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季節は春。
春といえば桜。
桜といえばやっぱり花見でしょう!
そんなわけで、刹希たち五人と一匹は花見に来ている。

「ワリーな、オイ。姉弟水入らずのとこ邪魔しちまって」
「いいのよ〜、二人で花見なんてしても寂しいものねェ、新ちゃん?」
「はい、姉上」

そう、先日夕食を共にしていた新八が一緒に花見でもしませんか、と銀時たちに提案して来たのである。
お妙も言うように姉弟だけでは味気ないし、せっかく知り合ったのだから仲でも深めましょう、ともっともらしいことを言って新八に賛成を煽がれた。
もちろん、銀時と刹希も花見は嫌いではない。
誘われたのだし、断るのも野暮である。二つ返事だった。

「ハーイ、お弁当ですよー」

皆で円になり、くつろいでいるところでお妙がお弁当を取り出した。

「なんだ、お前も作って来たのか」
「あら、それどーいう意味ですか?私が作って来たらいけないんですか?」
「イヤイヤ、そうは言ってないよ?いっぱい食べられてうれしーなー」

拳を握って笑顔で殴りかかろうとするお妙に銀時は後退りながら弁解した。
かなり棒読みではあったが。
かくいう、銀時がそういうことを口走るのは刹希も弁当を作ってきたからである。

「お妙、私もお弁当作ってきたの。皆で食べようか」
「まあ、そうだったの。良かったわね神楽ちゃん、いっぱい食べれて」
「うん!」

ついでに言えば刹希は神楽のためにの五段ある重箱でお弁当を作ってきた。
万事屋にそんなものがあるのか、というツッコミはなしの方向で行くとしても、神楽の胃袋ではこれでも絶対足りないだろう。

「さっ、皆さん、お食べになって!」
「じゃ、遠慮なく……」
「!」

中央に置かれた箱の蓋を銀時と神楽がそれぞれ開けたが、刹那皆の動きが止まった。
えーと、なんて誰か言った気がしたが誰だったろうか。しばしの沈黙。
どうリアクションとればいいのかわからない、両者のお弁当の中身の差が酷いのだ。
とりあえず代表して銀時が口を開いた。

「とりあえず、お妙。なんですかコレは?アート?」

指したのはお妙の持ってきたお弁当。弁当箱の真ん中にぽつんと置かれた黒い塊の何か。
いやホントなにソレ、って言いたい。
お妙はおほほーなんて言い出しそうな感じで返した。

「私、卵焼きしかつくれないの〜」
「“卵焼き”じゃねーだろ、コレは“焼けた卵”だよ」
「卵が焼けていればそれがどんな状態だろーと卵焼きよ」
「違うよ、コレは卵焼きじゃなくてかわいそうな卵だよ。卵焼きっていうのはコレを言うんだよ」

そういって銀時が見せたのは刹希の作った弁当箱に入っている卵焼き。
真っ黒な塊ではなく、綺麗な黄色の卵焼き。

「あら〜、刹希さんは本当に料理が上手なのね〜、新ちゃんからよく聞いているわ〜」
「あ、はい……えっと、ごめんなさい」
「ふふ、なんで謝るのかしら、全く分からないわ」

何食わぬ顔でさらさらとそんな事を口にするお妙が怖かった。
元はと言えば、新八が刹希にお弁当を作って来てくれと言ったのである。
必死に頼み込まれるので何かあるのかと思えば、こういう事だったのだ。
刹希はちらりと新八を見れば気まずそうに口パクですみません、と言っていた。

「元は卵じゃない、食べられないはずないでしょう?さっ、お食べになって!」

あれ、さっきの振り出し?と若干のデジャブを感じる。

「いや食べらんねーよコレ。だって黒い塊だもん、炭みたいじゃ――」
「いいから男はだまって食えや!!」

嫌々いう銀時に痺れを切らせたお妙は、黒い卵焼きを掴んで無理矢理銀時の口の中に叩きこんだ。
え、これは食べないといけないのだろうか、それはぜひとも避けたい。
神楽を見れば汗を流しながら恐る恐る卵焼きを掴んで口に運んでいた。

「これを食べないと私は死ぬんだ……これを食べないと私は死ぬんだ……」
「暗示かけてまで食わんでいいわ!!止めときなって!僕のように目が悪くなるよ」

悪くなるのかよ!そんな卵焼きどこの世界の食べ物だ!
刹希はとりあえず、目の前にある自分で作った弁当の卵焼きを食べた。
うん、普通に美味しい卵焼きである。ついでに銀時用に甘めである。

