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それは前回、銀時が近藤に卑怯な手で決闘に勝った数日後のことである。

「なんでも、近藤さんが喧嘩で負けたらしーでさァ」
「オイ、総悟、あんまその話触れ回すんじゃねェよ」

刹希のバイト先の「あじさい」に土方と沖田がやってきた。
いつも斬るや死ねと言い合いしている二人が仲良く揃って来るのは珍しい。

『珍しいツーショットですね、デートですか?』

と冗談で言えば、彼らは揃って嫌そうな表情を浮かべた。

『んなわけねーだろ、気色の悪い事言うんじゃねェよ!仕事だ仕事』
『刹希さん、言って良い冗談と悪い冗談がありまさァ。土方コノヤローとデートなんてまっぴらですぜ』
『俺だって、デートならまず女選ぶわ』
『土方とデートして地獄行くより、刹希さんと地獄でデートする方が俺は大歓迎ですぜ。土方死ね』
『てめーが死ね。総悟は一人で地獄旅行でもしてやがれ』
『それじゃ、席はあちらの窓側でお願いしますねー。店だけは壊さないでくださいよ』

悲しいくらいにこの二人の対応に馴れた刹希は、空いている席に座るよう促す。
言い合いながらも、各々料理を注文したあと、総悟が刹希を呼び止めて冒頭の話をし始めたのだ。

「しかも汚い手で負けたらしいですぜ」
「……総悟君、それ面白がってるよね」
「とんでもねぇ!俺が面白がってんのは土方さんいじるとこだけでさァ」
「なーに真剣な顔して言ってんだ!!ちったぁ仕事しやがれ!!」

そんな二人のやり取りを聞きながら、内心はやっぱり近藤の件が二人の耳にまで入っていることについて気がかりだった。
気がかりと言うほどでもない、自分は関係ないし。
しかし、銀時が当事者ということも近いうちにばれそうだ。
なんせ、池田屋の件で銀時と真選組は面識があるのだから。

「銀髪の侍だったらしい。綾野、知ってるか?」
「いえ、特には知りませんけど」
「……ていうか、お前知り合いにいるだろ。池田屋の時の……」
「あれは万年半ニートですよ。あれを侍と私は認めません」
「ああ、そうかよ」

にっこりと黒いものを背後に漂わせて言えば、土方は引いてくれた。
やー、危ない。危うくばれるところだった。
変な汗を掻きながら、刹希はカウンターに戻る。
というか、銀時を庇う必要性は皆無なのだが(実際に勝った手口は汚いものだったし)、でも、そこは幼馴染として庇いたくなるのだろうか。
理屈じゃないんだろうな、と刹希は思った。

店長から料理を受け取って、再度土方達のいるテーブルへ向かう。
相も変わらず、料理にマヨネーズをこれでもかという程かける土方にもはや何も言うまい。

「まあ、本人が好きなら良いんですけどね……」
「せっかくの料理が台なしでさァ」

土方はマヨネーズと化したそれを黙々と食べ始めた。
自分の事を言われているのかわかっていないのか、言われ慣れて無視しているのか……。
多分、前者だろう。
せっかく店長が美味しく作った料理がマヨネーズまみれになるなんて、刹希的には涙ものだ。
最初こそ、驚愕のあまり顔を蒼白させたが、慣れとは恐ろしい。
もう気持ち悪さよりも虚無感が勝っている。
本人が好きなら良いんだよ、と無理矢理ながらに納得させている。
が、やはり、将来彼に嫁ぐ女性は地味に苦悩するのだろうか……美味しいの意味が自分の料理なのか、マヨネーズなのかで。

(というか、なんでマヨネーズだけでこんなに字数使わなくちゃならないの……?)

無駄な思考を振り払い、話を近藤の件に戻した。

「そういえば、ここに来たのは仕事とか言ってませんでした?」
「ああ、あいつら、これ持ってきただろ」

あいつらというのは、真選組隊士のことだ。
土方は懐から一枚の紙を取り出して刹希に見せた。
その紙には書きなぐったような字体で書かれていた。

――白髪の侍へ!!

   てめェコノヤロー
   すぐに真選組屯所に
   出頭してこいコラ!
   一族根絶やしにすんぞ

         真選組――

これで出てきたらそいつは単なる馬鹿だろうな、と刹希は常々思っていた。

「それなら、この前貼って欲しいって持ってきましたよ」

ほらあそこに、と扉の横に貼ってある紙を指差した。

「総悟、剥がしてこい」
「へーい」

土方は浅く溜め息をついて、剥がしてくるように総悟に指示した。
立ち上がった総悟は素直に返事をして、容赦無く紙を引っぺがす。

「ソレ至るところに貼ってあるよね?」
「ええ、近藤さんの敵だとか息巻いてます」

万事屋からあじさいまでの道にはその紙が点々と貼ってあった。
口には出さないが、銀時も知っているのかもしれない。
……いや、近藤が真選組関係者だとわかっていない時点でそれはありえないか。

「大変ですね、土方さんも」
「まあな」

あっという間にマヨネーズのそれを食べ終えた土方は一つ息をつく。

「近い内にその侍は俺が斬る。隊士どもが事をでかくする前にな」
「……もう十分でかくなってると思いますけど」
「だから、適当に白髪侍見繕えば良いってことでしょ」
「いや、それもどうなのよ」

一般市民を犠牲にしてはいけないだろう。
お前ら本当に警察か、と問いたくなる。

「斬るのは別に止めませんけど、関係ない人巻き込んだらダメですよ」
「巻きこまねェよ。その口ぶりじゃ良く巻き込んでるみたいじゃねェか」
「巻き込んでるっていうか、街に被害が及んでます」

主に総悟のぶっ放すバズーカのせいで。
その部分は口には出さなかったが、多分土方は察してくれただろう。
代わりに、それはコイツに言え、と総悟を煙草を持った手で指しながら文句を垂れた。

「じゃぁ、俺達はこれで。刹希さんも白髪の侍見つけたら教えてくだせェ」
「考えとくよ、総悟くん」
「考えとくってなんだよ、ちゃんと通報しろ」
「通報は違うと思うんですが」
「近藤さんが被害に遭ったんだ。合ってんだろ」
「まあ……そうですね」

いまいち納得できないでいるが、話をだらだら伸ばすのも無意味なので肯定しておく。
金を払って店を出て行った二人は、きっと見回りをしながらあの紙を剥がしに回るのだろう。
刹希は息を吐いて、接客に戻った。


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