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真選組が入ってこないようにと箪笥や机を襖の前に移動している最中、髪がチリチリになった銀時が追い付いてきた。
土方に剣を向けられていて、少しだが心配していた刹希は銀時に駆け寄る。

「銀時、大丈夫だった?頭が」
「頭なの!?俺の命じゃなくて頭!?」
「いつも悲惨なのに、今はいつも以上に悲惨だよ……」
「グサッと来るんだけど。銀さん泣くんだけど!」

そうこうしている内に、外には真選組が集まってきているらしく、声を大にして出てくるよう言ってきている。

「とっとと出てきやがれ!つーか、刹希さんを出しやがれ!!」
「誰がテメーらなんかに俺の刹希出すか!!」
「だから銀時のものになった覚えないって言ってるでしょーが!!」

スパーンと頭を叩いて怒鳴る。
痛い!なんて言いながら銀時は刹希に眉を吊り上げてどうしようもないことを言ってきた。

「刹希もあんな奴等に良い顔しちゃいけません!」

拳に力が入ったが相変わらずのことすぎて振り上げることはしなかった。
ここまでくるとなんというか、怒りよりも頭を抱えてしまいたくなる。

「なんでよ。仕事なの、接客なんだから仕方ないでしょ」
「それじゃ、バイト辞めなさい」
「無一文になって、路頭に迷ってもいいなら」
「アンタら今そんな話してる場合ですか!!」

まるで痴話喧嘩のような言い合いをしているところを新八が遮ってきて、気持ちを切り替えた。

だが、いつまでも立て籠もっているわけにもいかない。
どうやってここから逃げようかと考えていると、後ろにいた小太郎が懐から出した球体の機械に顔をしかめた。

「小太郎、何ソレ」
「?……そりゃ、何のまねだ」

刹希の呟きに銀時も反応して小太郎を見た。
良いものではない気がプンプンする。

「時限爆弾だ」

その言葉に刹希は動きを止めた。
球体型のそれは、本当はターミナルを爆破するために用意していたという。
本当に、そんなバカな真似をしようとしていたのかと、刹希の心の中に黒いものが渦巻いた。

「コイツを奴等におみまいする……そのスキに皆逃げろ」

だが、そんな小太郎の胸倉を銀時が掴んだ。
その衝撃で爆弾は床に転がり、刹希が小太郎の手に届かないよう遠くへ軽く蹴った。

「……桂ァ、もうしまいにしよーや」

周りにいた攘夷浪士がざわめく中、銀時の静かに放った。

「てめーがどんだけ手ェ汚そうと、死んでった仲間は喜ばねーし、時代も変わらねェ。これ以上うす汚れんな」
「うす汚れたのは貴様だ、銀時」

反論してきた第一声に、刹希は眉間にしわを寄せる。

「時代が変わると共にふわふわしおって、武士たるもの、己の信じた一念を貫き通すものだ」
「小太郎」

真横に立った刹希が彼の名を呼び、振り返ったと同時に容赦なく平手打ちをくらわした。
それには銀時と小太郎含め、その場にいた全員が呆然とした。

「いい加減にしなよ、小太郎。そんなバカなガラクタ使ったって、時代は小太郎の思うようには変わらない。私達は力が足りなかった、それが全てじゃないの?戦いは終わってない?終わらせたくないだけで、事実を認めたくないだけなんじゃないの」

いっぱい言いたいことがあった。
でも、言葉にしてみると全然話がまとまらなくて、それが悔しかった。
伝わらないかもしれない。
一番言いたい部分が上手く言えないのだから当たり前だ。

「女子の刹希には分からぬのだ。俺達は、まだ諦めるわけにはいかない」
「分からない、だけど私は、小太郎にこんな事して欲しくないって思ってるよ」

仲間にしてやれることが何かなんて分からない。
元々自分にはそんな資格なんてないかもしれない。
小太郎の言うことが間違いだと、絶対違うのだと言えるわけでもない。
だが、この街の人達の人生危うくすることが正しいのか正しくないのかくらい、分からなくなったわけないはずだ。

