陀絡の後姿を睨み付けていた刹希は周囲を見回した。
何か、枷を壊すことが出来る物はないか、足だけでも外さないとまともに移動ができない。
だが、その部屋は小さな部屋で引き出しのない机と椅子、ベッドしかない。
とりあえず、刹希は机の方に移動して腕にある枷を何度か机の角にぶつけてみるが、やはり何の意味もない。
ただ自分の体力を消費するだけだった。
「はぁ……っ、はぁ……っ、気持ち悪」
薬が効き始めているのだろうか、視界が歪んでくる……というのもあるが慣れない物を体内に入れて体が拒絶反応を起こしているようだった。
刹希は息を荒くしながら椅子に座り、鈍る思考で考えた。
どうやってここから出るべきか、どう新八と神楽を助けるべきか、どうこの状態を打開できるのか。
「……とりあえず……頭スッキリさせないと」
そこからは何も始まらない。
視界がぼやけている中でなんとか壁を前に立った。
何やら外が騒がしくなっている気がしなくもないが、そんなこと深く考えている暇もない。
「はぁーーー」
深く長く息を吐いて刹希は目の前の壁を睨み付けた。
そして躊躇なく、勢いよく、壁に頭突きをかましたのだ。
そこに新八がいれば、あんた何やってんのォォ!?とかツッコまれるだろう。いないけど。
ドン、ガン、バキ、頭突きだけでよく分からない効果音が出てきている気がしなくもないが、刹希は何度かそれを繰り返してからようやく動きを止めた。
額……というか頭部から血が垂れてきている。
どう考えてもやりすぎだ、またもや新八が色々突っ込んできそうな光景である。
「……違う意味で頭痛い」
当たり前だよ。
当然のことに頭が回らない辺り、二日酔いがまだ残っているのか、薬のせいなのか、ただ単に刹希が抜けているのか……。
手も塞がってしまったいるので刹希は血が流れている状態でなんとか立ち上がった。
両手足自由が利かないせいで立っても不安定だ。
正直こんな状態知り合いには見られたくない。特に銀時とか総悟とか。
刹希はため息をつきながらぴょんぴょんジャンプして入り口に向かう。
自動で開いた扉の向こう側。さてどうしようか、と通路に顔を出した瞬間だった。
ドガァン!
いきなり通路に爆風が通り抜けて行った。
「……」
刹希はそれを目の前にして、とりあえず数歩下がって壁に隠れた。
(……ていうか何今のォォォ!!誰だ爆弾なんて爆発させた奴!!ちょっとびっくりしちゃったよ!?)
肩で冷汗を拭く、ついでに滴ってくる鮮血も拭く。
外では天人が何事かと騒ぎだしているし、怒号が飛び交っている。
「捕らえろ!!」
「待て桂ァァ!!」
「逃がすなアア!」
「……ん?」
今、何か聞き覚えのある名前が聞こえた気が。
いやいや聞き間違いだ。まさかあれがここにいるわけないもん、ここ天人しかいないもん。
「桂はどこいった!?」
「こっちに桂がいたぞ!!」
「待て桂小太郎ォォ!!」
「やっぱり小太郎だよ!!!!!なんでいるの!?」
思わず外に転ぶ勢いで出て見れば、ドンと誰かとぶつかる。
「痛!」
「あ、これは失礼した。怪我はないですか?」
「……てか、あんた誰」
「誰じゃないキャプテンカツーラだ!!」
「ただの小太郎じゃない!!」
「小太郎じゃないキャプテンカツーラだ!!」
変な眼帯をして海賊船長みたいな恰好をしている小太郎にうるせー!と頭突きをお見舞いした。
変な格好までして春雨の船にいるなんて馬鹿なの?アホなの?あ、前からアホだった、などと考えながら刹希は先ほど自分のいた部屋に小太郎を無理矢理押し込んだ。
まさかこんな所で出会えるとは思わなかった。でも、これはこれで助かったのかもしれない。
「刹希何をするんだ!」
「し!」
騒ぎだそうとする小太郎に再度顔面に頭突きをかまして黙らせる。
そして一時的に再起不能になる小太郎。
外では桂を探す天人が今し方走って行ったところだった。
静けさを取り戻したことを確認して、刹希は小太郎に声をかけた。
「この騒ぎはもしかしなくても小太郎がやったの?」
「まあな、春雨が麻薬を売買しているのを嗅ぎつけてな」
「そうなの。というか、あんたらの変な調査のせいでこっちはスゴイ被害受けたんですけどね!」
「というか、刹希。その顔はどうしたんだ!血が出ているぞ!」
「というか、小太郎この枷外してくれない?」
小太郎のおかげでやっと自由になった手で、刹希は自分の着物を破いて包帯代わりに頭に巻いた。
「大丈夫か?刹希」
「ああ、大丈夫じゃない。さっきよく分からない薬飲まされた」
「なんだと!?大丈夫なのか!刹希!!」
「だから大丈夫じゃねェっつってんでしょーが!!」
自由になった手で小太郎にチョップをお見舞いする。
はぁ、と溜息をつきながら刹希は外の様子を窺った。
「まあ確かにやばいんだろうけど、今は頭スッキリしてるから大丈夫」
「そうか、それならいいのだが」
ツッコミがいないって本当に恐ろしい事である。
刹希がツッコミを放棄するとこの場においてのツッコミがいなくなってしまうのだ。
この場に銀時か新八がいればよかったのだが。
「そうだ刹希、銀時もこの中にいるぞ」
「は!?」
いきなりの発言に刹希は驚いて小太郎を見た。
確か銀時は陀絡に窓から突き落とされて、軽い怪我では済まないはずだそう簡単に動けるだろうか。
(いや、銀時なら動けるだろうけど……)
そんな事よりも銀時と小太郎がなぜ一緒にいたのかということだ。
それを聞けば銀時を見つけたのが桂の部下だという、納得いく話だ。
「それじゃ銀時は?」
「銀時は外を見ているはずだが」
「分かった。じゃ、小太郎はココよろしくね」
そういうと、刹希は部屋から出ると大声で言った。
「桂がここにいるぞォォオオオ!!」
「ちょ、刹希さんんん!?」
「時間稼ぎ頼んだね」
「桂ァァ!どこだァァ!」
「あ、こっちでーす」
「お、俺は桂じゃない!キャプテンカツーラだ!」
「それもう桂だから!」
続々集まってくる天人をすり抜けながら刹希は外へ向かう。
後方で叫び声を上げる小太郎に心の中で両手を合わせた。