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「よかったじゃねーか、嫁のもらい手があってよォ」

パフェを食べながら銀時は何気なく言う。
銀時と神楽の間に座っていた刹希は、表情に出さないながらも、内心引き攣っていた。
話を聞けば、何やら近藤の話と類似している点があるではないか。
いやいや、まさかね。
それはないよ、と間違いであって欲しいと祈るばかりだ。

「帯刀してたってこたァ、幕臣かなんかか?」
「それじゃ、お妙玉の輿だよ!」
「本性がバレないうちに籍入れとけ、籍!」
「それどーゆー意味」
「バカ銀時」

いらない一言で、お妙に頭を掴まれてパフェごと机に頭を打ち付けられる銀時。
刹希は刹希で、近藤の恋は実らないだろうが、フォローを入れてみる。
多分……というか、全く効果は無いのだろうが。

「最初はね、そのうち諦めるだろうと思ってたいして気にしてなかったんだけど……」

お妙によると、近藤は行く先々で出没して、結婚してくれとアプローチしてくるらしい。
さすがにお妙もそれが常となってきているのに気がついたようだ。

「ああ、異常なんだって……」
(近藤さん……それストーカーですよ)

刹希は冷や汗をかきながら思う。
頑張ってとは言ったが、そういう方法ではない。
彼の頑張る方向性は完璧に過っている。
というか、彼の恋愛に対する姿勢はそれが正しいものなのだろうか……。

「ハイ、あと三十秒」

刹希が考えている横で、店のおやじさんがカウントを始める。
え、何をやっているのかって?
ジャンボラーメンを三分以内に食べられたら食事代無料と聞いたから、神楽に腹いっぱい食べさせているのだ。

「ハイハイ、ラストスパート。噛まないで飲みこめ神楽」
「頑張って神楽!今日は金持ってきてないからね」
「きーてんのアンタら!!」
「少なくとも私は聞いてるよ!!」

怒る新八に刹希は憤慨してしまう。

「まるで俺が話聞かない男みたいじゃん。刹希」
「何、なにか間違ってた?」
「間違いだらけだからね、銀さんは皆の話ちゃんと聞いてるから」
「それじゃ昨日、私が銀時に頼んだことはなんだった?」

さすがに昨日の今日で忘れるはずないのだが。
言ったとき、銀時は生返事だったからかなり怪しい。
少しの間が開いて銀時は口を開く。

「ジャンプ出しとけって言ってなかった?」
「違うよ!!ホント……もう、ホント!私は銀時をそんな子に育てた覚えはありません!」
「刹希に育てられた覚えもないけどな!!」
「生ごみ出しておいてねって言ったの!」
「あ、生ごみ僕が出しときました」
「新八ありがとう。新八はこんな半ニートに育っちゃダメだよ」
「俺は悪い例か、オイ!!」

当たり前だろという視線を投げつける刹希。
そんな冷たい視線にしくしくと嘘泣きを始める銀時に、新八と刹希は呆れながら見る。

「ちょっと、少しは助けてやろーとかそういうの無いんですか、アンタ」
「んだよ、俺にどーしろっての」

銀時は嘘泣きを止めて、いつもの面倒くさそうな態度を全面に押し出している。

「仕事の依頼なら出すもん出してもらわにゃ」
「銀さん、僕知ってんですからね。刹希さんがいない間に糖分大量に摂取して」
「ストーカーめェェ!!どこだァァァ!!」
「ちょっと銀時、今の話はどーいうこと?」
「成敗してくれるわっ!!」
「オイ、無視してんじゃねーよ」

席を立って店内で叫ぶ銀時はあからさまに冷や汗を流している。
刹希は黒い笑みを浮かべながら、銀時の着物を引っ張っている。

「そんなんで出てくるわけ……」
「なんだァァァ!!やれるものならやってみろ!!」
「ホントにいたよ」

他の客席の下から出てきたストーカーこと近藤勲。
そこで出てきちゃダメだろと顔を引き攣らせる刹希。

「ストーカーと呼ばれて出てくるとはバカな野郎だ。己がストーカーであることを認めたか?」
「人は皆、愛を求め追い続けるストーカーよ」
「全然上手くないですよ、近藤さん」