「銀時もなんか言ってください」
「えっ、ここでいきなり吹っかけるの?」

自分が上手く言えない、言葉に出来ない何かを、銀時なら言ってくれる気がした。
戸惑っていた銀時だったが、刹希の頭を軽く叩いて小太郎に向き直る。

「まァ、どうせ命張るなら俺は俺の武士道貫くわ。俺の美しいと思った生き方をし、俺の護りてェもん護る」
「銀ちゃん、刹希」

折角銀時が良いことっぽい事を言ったのに、神楽が笑いながら声をかけてきた。
刹希達は疑問符を浮かべながら神楽を見ると、先ほどの爆弾を手にしていた。

「コレ……いじくってたら、スイッチ押しちゃったヨ」
「……え?」

そんな間の抜けた声を漏らしたの誰だっただろうか……。
先ほどとは違った意味で静まり返る室内には、爆弾の爆発までをカウントする電子音が響く。
刹希と銀時は顔を見合わせて、再び爆弾に視線を戻した。

とりあえず、しなくちゃならないことは分かるよ。

銀時は神楽から爆弾を奪い取るとそのまま部屋の外に駆け出していく。
それに続いて刹希と新八、神楽も後を追う。
四人揃って、襖の前にある机や箪笥もろとも蹴り出す。
部屋の外には真選組がいるが、爆弾を持っているこっちには関係ない。
隊士達は銀時達を止めろと騒ぐが、銀時は手に持っていた爆弾を見せて言う。

「止めるならこの爆弾止めてくれェ!!爆弾処理班とかさ……なんかいるだろオイ!!」

爆弾のカウントはもう残り十秒だ。
真選組は爆弾に気が付いて我先にと逃げていく。

「ちょっ、待てオイぃぃぃ!!」
「つ、使えないィィ!真選組使えないんだけどォォォ!!」

いつもは真剣で殺り合ってるくせに、爆弾ごときで逃げ出す真選組隊士連中に刹希は失望する。

「げっ!!あと六秒しかねェ!!」
「ちょ、銀時どうするの!?」

その会話中もカウントは続くわけで本気で慌てる大人二人。
そんな二人に新八は窓を指差して訴えた。

「銀さん、窓窓!!」
「無理!!もう死ぬ!!」
「死ぬならあっちで死んで!!」
「こういう時でも酷い!!」
「銀ちゃん、歯ァくいしばるネ」

その神楽が傘を構えているのを見た刹希は納得したようにすぐさま銀時から距離を取った。

「ほあちゃァァァァァ!!」
「ぬわァァァァァ!!」

神楽は思いっきり銀時を窓に向かって打った。
そして、銀時は窓を突き破って空中に放り出された。

「銀時!投げてェェ!!」

割れた窓に駆け寄りながら刹希は叫んだ。
地面に落下していく銀時は、体勢のままならない中でなんとか爆弾を天高く放り投げた。

刹那、爆弾は計った様に上空で爆発した。
爆風がホテル内を駆け抜けていく。
刹希に続いて窓の外を見遣る新八と神楽。

「ぎっ……銀さーん!!」
「銀ちゃん、さよ〜なら〜!!」
「バカ、死んでないよ」

横にいた神楽の頭を軽く叩きながら、反対側のビルの垂れ幕にしがみついている銀時を見た。
無事な姿を見つけて、ほっと溜息をつく。
相変わらず無茶ばかりして、こっちの心臓が持たない。

再び上空を見上げると一機の機船が飛び立っていくのが見えた。
長い黒髪を靡かせてこちらを見下ろしている姿は小太郎で、刹希は今日何度目か知れないため息を漏らした。

「逃げ足の早いことで。今度会うときはお土産持参じゃないと割に合わないよ、全く」
「それじゃ私卵かけご飯いっぱい食べれる量がいいアル!」
「我が家は金欠だからね、卵一年分もらえれば一ヶ月は持つかな!」
「それお土産のレベル超えてると思うんですけど!」





2013.8.19




(あとがき)
刹希は過去が色々面倒くさいことになっているので、
桂や高杉の言い分に全面的に乗っかるのは難しい。
かといって銀時らしい生き方も出来ないなんだかんだ言って不器用な子です。


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