刹希は会場を出て周囲を見回す。
些細な小さくても良いから、それを探して近くを走り回る。
「!あった」
小さな植え込みにささやかに生えている花。
刹希は数本それを摘んで、懐にしまってあった紙で花を包んで花束にする。
百万本には到底及ばないが、それでも男がお通を思っている気持ちはそれを補ってくれるだろう。
花束を優しく握りしめて、刹希は騒ぎの中心である会場内へ走って行った。
*
会場内へ駆け込んだ刹希が目にしたのは、お通を護る男の姿だった。
どうやら天人は親衛隊のメンバーのようだ。
一人だけでかくて異様な存在感を放っていたが天人だったとは、どこか納得した。
「銀時」
神楽と一緒に見物していた銀時に駆け寄る。
銀時は悠長に手を振って刹希に顔を向けた。
「よォ、早かったな」
「まあね。どうよ」
持っていた花束を銀時に見せる。
「上等じゃねーか、あとはおっさんの愛情がありゃ十分だろ」
ふっと銀時は笑って、刹希の頭を撫でた。
刹希も微笑み返すと、袂から小刀を取り出して、再度銀時を見上げた。
「ていうか、任せたって言ったのに、なんで傍観してるの?」
「いや違うよ」
何が違うんだ。と、まだ何も言っていないのに言い訳を始める銀時。
「俺がいなくても行けっかなってね」
「バカ言ってないで、とっとと終わらすからね」
銀時の肩を叩いて、神楽に行くよと声をかける。
刹希達は親衛隊が天人と交戦している真上に飛び上がり、三人揃って持っていた得物で打撃を与えた。
巨体を揺らして、ぶっ倒れた天人の上に着地した刹希達は、ステージにいる親子を見上げた。
「おじさん」
刹希は起き上がった男に声をかけて、手に持っていた花束を投げ渡した。
男は上手くそれを掴み取った。
「時間足りなくて百万本には到底及ばないですけど勘弁してくださいね」
「あとはおっさんの愛情でごまかしてくれや」
そう言い残して刹希達は会場を出た。
*
しばらくして会場内から男が出てきた。
「よォ、涙のお別れはすんだか?」
「バカヤロー、お別れなんかじゃねェ。また必ず会いにくるさ……今度は胸張ってな」
涙を流して宣言した男に刹希は笑みをもらす。
どうやら、娘は父との約束を覚えていたようだ。
2013.9.5