思わず口を挟んでしまった。
しまったと自分の口を塞ぐも、完全に近藤と目が合う。

「……」
「ていうか、気になってたんだけど、なんで刹希ちゃんがいるの?」
「え、何。お前このストーカーと知り合い?」

皆の視線が一斉に刹希に向けられる。

「えっと、この人はバイト先のお客さんで、お妙とは友達です」

簡潔にお互いの関係を言う。

「エェェェ!!刹希ちゃん、お妙さんと友達だったの!?なんで言ってくれなかったの!!」
「いや、あなたの好きな人がお妙なのを今知りましたからね!?」
「ホントよ、刹希さん。この人と知り合いなら早く私のこと諦めるよう言ってください」

ボキボキと指を鳴らして、お願いと言う名の脅迫をされる。
くそ!なんで仲介みたいになってるんだ!と奥歯を噛み締めてもどうにもならない。
とりあえず、お妙の手が出る前に自身の任務だけ果たしておくことにした。

「近藤さん、ほらお妙は近藤さんには勿体ないですよ。所謂、高嶺の花ですよ。それにあなたのケツ毛ごと愛してくれる人は世の中いっぱいいますよ!多分」
「刹希さん、最後の一言で台なしですからね」
「いや、やっぱり俺にはお妙さんしかいない!運命の赤い糸で結ばれてるんですよ!!」
「誰かハサミ持ってきてください。その汚れきった糸、断ち切りますから」

ニコニコ笑うお妙に、性懲りもなくアタックを続ける近藤。
お妙を高めなくてはいけないし、近藤の立場上の威厳も保たなくてはいけないし……。
なぜ全く関係ない刹希がこんなに疲れる必要があるのだろうか。
大きく溜め息をついていると銀時が不憫そうに見てきた。

「いや、お前頑張ったよ。ゴリラ夫婦持ち上げるなんてよくやってるよ。さすが俺の刹希ちゃん」
「誰がゴリラ夫婦だ、あ゛ぁ?」
「そうだ、ゴリラじゃなくて近藤夫婦だ!」
「いつ姉上の夫になったんだよアンタ!!」
「だから銀時のものになった覚えないよ」

少し喋っただけで集中攻撃を食らう銀時。
ある意味一番不憫なのは彼かもしれない。
何で俺だけこんな目に、と頭を抱える銀時に近藤はまじめな顔をして向き直った。

「というか、貴様。刹希ちゃん……ましてやお妙さんとも親しげに話しているが、一体どーゆー関係だ。うらやましいこと山の如しだ」
「刹希は俺のよめ」
「ちげーよ。近藤さんただの幼馴染です」

銀時の脇腹を思いっきりグーで殴り、爽やかに訂正する。
身悶えしている銀時に、今度はお妙が近付いて言った。

「実は許婚なんですぅ」

そういって、許婚同士に見えるようにちゃっかり銀時の腕を抱きしめる。

「私、この人と春に結婚するの」
「そーなの?俺としては刹希と結婚した――ぐべらっ」
「もうあんな事もこんな事もしちゃってるんです。だから、私のことは諦めて」

連発で殴られている銀時に若干同情しながら、いい断り方だなぁと傍から見ながら思う。
許婚がいるのに尚も迫ってくる人間そうはいない。

「あんな事もこんな事もそんな事もだとォォォォォ!!」
「いや、そんな事はしてないですよ」

当たり前だがその嘘で塗り固められた事実を真に受ける近藤。
だがまあ、ストーカーしてきたやつがこんな簡単に引くと思えないのもまた事実だ。

「いやっ!!いいんだ、お妙さん!!君がどんな人生を歩んでいこうと、俺はそのままの君を受け止めるよ。君がケツ毛ごと俺を愛してくれたように」
「愛してねーよ」

正直ドン引きである。
というかもう、保護者(真選組の土方)に連絡を取って連れて帰ってもらおうかとすら刹希は考え始める始末だ。

「オイ白髪パーマ!!お前がお妙さんの許婚だろーと関係ない!!お前なんかより俺の方がお妙さんを愛している!!決闘しろ!!お妙さんをかけて!!」

なんだか面倒くさい方向へ発展してしまったようだ。


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