B
決闘をするにあたって、やはり場所を変えることとなった一同は、河原に来ていた。
刹希、神楽、志村姉弟は橋の上から、河原で銀時を待っている近藤を見下ろしていた。
小さくあくびを掻いていた刹希の横で、お妙は逆に心配そうな表情をしていた。

「よけいなウソつかなきゃよかったわ。なんだか、かえって大変な状況になってる気が……」
「まあ、ある意味これで銀時が勝てば、ちょっとはストーカー被害収まるんじゃない?」

軽く笑い飛ばす程度に言うも、お妙は心配げだった。

「でも、あの人多分強い……決闘を前にあの落ち着きぶりは何度も死線をくぐり抜けてきた証拠よ」
「心配いらないヨ。銀ちゃんピンチの時は私の傘が火を吹くネ」
「なんなのこの娘は」
「大食い娘だよ」

番傘でいつでも援護可能といった感じの神楽。

刹希は近藤をちらりと見て笑った。
確かに彼はとても強い。
ここにいる三人は知らないが、真選組局長という充分に実力を持っている男……お妙の予想は当たっている。
でも、死線をくぐり抜けてきたというのなら、銀時だって負けないだろう。

「まあ、大丈夫だよ。銀時はそんな柔な男でもないし、それに、こんなことで血なんか流す必要ないからね」
「……確かにそうですけど」
「おいッ!!アイツはどーした!?」

そういえば、ここに着てからどれだけ時間がたっただろうか。
未だに姿を見せない銀時に、近藤は痺れをきたしたのか刹希達に問いかけた。

「確かに遅いですよね……銀さん」
「銀時なら厠行きましたよー」

最後に銀時と会話をしたのは刹希だ。

『んじゃ、俺は厠行ってくるから先行っててくれや』

そう言って厠へ行く銀時を呆れた顔で刹希は見送っていた。
これから起こることなんて予想できるし、ただの笑い話だ。
横にいる三人には悪いが、銀時を心配しようなんて微塵も思わないのだ。

そんなことを考えていると、やっと銀時が現れた。

「来たっ!!遅いぞ、大の方か!!」
「ヒーローが大なんてするわけねーだろ、糖の方だ」
「糖尿に侵されたヒーローなんてきいたことねーよ!!」

挨拶程度の会話を済ませて、ようやく銀時と近藤は真剣な表情へと変える。

「獲物はどーする?真剣が使いたければ貸すぞ。お前の好きにしろ」
「俺ァ、木刀(コイツ)で充分だ。このまま闘(や)ろうや」
「なめてるのか貴様」
「ワリーが人の人生賭けて勝負できる程、大層な人間じゃないんでね。代わりと言っちゃ何だが、俺の命を賭けよう。お妙の代わりに俺の命を賭ける。てめーが勝ってもお妙はお前のモンにならねーが、邪魔な俺は消える。後は口説くなりなんなり好きにすりゃいい。勿論、俺が勝ったらお妙からは手ェ引いてもらう」
「ちょっ、止めなさい!!銀さん!!刹希さんも何か言ってください!」
「まあまあ、落ち着いてお妙」

お妙を宥めながら、視線は近藤へ向ける。
さあ、どう出るだろうか。

「い〜男だなお前。お妙さんがほれるはずだ。いや……女子より男にもてる男と見た」

近藤は手に持っていた刀を地面に置くと橋の上にいる刹希達に顔を向けた。

「小僧、お前の木刀を貸せ」

どうやら、近藤も銀時と同じように木刀で闘うつもりのようだ。
すると、銀時は自分の持っていた木刀を近藤に投げた。

「てめーもいい男じゃねーか。使えよ、俺の自慢の愛刀だ」
「ぶっ」
「ちょっと刹希さん!」
「ご、ごめ……き、気にしないでっ!も、ダメっ」

銀時の台詞で察しがついてしまった刹希は盛大に噴出す始末だ。
そういえば、昔のこんなことあったようななかったような、なんて思い出しながら、新八の木刀を受け取った銀時を見守る。

そして、木刀を構える二人――

「いざ!!」
「尋常に」
「「勝負!!」」

同時に間合いを詰めた二人。
思いっきり木刀を振り上げた近藤は、振り下ろしたそれを見て驚愕する。

「あれ?あれェェェェェェ!?」

見てば木刀が持っている少し上からなくなっている。

「ちょっと待って、先っちょが……」

待ったをかけても容赦なく銀時は襲ってきた。
そして、思いっきり振った木刀は近藤に吸い込まれるように

「ねェェェェェェェェェェェェェ!!」

入ったのだった。

思いっきり地面を滑っていく近藤。
あららと苦笑いしている刹希の横で、新八と神楽は大人気ない大人を見る目をしていた。

「甘ェ……。天津甘栗より甘ェ」

その顔はまさに邪道である。

「敵から獲物借りるなんざよォ〜。刹希から借りたクナイで削っといた、ブン回しただけで折れるぐらいにな」

そうだ、近藤が決闘を申し込んで店を出るときに、刹希は銀時に呼び止められた。

『何、銀時』
『お前クナイとか持ってんだろ、貸して』
『……嫌な予感しかしないんだけど』
『まァまァ、丸くおさめる手だよコレも』
『近藤さん可哀想だよ』

そういいながらも普通に袂からクナイを渡す刹希。

『んじゃ、俺は厠行ってくるから先行っててくれや』

というわけである。

「貴様ァ、そこまでやるか!」
「こんなことのために誰かが何かを失うのはバカげてるぜ。全て丸くおさめるにゃ、コイツが一番だろ」
「コレ……丸いか?……」

近藤はそこで気を失った。
刹希はご愁傷様ですと手を合わせて、一番失望しているであろう新八と神楽を見た。

「刹希さん、分かってたんですね」
「まあね。銀時ってそういう男だから」

欄干から銀時に向かって飛び降りた新八と神楽。
二人にボロボロにされている銀時を眺めながら、笑みを漏らす。

「肝心なことは素直に口に出せないんだから。本当に不器用だよね、銀時って」

そう笑い飛ばしながらお妙と別れて、橋の下にいる銀時の元へ向かう。
ダメ父のような形で子供二人に完全に愛想つかされる銀時。
そんな銀時に刹希はしゃがんで声をかける。

「お疲れ様、銀時君」
「……なんでこんな惨めな気分なの?俺」
「大丈夫だよ。私ちゃんと分かってるから」
「……やっぱ俺には刹希だわ」
「抱きつくな、刺すよ」
「もう刺してます……刹希さん」

腰に抱き着こうとしてきた銀時に得物を突き刺す。
頭からダラダラと血を流していた。
刹希は立ち上がって、銀時を立ち上がらせる。

「クナイ返してください」
「へいへい、ありがとよ」
「どーいたしまして」

再びクナイを袂に収めて、ちらりと近藤を見た。
完全に伸びきっている彼は、騒ぎを聞きつけた真選組の誰かが保護してくれるだろう。
問題なのはその後だろうな、とぼんやり考える。
局長が負けたとあれば、隊士達がおとなしくしてくれるとも思えないからだ。

「大変だね、銀時」
「え?何が?」
「ううん、なんでもないよ」

とりあえず、知られるまでは他人の振りをしていようと刹希は思うのだった。





2013.9.17




(あとがき)
この話は書いていて楽しいですね。
ところで、刹希は普通にお妙よりも年上なのですが、近藤さんは刹希をちゃん付けするのってどーなのよ、とか思いました。書き終わってから。
いやもう気にしない方向でやりますけども。
きっと刹希は友達みたいな関係だからちゃん付けなんでしょう!うん!


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