がけて投げ付けた。
爆風が巻き起こり、視界は狭まる中で刹希の足下に一本の小刀が突き刺さり、その鞘が落ちてくる。

「!」
「刹希のだろう、見つけてきた」

煙に紛れて傍にやってきた小太郎はそれだけ言って再び天人の中へと向かっていった。
刹希はにんまりと笑って小刀を引き抜くと鞘に納めた。
両脇にいた新八と神楽と共に目の前の銀時と陀絡の戦いに目を向ける。

「だが俺のこの剣、こいつが届く範囲は俺の国だ。無粋に入ってきて俺のモンに触れる奴ァ、将軍だろーが、宇宙海賊だろーが、隕石だろーが……ブッた斬る!!」

両者の刃が交わった。周りでは桂が天人は倒して行き煙幕が充満していく。
刹希たちはその光景に見入っていた。
動きを止めた二人、陀絡はクク、と笑う。

「オイ、てめっ……便所で手ェ洗わねーわりに、けっこうキレイじゃねーか……」

陀絡はそう言い残してその場に倒れた。
銀時が刀を鞘に納めるのを見て、刹希は立ち上がった。



  *



「アー、ダメッスね。ホントフラフラして歩けない」
「日ぃ浴びすぎてクラクラするヨ、おんぶ」

一件落着した今回の事件。
船から降りた新八と神楽はその場に座り込んでそんな事を言い始めた。

「何甘えてんだ腐れガキども、誰が一番疲れてっかわかってんのか!二日酔いのうえに身体中ボロボロでも頑張ったんだよ、銀さん!」
「僕らなんて少しとはいえヤバイ薬かがされたんですからね!」

銀時の怒り発言に新八が言い返す。
それは尤もで、少し先を歩いていた刹希は振り返って苦笑した。

「それじゃ私が一番ボロボロだね。二日酔いアンド意味不明な薬飲まされたし」
「ちょっと刹希ちゃん!?大丈夫なの!?身体大丈夫なのソレ!?」
「僕らと刹希さんの対応が違い過ぎません!?銀さん!」
「刹希贔屓アル!」

刹希に駆け寄り心配そうにする銀時に新八が今度は怒りだす。
ぶーぶーと神楽も駄々をこね始め、おんぶを連呼し始めた。
ゆっくり歩いている刹希の横で銀時の怒りパロメーターが徐々に上がっていく。
そして……。

「いい加減にしろよコラァァァ!!上等だ、おんぶでもなんでもしてやらァ!」

振り返ってどうにでもなれと言った感じで言えば、新八と神楽は喜んで走り出してくる。

「元気爆発じゃねーか、おめーら!!」
「あははははっ」

結局対して弱っても見えない子供二人を背中と脇に抱えて銀時は歩き出した。
刹希もふうと眼をこすってから銀時の後を追う。

「オイ、手」
「……」

立ち止まって振り向いてくる銀時は単語単語でそんな事を言ってきた。
きょとんとしていた刹希に、銀時は空いている自分の手で刹希の右手を掴んで歩き出した。
もつれそうになる足を立て直して銀時の横を歩きだす。

「どーせまともに歩けねーんだろうが、こけて俺の負担増やさないでくださいよ」
「……もっと素直にいえないんですかね、銀時くんはァ」

不器用で遠まわしな言い方に刹希はなんとか言いたいことが分かってため息をつく。
残念な男だ、と思いつつも気取られないように歩いていた自分の状態を把握する辺り、やっぱり銀時の観察眼は伊達ではない。
気が付かなくてもいいのに、と思う反面気が付いてくれて嬉しかったりと自分の心の変化に少し戸惑う。
心臓がざわざわするのは何か今までとは違う感情のせいなのか、薬のせいなのか、はたまた二日酔いのせいなのか。
刹希はそっと銀時の手を握り返した。

「……ったくよ〜。重てーな、チクショッ」





2013.11.26


(あとがき)
春雨篇完。
一体ヒロインが何の薬を飲まされたのか結局不明、考える気もない(爆
最後に銀時とヒロインが手をつないで帰るところがやれてよかったです。


prev next

bkm
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -