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夜のかぶき町の一角、そこにお妙が働いているスナックすまいるはあった。

「どーせ俺なんて、ケツ毛ボーボーだしさァ。女にモテるわけないんだよ」

今日の相手は一日何か辛いことがあったのだろうか。
せっかくお酒を飲んで楽しむ場所だというのに、終始このふさぎ込みようである。

「そんなことないですよ。男らしくて素敵じゃありませんか」

そんな男に、お妙はフォローを入れる。
だが、彼はお世辞じゃないのかといううたぐりを含みながら、質問した。

「じゃあ、きくけどさァ。もしお妙さんの彼氏がさァ、ケツが毛だるまだったらどーするよ?」
「ケツ毛ごと愛します」

お妙の返しに男は、目を見開いて凝視した。

それはまさに菩薩。
全ての不浄を包みこむ、まるで菩薩だ。

その瞬間、男、近藤勲はお妙に心を奪われたのだった。



  *



「……そうだったんですか」

現在、冒頭のやり取りが行われてから数日が経った日のこと。
バイト先の小料理屋「あじさい」にて、刹希は目の前で顔を赤くしている近藤を見て呟いていた。

昼時で混んでいた店内に、珍しく近藤が来たので何かと思えば、腕を捕まれたのだ。

『あの、近藤さん?』
『刹希ちゃん!お願いだ、話聞いて!!』

泣きたいのか、照れているのか、切羽詰まっているのかわからない顔をして迫ってきた。
思わず持っていたお盆で彼の頭を叩いてしまった。
そして、客が引いてから話を聞くと約束し、近藤を大人しくさせた。

という経緯のもと、つい今し方近藤はお妙との出会いを刹希に語ったのだ。
もちろん、惚れた女がお妙ということは言ってないので、刹希は知るよしもない。

「近藤さんにもやっと好きな女性に巡り会えたんですねー」
「うん!俺は必ずあの人と結婚するよ!!」
「頑張ってくださいね」

まるで子供のようにはじゃく近藤を、刹希は終始棒読み感否めない口調で返している。
内心、それただの仕事上の受け答えですよ!絶対その人、その気ないですよ!と汗をかきながら叫ぶが口には出せない。

スナックで働いている女性なら、客の機嫌をとるためにそういう事をいうのは当たり前だ。
ここはばっさりと近藤のために言ってあげた方がいいのだろうが……。
目の前の近藤は、もう春真っ盛りと言った感じで、正直周りが見えているとも思えない。

(……近藤さん素直だからなぁ)

疑う事をしない彼は、最後まで人を信じようとする。
故に騙され易いし、自覚もない。
それに今、それお世話ですよ、なんて言っても、恋愛フィルターで否定されるのがオチである。

「私でよければ、相談に乗りますから。頑張ってください、近藤さん」
「ありがとう、刹希ちゃん!!」

そして、お妙に呼び出されたのがその二日後であった。


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bkm
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