「新八もそれならそうとお妙に作らせなければいいのに」
「いや、姉上もなんか張り切っちゃってまして……要らないって言えば逆に僕の命が危ないって言うか……」

それもそうか、もう全てにおいて仕方のないことかもしれない。
ただ救いなのが、刹希のまともなお弁当があるということである。

「ほら、こうなるだろうと思って刹希さんにお弁当作って来てもらったんですから」
「こここっちのお弁当もおいしいアル!」
「神楽ちゃん無理しなくていいから!!」

花見開始しょっぱなから波乱である。
こんなんで無事にのんびりした楽しい花見を楽しむことが出来るのだろうか。

「ガハハハ、全くしょーがない奴等だな!どれ、俺が食べてやるからこのタッパーに入れておきなさい!」

今の面子から聞こえるはずのない声がいきなり現れてまたもや全員の動きが止まる。
何で貴方がいるんですか、と冷汗を掻きながら刹希は声の主に顔を向けた。
もちろん、銀時達もである。
そこにいたのはお久しぶり、近藤勲であった。

「何レギュラーみたいな顔して座ってんだゴリラァァ!!どっからわいて出た!!」
「たぱァ!!」

先制攻撃を仕掛けたのはお妙であった。
ボッコボッコと近藤を殴り始めている。

「オイオイ、まだストーカー被害にあってたのか。町奉行に相談した方がいいって」
「いや、あの人が警察らしーんスよ。ね、刹希さん」
「え?ああ、うん。あれでもお偉いさんだよ」
「まじか、世も末だな」
「悪かったな」

またまた聞き馴染んだ声に刹希が振り返ると、大人数を後ろにひきつれた土方が立っていた。
自分のお弁当を着々と食べ進めながら小さくため息をつく刹希。
のんびり楽しいお花見?……もう出来そうにない。銀時と土方が出会ってしまった時点で無理だと分かる。
そう考えている矢先、銀時と土方が口争いを始めた。

「オウオウ、ムサい連中がぞろぞろと。何の用ですか?キノコ狩りですか?」
「そこをどけ。そこは毎年真選組が花見をする際に使う特別席だ」

それは初耳であった。
そういえば毎年彼らに一緒に花見に行かないかと誘われていたなぁ、なんて暢気に思い出す。
彼らと行ったら絶対にバカ騒ぎ以上の惨事になりそうでいつも断っていたのだ。

「どーゆー言いがかりだ?こんなんどこでも同じだろーが、チンピラ警察24時か、てめーら!」
「あ、うまいねー銀時」
「だろだろー、銀さん大喜利いけちゃうんじゃねーかなァ」
「それはどうかな」

けらけら笑い始める刹希に嬉しそうに話し始める銀時。目の前でそんなやり取り見せられて土方のイライラが増している。
それを見ていた沖田がぷぷー、と笑った。

「土方さん、刹希さんに笑われてやんのー」
「うるせぇ!別に俺が笑われたわけじゃねェだろーが」

自分が笑われたことは認めたくないらしい。
刹希は仕方ないと言わんばかりに土方に言った。

「ここの桜なんてどこも同じですよ。大体席取りなんて早い者勝ちですし、せっかくの花見なんですからそうカリカリするもんじゃないですよ」
「そーそー、花見にまで喧嘩なんてやってらんねーよ。桜なんざどこで見たって同じさ」
「同じじゃねぇ、そこから見える桜は特別なんだよ、なァ、みんな?」

余程銀時に負けたくないのか土方はそう言って後ろにいた仲間に同意を求めた。
発言にはかなり無理がある。
後ろの男たちはうんざりした表情で皆同じようなことを述べた。

「別に俺達ゃ、酒飲めりゃどこでもいいッスわ〜」
「アスファルトの上だろーとどこだろーと構いませんぜ。酒のためならアスファルトに咲く花のよーになれますぜ!」
「うるせェェ!!ホントは俺もどーでもいーんだが、コイツのために場所変更しなきゃならねーのが気にくわねー!!」

そう土方は寝転がって変な顔でくつろぐ銀時を指差した。
まあ確かにこのムカつく顔をした奴に妥協はしたくないだろう。気持ちは分からなくもない。

「大体山崎場所取りにいかせたはずだろ……どこいった、アイツ?」
「ミントンやってますぜ、ミントン」
「山崎ィィィ!!」
「ギャアアアア!!」
「平和な花見はどこへやら」
「花見は騒いで何ぼですぜイ、刹希さん」

酒瓶を持った沖田がにやにや笑いながら近づいてきた。
君未成年だよね、なんて野暮なツッコミはしないでおいた。今日は花見なのだから。

「酷いですね、俺たちの誘いは断ってそっちで楽しむなんて」
「今年は生憎新八君が先約だったからね」

嘘である。

「でも毎年毎年断られちゃァこっちだって傷ついちまう」
「ごめんね、総悟くん。でもま、桜は家から見えるからなぁ」

遠くからだが、綺麗な桜は万事屋から見える。
春は銀時とそれを時折眺めながら日常を過ごしているのだ。やはり二人で花見も味気なくて、こうしてしっかりとした花見は久しぶりなのである。

「てか横で花見すれば一件落着なんじゃないの?」
「男同士のいざこざはそんな簡単に収められないんでさァ」
「男ってつくづく面倒だね」


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