A
血を流しながらもだえる天人。
神楽は目の前の天人に素早くパンチを食らわして刹希の横に戻った。

「捕まったらもう帰れないでしょう?簡単に捕まるわけにはいかないよ」
「この女……」
「あぁ!この女!!」

小刀を構えて、戦闘態勢に入る刹希と天人たちの中で、一つ飛びぬけた声を出す奴がいた。
その天人に全員の視線が向けられた。

「お前は、あの時の……“血染めの椿”じゃねーかァァ」
「なんだ?その“血染めの椿”ってのは」

天人側からその名を呼ばれたのは久方振りである。
知っているのは人間くらいかと思っていたが、天人でも知っている輩がいたとは。相手にした天人は全て殺したと思っていた。

「この星で戦争があった時、女でありながら俺達天人を次々殺していったやつだ」
「そんな紹介の仕方してくれなくてもいいのに」

そう薄ら笑いを浮かべる刹希。

「刹希さん……」
「お前のせいで、俺は死ぬかと思ったんだ!」

そういって天人は首に巻いていた布を取って見せると、そこには見事な切り傷が横一文字で付けられていた。
赤赤としているそれは手術の跡で、ことの大きさを知らしめる。

「ようやくお前に復讐できる日が来たぜ!」
「……あの、息巻いてるところ悪いけど、私はアンタのこと知らないんだけど」
「なっ」

戦場に出ていた時期は短いが、それでもかなりの天人を殺してきた。
いちいち顔を覚えているわけでもない。
ましてや、死んで行く奴らの顔など忘れるように教え込まれた刹希には、もう覚えるなんて無理な話だ。
そんな刹希の姿を見ていた新八は、どこか異常者のような存在に見えた。
いつもの穏やかな雰囲気とは違う、得物を狩る猛獣のようなピリピリとした雰囲気。
それは普段の刹希ではない、新八が知らない、別の顔の刹希だ。

「せっかく死なずに済んだんだから、その命は大切にとっておくべきよ」
「ふ、ふざけんなァァァ!!」

単身、天人は刹希に切り込んで行った。
剣を大きく振りかぶって、刹希に斬りかかってくる。
しかし、刹希はそれを小刀で下から払い上げた後、素早く持ち替えて天人の首に突き刺した。
鮮やかな無駄のない動きで、一瞬誰も動けなかった。
刹希は天人を向こう側へ押しやり、新八たちの方へ向き直った。

「ここは私に任せて先に外へ行きなさい」
「……っで、でも!」

一瞬、呆然としていた新八だったが、刹希の言葉を理解して慌てた。
いくら刹希が強いと分かっていても、この人数を相手に一人、置いて行くわけにはいかなかった。
ましてや、今の彼女は二日酔いで通常より動けるかどうか。

「駄々こねない。神楽、新八のこと宜しくね」
「任せるヨロシ」
「ちょっと、神楽ちゃん!」

神楽が新八を担ぎ上げて行くのを視界の端で捉えながら、刹希は行く手を阻むように通路に立った。
こんな役目を担うなんて初めてかもしれない、などと頭の隅で別のことを考える。

「くそっ、ガキ共を追えェ!」
「まあまあ、そう急がない……の!」

通り抜けようとした天人をクナイで急所を一突きし、倒していく。

「血染めの椿の名に懸けて、ここを通しはしない……って、言えばいいかな?」
「くそっ、他の奴らにも連絡しろ!桂の手先だァ!」
「……」

なるほど、嗅ぎ回っているという人物は小太郎の組織らしい。
また小太郎のおかげで要らぬ事件に巻き込まれたらしい、これは後できっちり叱らないといけないようだ。

「手がかかる」
「女を捕まえろ!」

一人の声で一斉に銃や剣等の武器を構えて襲ってくる。
さすがにクナイと小刀だけでは抑えるのもつらいものがある。
襲いかかってくる天人を数体倒しているが、これはこっちの体力が持つかどうか微妙なところだ。

