B
「良いんですかィ?土方さん行かせて」
「うーん、まぁ心配はしてないけど……」

あの二人ってなんか似てるところあるから会わせるの嫌だったんだよね、と苦笑を浮かべながら刹希は言った。
銀時と再会するまでは、土方と接していると稀に銀時を思い出す時があった。
そんな数年前のことに苦笑してしまう。

「あの人、強いんですかィ?」
「ん?強いと思うよ。伊達に腰に木刀さしてないからね」
「あの人とも手合せしてェが、俺は刹希さんとも手合せしたいもんですぜ」

その挑発的な視線を浴びながら、刹希は苦笑しながら梯子に手をかけた。

「私は総悟くんみたいに武士道に生きてないから相手にもならないよ。残念でした」
「俺の目にはそう≠ヘ見えないですけどね」
「……そう≠セよ。私と総悟くんは違うよ」

真選組とも銀時達ともね……という言葉を呑み込んだ刹希は、じゃぁねと手を振って屋根の上に上って行った。



  *



梯子を上るとそこには銀時と土方の姿は見えず、刹希は早足で自分のいる反対側の屋根を見に行く。
案の定、土方と銀時は向かい合っていた。
土方は刀身を輝かせながら銀時に歩み寄っているところだった。
銀時を見れば総悟の刀を持っていたが、やはり抜刀はしていなかった。

「刹希ちゃん、銀さんちゃんとやってるかい?」
「あ、はーい!バッチリです。ここは任せてください」

親仁さんにそういって追っ払う。
土方は斬ると言った、その言葉は本気なのだろう。
近藤さんは彼や真選組にとって大切な存在なのを刹希は良く知っている。
銀時が簡単に斬られるとも思えないが、互いに強いからこそ周りに被害が及ばないとも限らないのだ。

「叩き斬るのみよォォ!!」

瓦屋根を蹴って、土方は銀時に刀を振り下ろした。
振り下ろされたそれは瓦を壊してしまう破壊力だった。

「なんでそんな事になるの!てか、それ誰が直すと思ってんの!!?」

銀時の無事よりも屋根の修理をどうしようかと刹希は頭を抱えた。

「刃物プラプラふり回すんじゃねェェ!!」

一方の銀時は、煙が立ち込めている中で土方の背後に回り飛び蹴りを繰り出していた。
蹴りは見事に土方の後頭部に直撃して、土方はそのまま前のめりに体勢を崩す。
たが、彼の表情はしめたといった感じで、笑みを浮かべていた。
刹那、土方は右手に持っていた抜き身の刀で銀時を斬りつけた。

「!!」
「!ぎ」

後方へ倒れた銀時に駆け寄ろうかと思ったが、ぐっとそこは堪えた。
左肩を押さえていることから、どうやら斬られたのは肩だけなようでひとまず肩を下ろした。

「銀さーん!てめっ、遊んでたらギャラ払わねーぞ!!」
「うるせェ、ハゲェェェ!!警察呼べ警察!!」
「銀時、警察なら目の前にいるから!」
「あ……そうだった。世も末だなオイ」
「ククク、そーだな」

世間話のような会話をしながらお互い立ち上がる。
銀時は傷口に手ぬぐいを当てた。一方の土方は銀時の出方を見るように動くことなく彼を見ていた。
すると銀時は総悟の刀の柄に手を伸ばし、引き抜いた。
それに微笑を浮かべた土方が待っていたとばかりに襲いかかって行った。

「おらァァァァァ!!」

刃が垂直に銀時を切り裂いた……そう見えたが、斬れたのは手ぬぐいだった。
目にも止まらぬ速さで移動した銀時は、土方の横に回り刀を振り上げて――。


「はァい、終了ォ」


気の抜けるような銀時の声がそこに落ちた。
土方の愛刀は、銀時の一太刀で綺麗に折られていた。
自身を斬るのでなく、刀を折られたことが余程信じられないのか土方は怪訝そうな表情をしていた。

「いだだ……おいハゲェェ!!俺ちょっと病院行ってくるわ!!」
「待てェ!!」

早々に退場しようとした銀時を土方は呼び止めた。

「……てめぇ、情けでもかけたつもりか」
「情けだァ?そんなもんお前にかける位ならご飯にかけるわ。――喧嘩ってのはよォ、何かを護るためにやるもんだろうが。お前が真選組を護ろうとしたようによ」
「……護るって、お前は何護ったってんだ?」
「俺の武士道だ……て刹希、今の俺カッコ良くない!?」

ぱっと刹希の方を振り返ると、ドヤ顔で親指を立ててくる。
ほんの少しだけしんみりしていた心境が一気に絶対零度地点まで急降下していく。
冷笑を浮かべながら言った。

「うん、最後の台詞が無かったら小指一本分くらいかっこよかったかもね」
「小指一本分って小さくない?せめて人差し指くらい……」
「小指も人差し指も変わらないよ!その差ってなんなの!!」

決して原作はこんなグダグダ振りではないのだが、転べばどんどん転んでいくということである。
付き合ってられないと刹希は先に屋根を下りて行こうとする。
それに慌てて銀時もついて行く。なんだが、お母さんと大きい子供のような図だ。

「全く怪我なんかして余計金掛かるよ……自力で治せないの?」
「ちょっとくらい心配してくれてもいいんじゃない!?」
「なんで私が。心配するのは日々の生活費だけにさせてよ」
「昔は小さい傷一つで泣きそうなくらい心配してくれたっていうのによォ」
「ちょ、微妙に過去捏造するのやめてよ!」
「い゛っ」

刹希の幼いころを真似て台詞を言いだす銀時に、思いっきり傷を負った左肩を叩く刹希。
悲鳴にも似た声を上げる銀時を心配する人などいないだろう。
一言、自業自得だよと言われるのが落ちであった。





(おまけ)
「そうだ」

思いだしたように足を止めた刹希は、銀時に先に行くように伝えてきた道を戻る。
先ほどまでいた屋根の上には、やはり土方がまだいた。

「――行ったんじゃなかったのか?」
「用事を思い出したんですよ」

刹希は手に持っていたものを土方に差し出した。
それは屋根に上がる前に、親仁さんからもらった紙だ。

「土方さんがぶっ壊した屋根の修理費……しっかり払ってくださいね?」

満面の笑みで言えば、顔を真っ青にする土方十四郎。

「なんで俺がわざわざ」
「大体、こちらは仕事をしていたわけですからね。刀を向けてきたのはそっちですよ?これって業務妨害ですよね」

こちらは至って真面目に仕事をしていたのだ。
警察だろうとなんだろうと妨害は妨害だ。

「むしろ、修理費だけで済んでよかったじゃないですか。銀時の治療費請求してない分、今回の私は優しいですよォ」

その請求書をひらひらと仰ぎながら笑顔で言う彼女はまさしく悪徳業者のようであったとか。





2013.9.17


(あとがき)
今回はオリジナル要素が強かったですかね。
1話2話あたりの刹希だと、本気で慰謝料は求めていた気がします。そういう子なんです。


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