「ちっ」

仕方なしに一旦身を引いた刹希は、人気ない狭い場所へと足を向けた。
狭い通路なら相手をする数も決められてくる。なんとか、なればいいのだが……。

「刹希!!」
「!銀時!?」

通路を走って行こうとした瞬間、聞き覚えのある声が自分の名を呼んだ。
足を止めてそちらを見ると銀時が天人に囲まれていた。
すぐに走って行き天人を倒しながら、銀時の横へ着いた。

「あれ?その背中の子はハム子?」
「この娘、厄介なものに手ェ出してたらしい」
「やっぱり……」

ハム子の顔はハム男と同じように生気のない顔をしていた。
事態は最悪だ。天人に囲まれて、ハム子を抱えながらこの場を切り抜けるのは厳しい。
とりあえず、ここは銀時にハム子を任せて先に行かせるしかなさそうだ。
刹希ではハム子を担いで逃げるとこは難しい。

「銀時、そのままハム子担いで先に行って」
「馬鹿言ってんじゃねーよ。刹希1人置いて、俺だけ逃げるわけねェだろ」

そう笑って見せる銀時にそれもそうだ、と刹希もつられて微笑む。
だがそうとなれば、協力してこの場を打破しなければならない。
力押しだけで行けるだろうか……、いややろうと思えば行けるはずだ。

「オラッ、ちゃちゃっと歩かんかイ!!」
「!?」
「新八!?神楽!!」

刹希と銀時を取り囲んでいる天人たちの奥を見ると、新八と神楽が連れて行かれていた。
刹希はすぐさま声をかけたが、全く反応がない。
その反応と、新八の座った目とフラフラの足取りからして……。

(麻薬でも嗅がされたのか……!?)
「オイ!どーしたんだ!?……てめーらァァ!!何しやがった!!」

新八と神楽を助けに行こうとした銀時だったが、天人に抑え込まれてしまう。

「銀時っ!」

すぐに助けに行こうとした瞬間だった。

「お前、目障りだよ……」

刹希の隣をすり抜けていったそいつは躊躇なく銀時に刃を向けた。

「ぎ、銀時ィィィィ!!」

ハム子を抱えたままの銀時ではいくらなんでも不利だ。
銀時を攻めていく天人は、先ほど新八にぶつかっていた天人だった。
何度か攻めた末、壁に追い詰められた銀時は天人に肩を貫かれてそのまま窓から落ちていった。
すぐさま助けに行こうと走り出すが、それを天人たちが阻んでくる。

「くっ」
「さっきの女じゃねェか」

血の付いた剣を刃に納めた天人が刹希の前に立った。
いくら銀時がハム子を背負って不利だったとしてもあれだけ追いつめる腕があるのだ、気は抜けない。

「どーも」
「陀絡さん、この女“血染めの椿”って言って戦争で天人をかなり殺した強者らしいです」
「……なんだァ?その馬鹿らしい噂は」
「さっきも仲間が数人殺されやして」

陀絡と呼ばれた天人は部下の言葉を聞いて、刹希を品定めするように見た。
その目はあまり好きじゃない。
黙っているのも癪で、刹希は噛みつくように言った。

「じろじろ見るなら金取るけど」
「ハッ、威勢がいいじゃねぇか。……無傷で捕らえろよ」

陀絡はそういって、新八と神楽が消えた通路の先を進んでいく。

「っ!待て!!」
「おっと、てめーの相手はこっちだァ」

嬉々とした表情で天人たちが刹希を取り囲んで一斉に襲いかかってくる。

「ぐっ……この!」

押さえつけられながら蹴りと小刀で抵抗するが、この数と力の差は大きい。
どんなに剣の力量があれど、女という壁は簡単には越えられないのか……。

「大人しくしやがれ!」
「――うぁっ」

後頭部に衝撃が走った。
視界が霞んで、頭の痛みに耐えられない。
どんどん力が入らなくなり、最終的に刹希は意識を手放した。

「さっさと運べ」

ぐったりと動かなくなった刹希を担ぎ上げて、天人たちは移動し始めるのだった。





2013.10.17


(あとがき)
ヒロインのキャラが崩れている気がしなくもないですが、まああれです、全ては二日酔いのせいだと思ってください(((オイ


prev next

bkm
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -